概要
アリゾナの架空の鉱山「ノートン鉱山」を舞台に、発破によって出現した底知れぬ深淵と、そこから響く律動的な音に取り憑かれた坑夫ファン・ロメロの怪異な最期を、同僚の語り手が回想する一篇。
作品情報
- 執筆・発表年: 1919年9月16日執筆/1944年刊行の遺稿集「マージナリア」に初収録(生前未発表)
- 主題タグ: 地底の律動、インドの秘教的知識、消えた指輪、正体不明の深淵
登場神格・用語
(なし)
あらすじ
インドでの秘教的な体験を経て身分を隠しアメリカ西部で暮らす語り手は、1894年、ノートン鉱山で坑夫として働くうちに、混血のメキシコ人ファン・ロメロと親しくなる。ロメロは語り手が身につける古代ヒンドゥーの指輪に強い関心を示していた。ある日、深部での大規模な発破によって底知れぬ深淵が出現し、坑夫たちは恐れをなして作業を拒否する。その夜、嵐の中でロメロと語り手は地の底から響く律動的な音に目を覚ます。指輪が怪しく発光する中、二人は坑道を降りていき、やがてロメロは「ウィツィロポチトリ」と口走りながら語り手を置き去りにして闇の奥へと駆け出す。語り手が深淵の縁に辿り着いた瞬間、凄まじい叫喚と閃光が炸裂し、語り手は意識を失う。目覚めると、ロメロは謎の死を遂げて発見され、深淵は嵐による崩落で完全に塞がれていた。語り手の指輪もまた、二度と見つかることはなかった。
読みどころと注目テーマ
地底から響く得体の知れぬ律動という着想は、後年の地下世界・地底文明を描く諸作に連なる先駆的モチーフ。何が起きたのかを最後まで明示しない曖昧な語り口が、かえって恐怖の余韻を際立たせている。
執筆背景と影響
ラヴクラフトの創作活動ごく初期(1919年)の作品で、生前は発表されず、没後の1944年に遺稿集「マージナリア」で初めて世に出た。地底の未知なる律動というモチーフは、後年の「闇に囁くもの」など地下・地底世界を扱う作品群の萌芽として位置づけられる。


