編集部注(層の区分と裏づけの範囲): クトーニアンは、H・P・ラヴクラフト本人の作品には登場しない。ラヴクラフト公式サイトが公開する作品一覧にも、この種族名も『地を穿つ魔』も見当たらない[3]。当サイトの三層区分はラヴクラフトの死(1937年)より前の発表か後かで分けており、初出は1972年から1974年にかけてなので、本記事は拡張神話(ダーレス以降)として扱う[1][2]。
裏づけの範囲を先に書く。ラムレイ作品の本文を当サイトは照合していない。著作権の存続する作品で、公開されたスキャンも見つからなかった。誰がいつどこに発表したかという書誌事実は書誌データベースの記録で確認して断定的に記し[1][2][4]、形態・生態・勢力関係といった設定は「とされる」と断って区別する。原文からの引用は行わない。
概要
クトーニアンは、イギリスの作家ブライアン・ラムレイが生み出した、地中に潜む巨大な知的種族である。超常現象研究家タイタス・クロウを主人公とする連作の第1作『地を穿つ魔』で登場した[1]。
この種族の面白さは、怪異の説明の向きが逆になっている点にある。原因不明の地震群という現実側の現象から出発し、その下に潜む存在へ遡っていく。姿の見えない恐怖から始めて正体を最後まで伏せるラヴクラフトの筋立てとは、組み立てが反対である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 独立種族。旧支配者シュド=メルを長格とする一族とされる[5] |
| 欧文表記 | CTHONIANS(Chthonians) |
| 初出 | 長編『The Burrowers Beneath』(ブライアン・ラムレイ、DAW Books、1974年2月)[1] |
| 先行する同題の短編 | 「The Burrowers Beneath」(1972年3月、ファンジン『HPL』所収)[2] |
| 三層区分 | 拡張神話(ダーレス以降)。基準は1937年より後の発表であること |
| 連作上の位置 | 「タイタス・クロウ」シリーズ第1作[1] |
| 主な居住域 | 地球の地殻内部・地下深部[5] |
| 訳語・表記ゆれ | 「地を穿つ者ども」。日本語表記は資料により「クトーニアン」「クトニアン」「クソニアン」と揺れる |
初出作品
初出は長編『The Burrowers Beneath』で、発表は1974年2月。版元はDAW Books、叢書はDAW Collectorsの第91番である[1]。書誌データベースの作品記録は本作を「タイタス・クロウ」シリーズの第1作として登録している[1]。以前の版の本記事はこれを「中編」としていたが、記録上の種別は長編(NOVEL)である。
同じ1974年2月に、カナダのNew American Library of Canada版も出ている。翻訳ではドイツ語版『Die Herrschaft der Monster』(Pabel、Vampir Taschenbuch叢書第29番、1975年12月9日)が記録されている[1]。
長編に先立つ同題の短編がある。書誌データベースには、同じ「The Burrowers Beneath」という題の短編が1972年3月の作品として別に登録されており、掲載先はミード&ペニー・フリアソン夫妻が編んだファンジン『HPL』である[2]。同誌は同年10月にも版を重ねている。商業出版の長編より2年早く、同人誌の側で同じ題の作品が出ていたことになる。当サイトはいずれの本文も照合していないため、この短編にクトーニアンが登場するかどうかは確認していない。
ラヴクラフト公式サイトの作品一覧に、『地を穿つ魔』もクトーニアンの名も含まれない[3]。
原典での描写
原典に、クトーニアンの記述は存在しない。ラヴクラフト本人の作品にこの種族が登場したことはなく、形態・生態・勢力関係のいずれについても、ラヴクラフトが書き残したものはない[3]。現在流通しているクトーニアン像は、すべてラヴクラフトの死後にラムレイが設計した層に属する。
ダーレス以降の変化
クトーニアンという種族そのものが、ダーレス以降の拡張神話の産物である。以下の設定は、いずれも当サイトが本文を照合していない[5]。
- 形態と特徴。粘液に覆われた巨大な肉体と、頭部に生えた触手状の器官を持つ。高温には強い一方、水を最大の弱点とし、大量の水にさらされると弱体化するとされる。地中を高速で掘り進み、その巨体の移動そのものが地表では原因不明の地震として観測されるという
- 性質・生態。長命かつ高い知能を持ち、個体間はテレパシーで結びついているとされる。幼体を人間が捕獲・傷つけた場合、群れ全体が地球規模の報復に出るという強い同族意識が設定されている
- 他の存在との関係。旧支配者シュド=メルを長格として仰ぐ一族とされ、連作の世界観ではクトゥルフを王とする邪神群CCD(Cthulhu Cycle Deities)の一員として、旧神側と敵対する構図に組み込まれる。この善悪二元論的な対立はラムレイが独自に発展させた体系で、ラヴクラフト自身の作品には見られない
- 先行作品との関係。地底に潜む脅威という発想は、ラヴクラフトが「狂気の山脈にて」で描いたショゴスなどとも通じるが、クトーニアンはラムレイが独自に設計した一族であり、先行作品の設定を直接引き継いだものではない
- 作風。旧支配者側を明確な「悪」、旧神側を明確な「善」として描く、勧善懲悪的な冒険活劇の色合いが強いことで知られる。クトーニアンとの戦いも、正体不明の宇宙的恐怖というより、正体の判明した強敵との攻防として描かれる点が、ラヴクラフトとの違いとしてしばしば指摘される
連作の広がりも書誌で追える。「タイタス・クロウ」シリーズは、書誌データベース上で全6作として登録されている[6]。
| # | 原題 | 発表 |
|---|---|---|
| 1 | The Burrowers Beneath | 1974年 |
| 2 | The Transition of Titus Crow | 1975年 |
| 3 | The Clock of Dreams | 1978年 |
| 4 | Spawn of the Winds | 1978年 |
| 5 | In the Moons of Borea | 1979年 |
| 6 | Elysia: The Coming of Cthulhu | 1989年 |
第1作は各国語に訳されており、ドイツ語(1975年)、フランス語(1976年)などの版が記録されている[1][6]。15年にわたって書き継がれた連作の、その入口にクトーニアンが置かれていることになる。ただし第2作以降にクトーニアンがどう関わるかは、当サイトでは本文を照合していない[5]。
書き手の置かれた場所も見ておきたい。ラムレイは1975年、アーカム・ハウスのアンソロジー『Nameless Places』(編ジェラルド・W・ペイジ)にも作品を寄せている[4]。同じ巻には、アイホートを生んだラムジー・キャンベル、イドラーを生んだウォルター・C・デビル・ジュニア、イダ=ヤーを生んだリン・カーターが並ぶ[4]。1970年代半ばの拡張神話は、数人の書き手が同じ版元の同じ巻に集まる程度の広がりの中で動いていた。
TRPGでの扱い
クトゥルフ神話TRPGの公式資料がクトーニアンをどう扱っているかは、当サイトでは確認していない。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | 確認の状態 |
|---|---|---|---|
| The Burrowers Beneath(短編) | 1972年3月 | ブライアン・ラムレイ | ファンジン『HPL』所収。同題だが、クトーニアンの登場は未照合[2] |
| The Burrowers Beneath(長編、邦題『地を穿つ魔』) | 1974年2月 | ブライアン・ラムレイ | 初出とされる。書誌は確認済み、本文は未照合[1] |
| タイタス・クロウ・サーガ以後の作品 | 1974年以降 | ブライアン・ラムレイ | 攻防の継続。個々の作品は未照合[5] |
関連神格・地域・書物
神格・種族
- シュド=メル — クトーニアンが長格として仰ぐ旧支配者とされる
- クトゥルフ — ラムレイの世界観でCCDの王とされる神格。クトーニアンはこの陣営に属する
- 旧神 — ラムレイ設定における対抗勢力
- ショゴス — 地底の脅威という発想を共有するが、設定を直接引き継いだ関係ではない
人物
- ブライアン・ラムレイ — 創造者
分類の考え方
参考文献
- [1] 書誌データベースISFDB「The Burrowers Beneath」Title Record #10250(該当ページ)。著者ブライアン・ラムレイ、1974年2月、種別NOVEL、シリーズ「Titus Crow」第1作。同記録の収録一覧で、DAW Books(DAW Collectors #91、1974年2月)、DAW Books / New American Library of Canada版(同月)、ドイツ語版『Die Herrschaft der Monster』(Pabel、Vampir Taschenbuch #29、1975年12月9日)を確認した。ISFDBは利用者が編集する書誌データベースであり、当サイトでは刊行年・版元といった書誌事実に限って用いる。作中の描写の裏づけには使っていない。
- [2] 書誌データベースISFDB「The Burrowers Beneath」Title Record #1454503(該当ページ)。著者ブライアン・ラムレイ、1972年3月、種別SHORTFICTION(短編)。掲載はファンジン『HPL』(編Meade Frierson、Penny Frierson、1972年3月。同年10月にも版がある)。長編と同題だが別のタイトルレコードであり、内容の異同を当サイトは確認していない。
- [3] ラヴクラフト公式サイト hplovecraft.com の作品一覧(該当ページ)。クトーニアンの名も『The Burrowers Beneath』も含まれないことを確認した(2026年9月15日確認)。
- [4] 書誌データベースISFDB『Nameless Places』Publication Record #23385(該当ページ)。編者Gerald W. Page、1975年、発行Arkham House、ISBN 0-87054-073-4、本文viii+279ページ。寄稿者としてBrian Lumley、Ramsey Campbell、Walter C. DeBill, Jr.、Lin Carter らの名を確認した。
- [5] 形態・生態・勢力関係・作風についての記述は、当サイトが収集した二次的な要約に基づく。ラムレイ作品の本文は照合していない。著作権の存続する作品で、公開されたスキャンは見つからなかった。本文を照合できる資料が得られた時点で書き直す。
- [6] 書誌データベースISFDB、シリーズ記録「Titus Crow」Series Record #5174(該当ページ)。上位シリーズは「Cthulhu Mythos」。全6作(The Burrowers Beneath 1974年/The Transition of Titus Crow 1975年/The Clock of Dreams 1978年/Spawn of the Winds 1978年/In the Moons of Borea 1979年/Elysia: The Coming of Cthulhu 1989年)と、第1作のドイツ語版(1975年)・フランス語版(1976年)の存在を確認した(2026年9月15日確認)。
FAQ
Q. クトーニアンはラヴクラフトが考案した種族ですか。 A. いいえ。ブライアン・ラムレイが1974年2月の長編『The Burrowers Beneath』で登場させた種族です[1]。ラヴクラフト公式サイトの作品一覧にも、種族名・作品名とも含まれていません[3]。
Q. 初出は中編ですか、長編ですか。 A. 書誌データベース上の種別は長編(NOVEL)です[1]。以前の版の本記事は中編と書いていましたが、改めました。なお同じ題の短編が1972年3月にファンジン『HPL』へ載っており、こちらは別の記録として登録されています[2]。両者の内容の異同は当サイトで確認していません。
Q. クトーニアンは旧支配者そのものなのですか。 A. いいえ。ラムレイの設定では、旧支配者シュド=メルに率いられる一族・眷属という位置づけです[5]。種族全体を指す呼称と、個別の旧支配者としてのシュド=メルは区別して扱われます。
Q. 弱点が水というのは、原典に根拠のある設定ですか。 A. ラヴクラフト原典には根拠がありません[3]。ラムレイが設計した設定として伝えられるもので、当サイトは本文でこれを確認していません[5]。




