編集部注(拡張神話): 本記事が扱うザーは、H・P・ラヴクラフト存命期のパブリックドメイン原典には登場しません。オーガスト・ダーレス&マーク・ショーラーの合作「星の落とし子の棲み家」(The Lair of the Star-Spawn、1932年、Weird Tales)で追加された、後年の拡張神話に属する存在です。同作はarchive.orgで本文を確認でき、本記事の引用はすべて同作からのものです。
概要
盟友ロイガーと共に「双子の醜悪(the twin Obscenities)」と呼ばれる旧支配者[1]。ビルマ奥地を舞台にした「星の落とし子の棲み家」に登場し、ロイガーと共に地底都市アラオザルの奥深くに生きたまま埋められているとされる[2]。作中では「ザーはロイガーよりも強大で、より年長であり、その言葉は地下の者たちにとって法である」と語られ、双子とされながらも上下関係があることが示される[3]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 旧支配者 |
| 欧文表記 | ZHAR |
| 初出 | オーガスト・ダーレス&マーク・ショーラー「星の落とし子の棲み家」(1932年、Weird Tales) |
| 象徴するテーマ | 地底、忘れられた古代文明(「風」「アルクトゥルスからの飛来」といった設定は当サイトでは原典未確認) |
| 位置 | スン高原の地底都市アラオザル[2] |
初出作品
ザーの初出は、オーガスト・ダーレスとマーク・ショーラーの合作「星の落とし子の棲み家」(1932年、Weird Tales)である。
作中の舞台はビルマ奥地のスン高原で、ここに住む「チョー・チョー人」は、ロイガーとザーが再び立ち上がり全地を席巻する日を待っているとされる[4]。作中の舞台設定は、ラヴクラフト自身の詩「ポラリス」(1920年)に着想の一部を借りており、ダーレスとラヴクラフトの往復書簡でも題名や設定について相談がなされていたことが記録されている。ただし作品自体の執筆・発表はラヴクラフトの生前(1932年)ではあるものの、ザーという神格そのものの創造者はダーレス&ショーラーであり、ラヴクラフト自身の作品にザーは登場しない。
原典での描写
原典(H・P・ラヴクラフト自身の作品)にザーの記述は無い。創造者はオーガスト・ダーレスとマーク・ショーラーである。
「星の落とし子の棲み家」の中では、太古に地球へ来た「祖なる者たち」に対し、クトゥルフ・ハスター・ロイガー・ザーら「邪悪な者たち」が反旗を翻して敗れ、ハスターは宇宙へ逃れ、クトゥルフはルルイエへ封じられ、ロイガーとザーはアジア奥地のスン高原の下に生きたまま埋められたと語られる[2]。この場面でザーは、ハスターやクトゥルフと並ぶ対等な立場として描かれており、いずれかに仕えるという上下関係は本文には記されていない。
物語中盤、フォー・ラン博士は「ザーはロイガーよりも強大で、より年長であり、その言葉は地下の者たちにとって法である」と語り、双子とされる両者の間にも序列があることを明かす[3]。ただし本文中でザー単独の姿が具体的に描写される場面はなく、地下の洞窟で語り手エリック・マーシュが直接目撃し「あれがロイガーだ」と名指しされた怪物は、あくまでロイガーである(詳細はロイガーの記事を参照)。
ダーレス以降の変化
チョー・チョー人に属する信徒に「星の旅人の同胞団」を通じて崇拝され、適切な呪文でトゥルクという姿を通じて幻影を投影する力を持つとされるが、この設定は当サイトでは「星の落とし子の棲み家」の本文で確認できていない。「アルクトゥルス星から飛来した」という設定も同様に、当サイトでは初出作品の本文で確認できていない。ダーレスの体系化では、盟友ロイガーと共に風のエレメンタルに分類され、ハスターに仕える存在とされるが、これは初出作品よりも後のダーレスによる体系化に基づく位置づけであり、「星の落とし子の棲み家」自体はロイガー・ザーをハスターに従属する存在としては描いていない(「原典での描写」参照)。ロイガーとハスター・シュブ=ニグラスの子であるとする説もあるが、これは後世の資料に見られる一説であり、当サイトでは初出作品の本文で確認できていない。
その後のクトゥルフ神話関連作品でも、ロイガーとの対で紹介されることが多いとされるが、本記事執筆時点でこれらの後年の扱いを網羅的に裏付ける一次資料は未確認であり、確度の高い一般的傾向として記載するにとどめる。
TRPGでの扱い
テーブルトークRPGの設定でも、ロイガーとの対で紹介されることが多いとされる。ただし本記事執筆時点で、TRPG側の個別設定(化身・崇拝組織・シナリオでの扱いなど)を裏付ける一次資料は確認できておらず、詳細は未確認のままとする。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 星の落とし子の棲み家 | 1932 | オーガスト・ダーレス&マーク・ショーラー | ザーの登場。ロイガーとの「双子の醜悪」の設定、地底都市アラオザル、チョー・チョー人の信仰 |
その他の後年の登場作品については、本記事執筆時点で網羅的な一次資料の確認が取れていない。
関連神格・地域・書物
神格
- ロイガー — 盟友。共に「双子の醜悪」と呼ばれる[1]。作中ではザーの方がロイガーより強大かつ年長とされる[3]。「風のエレメンタル」への分類は当サイトでは初出作品の本文で確認していない
- ハスター — 初出作品では、クトゥルフ・ロイガー・ザーと並び「祖なる者たちに敗れた側」として名だけが挙げられる[2]。ザー・ロイガーがハスターに仕えるという上下関係は初出作品の本文には無く、ダーレスによる後年の体系化に基づく位置づけである
地域
- アラオザル — スン高原の地底都市。ザーとロイガーの棲み家とされる[2]
- スン高原 — 「星の落とし子の棲み家」の舞台
書物・関連作品
- ポラリス — ラヴクラフトの詩(1920年)。スン高原・チョー・チョー人の設定に着想の一部を与えたとされる
出典
- [1] “Lloigor and Zhar, the twin Obscenities, and others.”(訳: 「ロイガーとザー、双子の醜悪、その他の者たち」) — August Derleth & Mark Schorer, “The Lair of the Star-Spawn”, Weird Tales vol. 20, no. 2, 1932年8月, archive.org ↩
- [2] “Lloigor and Zhar were buried alive deep in the inner fastnesses of Asia — beneath the accursed Plateau of Sung!”(訳: 「ロイガーとザーはアジア奥地の秘境深く——呪われたスン高原の下に——生きたまま埋められた」) — August Derleth & Mark Schorer, “The Lair of the Star-Spawn”, Weird Tales vol. 20, no. 2, 1932年8月, archive.org ↩
- [3] “Zhar is greater than Lloigor, and of greater age, and his word is law to those below.”(訳: 「ザーはロイガーより強大で、より年長であり、その言葉は地下の者たちにとって法である」) — August Derleth & Mark Schorer, “The Lair of the Star-Spawn”, Weird Tales vol. 20, no. 2, 1932年8月, archive.org(原文OCRの誤字「7hit」「Hw」をそれぞれ「Zhar」「law」に訂正して引用した) ↩
- [4] “…the Tcho-Tcho people, the spawn of elder evil, and now these people await the day when Lloigor and Zhar will rise again and sweep over all the earth!”(訳: 「……チョー・チョー人、すなわち太古の悪の落とし子である彼らは、いまやロイガーとザーが再び立ち上がり全地を席巻する日を待っている」) — August Derleth & Mark Schorer, “The Lair of the Star-Spawn”, Weird Tales vol. 20, no. 2, 1932年8月, archive.org ↩
FAQ
Q. ザーはラヴクラフトが生み出した神格ですか。A. 違います。創造者はオーガスト・ダーレスとマーク・ショーラーで、1932年の合作「星の落とし子の棲み家」で登場しました。ラヴクラフト自身の作品にザーは登場しません。
Q. ザーとロイガーはどういう関係ですか。A. 盟友で、「双子の醜悪」と呼ばれます。共に地底都市アラオザルに棲み、ダーレスの体系化ではどちらも風のエレメンタルに分類され、ハスターに仕える存在とされます。
Q. ザーはハスターやシュブ=ニグラスと血縁関係にありますか。A. ロイガーとハスター・シュブ=ニグラスの子であるとする説がありますが、これは後世の資料に見られる一説で、原作でどこまで明言されているかは確認できていません(未照合)。
Q. ザーは何のエレメンタルに分類されますか。A. ダーレスの体系化では風のエレメンタルとされ、盟友ロイガーと共にハスターに仕えるとされます。
Q. 「星の落とし子の棲み家」の設定はラヴクラフトと無関係ですか。A. 完全に無関係ではありません。舞台設定(スン高原・チョー・チョー人)はラヴクラフトの詩「ポラリス」(1920年)から着想の一部を借りており、ダーレスとラヴクラフトの往復書簡でも題名や設定について相談された記録があります。ただしザーという神格そのものの創造者はダーレスとショーラーです。



