概要
『Call of Cthulhu: Old Ones Origins』は、Chaosium Inc.が開発中のボードゲームで、クラウドファンディングプラットフォームGamefoundにてプロジェクトページが公開されています。Chaosium公式ブログの告知によれば、舞台設定は次のように説明されています。
“Journey back eons before humanity existed and take command of one of the Great Old Ones in a battle for dominance over a world that has yet to be shaped.”(訳: 「人類が存在するはるか以前へと遡り、いまだ形を成していない世界の支配権をめぐる戦いで、グレート・オールド・ワンの一柱を指揮せよ」)[1]
Gamefoundのプロジェクトページに掲載されたゲーム概要でも、2〜4人向けの競技型・非対称戦略ゲームで、プレイヤーはそれぞれクトゥルフ神話の神格に帰依する独自の「勢力(faction)」を指揮する、と紹介されています[2]。デザイナーはSamuel W. Bailey氏で、同氏が過去に手がけた非対称エリアコントロールゲーム『Forbidden Stars』の系譜を継ぐ作品と位置づけられています。対応年齢14歳以上、プレイ人数2〜4人、プレイ時間180分[2]。ページが掲げるタグは「strategy(戦略)」「area control(エリアコントロール)」「multiplayer(多人数)」「competitive(競技型)」「asymmetric(非対称)」の5つで、プロジェクト本文にも「Factions(勢力)」と「Influences(影響力)」という見出しが立っている[2]。勢力を配して盤面の領域を争う型の作品であることが、タグの水準でも示されている。本サイトで2026年9月14日にGamefoundのプロジェクトページを直接確認したところ、クラウドファンディングキャンペーンはまだ開始されておらず、支援者数0・調達額0ドルのまま、フォロー登録者数16,274人という段階にとどまっていました[2]。ページは「Follow now to get a free gift.(いまフォローすると特典がもらえます)」と表示しており、フォローの見返りが用意されていることも確認できます[2]。正式なキャンペーン開始日は現時点でも公表されていません。
開発更新で分かったこと
2026年8月14日公開の開発更新「Yithian Archives: Record #03. Four Factions! What to expect from the campaign!」で、プレイ可能な4勢力が公式に明らかにされました[3]。明かされた4勢力は、クトゥルフ・ハスター・Shub-Gorath(原文ママ。一般的な日本語表記は「シュブ=ニグラス」)・ヨグ=ソトースです[3]。更新記事は、各勢力がそれぞれ『Call of Cthulhu』シリーズの旧支配者たちの特徴に着想を得た、完全に非対称な固有の能力を持つと説明しています[3]。
確認できた開発状況は以下の通りです。
- 基本ルールは全勢力共通: 手順(スキームの選択→影響力の割り当て→解決)、4種類の「影響力(ascension・conjuration・domination・invasion)」、勝利条件(敵の封印を破ること)はすべての勢力で同一。
- 非対称性は「何をするか」ではなく「どうするか」に宿る: デザイナーダイアリーによれば、各勢力はユニット・スキーム・対立デッキ(コンフリクトデッキ)・影響力アップグレードをそれぞれ独自に持ち、さらに選択する「アバター」によってもプレイ内容がカスタマイズされる。
- 前身作との関係: デザイナーのSamuel Bailey氏は、本作を『Forbidden Stars』(James Kniffen氏との共作。Golden Geek賞にノミネートされたウォーハンマー題材のボードゲーム[1])の再設計版と位置づけており、7年をかけて開発したと述べています[3]。ゲーム専門メディアWargamerのMollie Russell記者はGen Con会場で試遊した上で、本作が『Forbidden Stars』の単なる「reskin(見た目だけの改装)」ではないと明言し、複数の変更点を挙げています[4]。同記事によれば、ラウンドが3フェイズに分かれる基本構成自体は維持されているものの、冒頭に手番順と即時・継続効果を決める「スキームカード」を選ぶ工程が新たに加わり、続く配置フェイズは『Forbidden Stars』同様に影響力マーカーを伏せて置くブラフ要素を残しているといいます[4]。Bailey氏はデモの場でRussell記者に対し、攻撃的に攻めるなら「The Stars Are Right」のようなカードでユニットをワープさせ全軍に飛行能力を与えられる一方、守備的に構えるならユニットを犠牲にして資源を得つつ湧出地点を強化するカードも選べる、と具体例を挙げて説明したとされています[4]。
- キャンペーン開始時期: 更新記事は正式な開始日を明かさないまま、「まもなく発表する」とだけ述べて締めくくられています[3]。本サイトで2026年9月14日に確認した時点でも、正式な開始告知はまだ出ていません[2]。
未確認・未公開の事項として、勢力ごとの具体的な能力・ステータス数値、日本語版展開の有無、正式なキャンペーン開始日・目標金額があります。
追記——キャンペーン開始前にフルプレイスルーが公開された
Chaosium公式ブログは、The Brothers Murphによる本作のフルプレイスルー映像の公開を告知しました[5]。告知文は本作を「『Forbidden Stars』の制作者サミュエル・ベイリーが設計した、戦略的なプレイとボードゲームにおける真の非対称性を好むプレイヤーのための作品」と位置づけています[5]。
Chaosium自身が「true asymmetry(真の非対称性)」という言い方を選んでいる点は、上で確認した開発更新の説明——勝利条件と手順は全勢力共通で、非対称性はユニット・スキーム・対立デッキ・アバターの側に置かれている——と合わせて読むと、この作品が何を売りにしようとしているかが分かります。すべてのプレイヤーが同じ目標を別の道具立てで追う、という設計です。
同じ告知文は読者に対し、Gamefound上でキャンペーンをフォローすれば「キャンペーンが始まる瞬間に通知を受け取れる」と呼びかけています[5]。つまりこの告知の時点でも、クラウドファンディングはまだ始まっていません。公開されたのは実プレイの映像だけで、開始日はここでも明かされていません。本作を「クラウドファンディング実施中」と紹介するのは、この時点では誤りになります。
神話存在を「勢力」に分ける発想の系譜
「神話の存在を分類して操作対象にする」という発想は、ラヴクラフトの原典には存在しませんでした。本サイトの「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定」三層ガイドが示す通り、ラヴクラフト自身の小説には体系だった神格分類も系譜図もなく、彼が読者に与えたのは「事典ではなく暗示」でした。
この状況を最初に体系化しようとしたのが、ラヴクラフトの死後に活動したオーガスト・ダーレスです。ダーレスは神格を火・水・地・風の四大元素に結びつけ、クトゥルフを水、ハスターを風として対立関係に位置づけ、さらに「善なる旧神(Elder Gods)」対「悪しき旧支配者(Great Old Ones)」という善悪二元論の構図を持ち込みました。これも原典にはない、後続作家による追加的な体系化です。
この分類をさらに「遊べるルール」として整理し直したのがTRPGでした。「旧支配者・外なる神・旧神」用語ガイドが整理する通り、1981年のChaosium社『クトゥルフの呼び声』TRPGは、神格を「旧支配者(グレート・オールド・ワン)」「外なる神(アウター・ゴッド)」「旧神(エルダー・ゴッド)」というカテゴリーに分類し、ステータスやSAN値減少表として数値化しました。同ガイドによれば、この分類でヨグ=ソトースは「外なる神」――クトゥルフやハスターより根源的で、宇宙の内側に眠る「旧支配者」とは区別される存在――として扱われるのが一般的です。
『Old Ones Origins』はこの系譜のさらに先で、独自の再体系化を行っています。興味深いのは、Chaosium自身の告知文が、TRPGの分類では「外なる神」に区分されるヨグ=ソトースを含めて「take command of one of the Great Old Ones(グレート・オールド・ワンたちの一柱を指揮する)」と表現している点です[1]。TRPGが厳密に分けた「旧支配者/外なる神」の境界を、この告知文はそのまま踏襲していません。加えて開発更新が明かした「勢力ごとのユニット・スキーム・対立デッキ・アバター」という構造は、ダーレスの四大元素説やTRPGのSAN値減少表とも異なる、非対称戦略ボードゲームとして機能させるために独自に必要となった体系です。TRPGがプレイ可能なゲームにするための数値化を必要としたのと同じ理屈で、本作は「対称的でない4勢力の攻防」を成立させるための独自の勢力デザインを必要とした、と言えます。
なお、この「勢力」という枠組みが、TRPGの「旧支配者/外なる神」分類を意図的に踏襲したものか、それとも独立した再体系化かは、現時点の公式資料では明言されていません。この対応関係の有無については、続報を待って確認する必要があります。
出典
- [1] Chaosium Inc.「Call of Cthulhu: Old Ones Origins is now live on Gamefound!」原文: “Journey back eons before humanity existed and take command of one of the Great Old Ones in a battle for dominance over a world that has yet to be shaped.”。同記事はSamuel W. Bailey氏を”one of the designers of the Golden Geek-nominated Forbidden Stars”と紹介している(chaosium.com公式ブログ、投稿者Michael O’Brien、2026年7月31日) — https://www.chaosium.com/blogcall-of-cthulhu-old-ones-origins-is-now-live-on-gamefound/ ↩
- [2] Gamefound「Call of Cthulhu: Old Ones Origins by Chaosium Inc.」プロジェクトページ。「2〜4人向けの非対称ゲームで、各プレイヤーはクトゥルフ神話の神格に帰依する独自の勢力を指揮する」という概要説明、対応年齢14歳、プレイ人数2〜4人、プレイ時間180分の表記、タグ「strategy / area control / multiplayer / competitive / asymmetric」、見出し「Factions」「Influences」、「Follow now to get a free gift.」の表示、および支援者数0・調達額0ドル・フォロワー16,274人という状況(2026年9月14日の夕方に本サイトが再取得した値。同日の先行確認ではフォロワー16,220人と記録していたが、フォロワー数は時々刻々変わる。一方プレイ時間について、再取得時のページ本文には「180 min」とのみ表示され、「120」「240」の文字列はページ上に存在しなかったため、本文の表記を180分へ改めた)(いずれもページ埋め込みの公開データを2026年9月14日に本サイトが直接確認。同ページはJavaScriptで内容を描画するSPAで、機械的な単純HTTP取得では本文が読み取れないため、本サイトはブラウザ相当の取得で内容を確認している) — https://gamefound.com/en/projects/chaosium/call-of-cthulhu-old-ones-origins ↩
- [3] Chaosium Inc.「Yithian Archives: Record #03. Four Factions! What to expect from the campaign!」。4勢力(クトゥルフ・ハスター・Shub-Gorath・ヨグ=ソトース)の公開、各勢力が『Call of Cthulhu』の旧支配者に着想を得た完全非対称の能力を持つという説明、デザイナーSamuel Bailey氏が本作を7年かけて設計・再設計したと明かしている記述、正式なキャンペーン開始日は「very, very soon」に発表するとのみ述べられ明かされていない点を、本サイトが2026年9月14日に確認([2]と同じくJavaScript描画のSPAであることの注記も同様) — https://gamefound.com/en/projects/chaosium/call-of-cthulhu-old-ones-origins/updates/3 ↩
- [4] Mollie Russell「Old Ones Origins board game preview: 5 biggest changes from Forbidden Stars」原文冒頭: “‘Alright, famed Warhammer board game Forbidden Stars is about Cthulhu now – but is this just a reskin?’ After a brief demo of the prototype at this year’s Gen Con, I have the answer: absolutely not.”(Wargamer、著者Mollie Russell、2026年8月11日) — https://www.wargamer.com/old-ones-origins/gen-con-preview ↩
- 参考: Michael O’Brien「A new project is coming from the Chaosium Board Games team! – Call of Cthulhu: Old Ones Origins」(chaosium.com公式ブログ、2026年7月18日) — https://www.chaosium.com/bloga-new-project-is-coming-from-the-chaosium-board-games-team-call-of-cthulhu-old-ones-origins/ (本作の開発着手を最初に告知した記事。本文の引用の直接の出典ではないが、経緯資料として掲載)
関連記事(本サイト内)
- 「原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話」
- 「旧支配者・外なる神・旧神——神格の分類用語を整理する」
- [5] Chaosium Inc.「How did the cosmic battles unfold? Check out this amazing playthrough by The Brothers Murph of Call of Cthulhu: Old Ones Origins」原文: “Designed by Samuel Bailey, the creator of Forbidden Stars, Call of Cthulhu: Old Ones Origins is built for players who enjoy strategic gameplay and true asymmetry in board games.”、および “Follow the campaign on Gamefound to be among the first to receive updates, unlock an exclusive follower reward, and get notified the moment the campaign launches.”(chaosium.com公式ブログ、投稿者Michael O’Brien。同ページの日付表記は2026年9月14日。本サイトの以前の記述は9月13日としていたが、2026年9月14日に取得したページの表記に合わせた) — https://www.chaosium.com/bloghow-did-the-cosmic-battles-unfold-check-out-this-amazing-playthrough-by-the-brothers-murph-of-call-of-cthulhu-old-ones-origins/ ↩
