概要
ラヴクラフトの現存する最初期の物語群の一つ。生涯にわたり夢想家であったと自称する語り手ジャーヴィス・ダドリーが、荒れ果てた一族の霊廟に憑かれていく過程を、彼自身の手記として語る。
作品情報
- 執筆・発表年: 1917年6月執筆/1922年3月発表(「ウィアード・テイルズ」誌)
- 主題タグ: 憑依と先祖返り、鍵のない扉、正気の判定不能性
登場神格・用語
(なし)
あらすじ
裕福な家に生まれながら現実世界に馴染めない夢想家ジャーヴィス・ダドリーは、幼い頃から、雷に打たれて焼け落ちた屋敷跡の丘に残る、ハイド家の荒れ果てた霊廟に強く惹かれていた。錆びた鎖と南京錠で閉ざされたその扉を開ける鍵を持たぬまま、彼は幾夜も廟の前で眠り、いつしか鍵を持たずとも中に入れると感じ始める。母方の血筋がハイド家に繋がるという系譜上の発見に触発され、ある夕暮れ、彼はついに廟の中へと足を踏み入れる。空の棺の一つ、「ジャーヴィス」の名を刻んだ棺に横たわった彼は、以来何かに憑かれたように霊廟へ通い続ける。父は、彼が実際には一度も鎖の扉を越えていないと証言し、南京錠も50年間触れられた形跡がないと言う。使用人ハイラムだけが彼の言葉を信じ、ある夜ついに鎖を破って廟の奥へ入ると、そこには「ジャーヴィス」とだけ刻まれた空の棺が実在していた。
読みどころと注目テーマ
信頼できない語り手、外部の証言との齟齬、狂気と真実の判定不能性
執筆背景と影響
ラヴクラフト現存最古の短編の一つ。後年の作品に頻出する「先祖の血に取り込まれる」というモチーフの原型がここに既に見られる。事実の裏付けが最後まで曖昧なまま終わる構成は、彼の初期作品に特有の実験性を示している。


