カレンダー型ソロゲーム(1人用・2026年9月7日発売) — 365 Abenteuer – Cthulhu 1927 [Kalender Edition 2027]

365 Abenteuer – Cthulhu 1927 [Kalender Edition 2027]

独Pegasus Spieleが発売した、箱ではなくカレンダーで遊ぶ1人用ゲーム。私立探偵John Millerとして、1日5分・365日かけてインスマスの怪異を調べていく。原典「インスマスの影」の出来事が一昼夜に凝縮されているのと対照的に、この商品は同じ舞台を1年365日へ引き延ばして遊ばせる。

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新潮文庫『インスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則編訳)。本作が舞台とするインスマスを描いた原典「インスマスの影」を収録している。

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概要

独Pegasus Spieleは、カレンダー型の1人用ゲーム『365 Abenteuer – Cthulhu 1927 [Kalender Edition 2027]』を、公式商品ページ上で2026年9月7日から取り扱い開始している[1]。価格は19.99ユーロ(税込・送料別)、品番18903G、EANは4250231745263。確認した時点(2026年9月11日)で在庫は「Sofort verfügbar, Lieferzeit: 3-5 Werktage(即納、配送は3〜5営業日)」と表示されており、入荷通知の受付段階ではなく、すでに購入・出荷が可能な状態にある[1]。デザインはJuhwa Lee氏。対象は10歳以上、1人用で、プレイ期間は1年間とされる[1]。

商品の形態は書籍サイズの箱ではない。公式ページの内容物欄には「1 Kalender, 1 Magnetfigur mit Gegenstück, 5 Würfel, 1 Anleitung(カレンダー1点、対になる磁石つきフィギュア1体、ダイス5個、説明書1冊)」とだけ記載されている[1]。サイズは24cm×21cm×3cm、重量440g。ジャンル分類は「Würfelspiele(ダイスゲーム)」の下の「Familienspiele(ファミリーゲーム)」である[1]。

どんな作品か

公式ページの紹介文を要約すると、プレイヤーは私立探偵John Millerとなり、沿岸の町インスマスで「忘れられた儀式、沈んだ遺物、隠された存在」を追う[1]。遊び方は次の手順に集約される。カレンダー上の磁石式の主人公コマをその日の日付へ動かし、ダイスを最大3回振ってその週の遭遇を解決する。月が変わるごとに物語の続きが明かされ、新しいルールや魔法のアーティファクトが追加される。月末には獲得したポイントを集計し、次の章へ進む[1]。1日あたりの所要時間は最大5分とされ、これを1年間続ける設計になっている[1]。

公式ページの文章は、John Millerの得物を「懐中電灯とリボルバーと不屈の決意」と描写し、彼が向かうのは「アーカムの通りではなく、太古の秘密を隠す不気味な海」だと述べている[1]。「深きものども」や「ダゴン秘密教団」といった固有名詞そのものは公式ページの説明文には出てこないが、儀式・遺物・海からの存在という要素立ては、当サイトのインスマス記事やインスマスの影記事で確認した原典の骨格と重なる。

原典の一昼夜と、365日×5分という時間設計

当サイトのインスマスの影記事で確認した通り、原典で語り手がインスマスの町に足を踏み入れてから、深夜にギルマン・ホテルを脱出し、暗礁から上陸する深きものどもの群れを目撃するまでの中心的な出来事は「一昼夜の出来事」として綴られている。バスでの到着、街の探索、ゼイドック・アレンから聞き出す秘史、そして夜の逃走劇という原典の骨格は、丸一日と一晩という短い時間の中に収まっている。政府による強制捜査はその年の冬に続くと語られるが、恐怖そのものの体験は一昼夜で完結する構成である。

この商品が採用しているのは、その正反対の時間設計だ。1日に許される行動は「ダイスを最大3回振って、その週の遭遇を1つ解決する」ことだけであり、しかも1日の所要時間は5分が上限とされる。原典が一晩のうちに畳みかけた恐怖の密度を、この商品は1年365日に薄く延ばして再配置している。週単位で区切られた「遭遇」が52回前後積み重なり、月替わりごとに新しい章と新しいルールが解禁されるという構造は、一気に読み切れる中編小説を、日々の生活の隙間に差し込む習慣的な体験へと作り替える試みと言える。原典の一昼夜が持っていた「その晩のうちに町から逃げなければならない」という切迫感は、この設計のもとでは維持しようがない。1日の行動が終われば、翌日まで物語は先に進まないからだ。恐怖を凝縮する原典の語り口と、恐怖を習慣化するこの商品の遊び方は、同じインスマスという舞台を扱いながら、時間に対する態度がまったく異なっている。

なお、公式ページの文章と内容物一覧からは、このカレンダーが実際の2027年の曜日・日付と対応する暦(1月1日から12月31日まで実在の日付が印字されたもの)なのか、あるいは実在の暦とは無関係な365日分の通し番号にすぎないのかを判別できなかった。「Kalender Edition 2027」という商品名は前者を示唆しているが、この点は当サイトでは確認できていない。

内容物の構成そのものも、時間設計の意図をうかがわせる。この商品には「箱」がなく、内容物は「カレンダー1点、対になる磁石つきフィギュア1体、ダイス5個、説明書1冊」とされている[1]。サイズは24cm×21cm×3cmで、重量は440g。壁掛けカレンダーとして卓上や壁に置いておける寸法感であり、コマを磁石で毎日動かすという操作も、棚から箱を出して広げるボードゲームとは異なり、日常の動線に組み込む前提で作られている。原典が読者に一晩で読み切らせる構成だったのに対し、この商品は物理的な置き方そのものによって、1年という時間の外に持ち出せない仕組みになっている。

「1927」という西暦が符合する場所

商品名に含まれる「Cthulhu 1927」という年号は、単なる時代設定の飾りではない。当サイトのインスマスの影記事で確認した通り、原典の語り手がインスマスを訪れるのは「1927年7月、語り手の二十一歳の誕生日を祝う旅の途中」であり、政府による強制捜査は「同年冬から翌年にかけて」行われたと記されている。つまりこの商品は、原典が明示する舞台年そのものを商品名に採用していることになる。

もっとも、公式ページの説明文が描くJohn Millerという私立探偵は、原典に登場する匿名の語り手とは別の人物である。原典の主人公は名を明かさない一人称の語り手であり、私立探偵という設定も持たない。年号だけを原典と揃え、主人公を独自のキャラクターに置き換えるという作り方は、原典の舞台と年代を借用しながら、そこで動く人物は後発の創作者が新たに用意するという構成であり、この点では後続作家がインスマスという舞台を借りて新たな物語を書き継ぐ構図に連なる。

クトゥルフ神話としての立ち位置──三層のどこにも明記されない

当サイトが記事ごとに区別している「神話の三層」(ラヴクラフト原典・ダーレス以降の拡張・TRPGによる拡張)に照らすと、この商品の位置づけは判然としない。公式商品ページの本文・詳細情報のどこにも、TRPG『クトゥルフの呼び声』の版元Chaosiumの名前やライセンス表記は見当たらなかった。ジャンル分類も「ダイスゲーム」「ファミリーゲーム」であり、TRPGのルール体系やキーパー(進行役)を必要とする設計でもない。つまりこの商品は、Chaosiumが体系化した第3層の設定(深きものども・ダゴン秘密教団といった固有名詞の扱い方や、TRPGのルールブックが定める数値)を引き継いだ製品とは言い切れない。

一方で、原典そのものを再録した書籍でもなく、ラヴクラフト自身の文章に忠実な翻案でもない。町の名、舞台年、海からの存在という原典の骨格だけを取り出し、私立探偵John Millerという独自の主人公と、365日という独自の進行形式を組み合わせた、Pegasus Spiele独自の創作物と見るのが実態に近い。ラヴクラフトの作品そのものは既に著作権の保護期間を終えており、インスマスという地名やその舞台設定を第三者が自由に用いること自体は珍しくない。この商品は、原典の骨格を借りながら独自のゲームデザインを組み立てた一例であり、三層のいずれにも属さない独立した商業企画として扱うのが実情に沿う。

同じ「週ごとの遭遇を最大3回のダイスロールで解決する」という判定方式も、TRPG『クトゥルフの呼び声』が採用する対抗ロールや技能判定とは別物である。CoCの判定は、探索者ごとに設定された技能値のパーセンテージに対して1d100を振るという、キャラクターの個性を反映する仕組みを持つ。対してこの商品の判定は、公式ページの説明を読む限り、John Miller本人の技能値や成長要素には触れられておらず、週替わりの遭遇に対して一律にダイスを振るという、より単純な運試しに近い構造だとうかがえる。判定方式の細部まで踏み込んだ比較は、説明書そのものを確認できていない現時点ではできない。

深淵書架としての評価軸に立てば、この商品の価値は中程度にとどまる。原典との接点は舞台の地名と年号、そして海の存在という骨格に限られ、深きものどもやダゴン秘密教団といった当サイトが記事化している固有名詞への踏み込みは、公式ページの説明文を見る限り確認できない。1日5分・1年継続という形式そのものは類例の少ない変わり種だが、原典やTRPGの設定を深く掘り下げる商品ではなく、インスマスという舞台を借りた習慣化ツールという位置づけで捉えるのが適切だ。

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出典

  • [1] Pegasus Spiele公式商品ページ「365 Abenteuer – Cthulhu 1927 [Kalender Edition 2027]」(2026年9月11日、ページ本文をcurlで取得し確認)。価格が19.99ユーロ(税込・送料別)であること、品番18903G・EAN 4250231745263であること、在庫状況が「Sofort verfügbar, Lieferzeit: 3-5 Werktage」(即納、配送3〜5営業日)であること、「Im Sortiment seit」欄が2026年9月7日であること、デザイナーがJuhwa Lee氏であること、対象が10歳以上・1人用であること、プレイ期間が1年間であること、内容物が「1 Kalender, 1 Magnetfigur mit Gegenstück, 5 Würfel, 1 Anleitung」であること、サイズ24cm×21cm×3cm・重量440gであること、ジャンル分類が「Würfelspiele」「Familienspiele」であること、紹介文にJohn Millerという私立探偵とインスマスという舞台が明記されていること、遊び方(カレンダー上のコマ移動・週の遭遇に対し最大3回のダイスロール・月替わりでの物語進行と新ルール追加・月末のポイント集計)が記載されていること、本文・詳細情報にChaosiumの名やライセンス表記が見当たらないことを確認。https://pegasus.de/365-Abenteuer-Cthulhu-1927-Kalender-Edition-2027/18903G ↩

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