
東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)。ロングが創造した「ティンダロスの猟犬」など、書簡の相手が神話に持ち込んだ存在を項目で引ける。
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概要
米出版社Hippocampus Pressの公式商品ページによれば、書簡集『A Sense of Proportion: The Letters of H. P. Lovecraft and Frank Belknap Long』は在庫があり、即日発送の扱いになっている。「IN STOCK AND SHIPPING IMMEDIATELY!」という表記がページ上部に掲げられている[1]。編者はデイヴィッド・E・シュルツ(David E. Schultz)とS・T・ジョシ(S. T. Joshi)、本文856ページ、価格85ドル、ISBNは978-1-61498-435-1。装丁は限定ハードカバーで、部数は500部に限られている[1]。カバーアートはDavid Verba、カバーデザインはDaniel V Sauerが手がけたという記載もある[1]。商品ページには「This product was added to our catalog on Monday 02 December, 2024.」(本商品は2024年12月2日月曜日にカタログへ追加された)という記載があり、少なくともこの日付にはカタログ掲載が始まっていたことがわかる。ただし、これが厳密な意味での発売日かどうかを示すラベルはページ上に見当たらず、公式な発売日そのものは確認できていない[1]。
このシリーズはHippocampus Pressが長年続けてきた、ラヴクラフトが同時代の各人物と交わした書簡を一人ひとり一冊にまとめて刊行する事業の一角である。公式ページはこの一冊について、「This volume brings to a conclusion the massive effort to publish the totality of Lovecraft’s extant correspondence.」(この一巻をもって、ラヴクラフトの現存する書簡の全体を刊行するという大事業に区切りがついた)と明記している[1]。ラヴクラフトの創作活動を「一人の作家の仕事」として読むか、「文通相手たちとの継続的なやり取りの産物」として読むかは、その気になれば無限に議論できる問いだが、この一冊は「相手は誰だったか」を具体的な名前――フランク・ベルナップ・ロング――で示している。
どんな作品か
公式ページの紹介文は、まず二人の関係の近さを強調する。「A plausible case could be made that Frank Belknap Long was H. P. Lovecraft’s best friend.」(フランク・ベルナップ・ロングがH・P・ラヴクラフトの最良の友人だったという主張には、十分な説得力がある)と書き出し、続けて「Long knew Lovecraft for nearly two decades and saw him on a nearly daily basis during Lovecraft’s years in New York (1924–26).」(ロングはラヴクラフトを20年近く知っており、ラヴクラフトがニューヨークに住んでいた1924年から1926年のあいだは、ほぼ毎日のように顔を合わせていた)と続く[1]。
紹介文はさらに、二人が実際に何を語り合っていたかを具体的に挙げる。「a wide array of topics is discussed in depth: the role of tradition in human culture; the place of religion in contemporary society; the “sense of place” each writer felt, the one for his native Providence, R.I., the other for New York; and much else.」(人間文化における伝統の役割、現代社会における宗教の位置づけ、それぞれの作家が――一方は故郷プロヴィデンスに、もう一方はニューヨークに――抱いていた「土地への感覚」、その他多くの主題が深く論じられている)[1]。書名の「A Sense of Proportion(釣り合いの感覚)」がこの中のどの論点を指しているのか、あるいは別の意味を持つ言い回しなのかは、公式ページに説明がなく確認できていない。
もう一つ、公式ページが明記している論点がある。「Lovecraft and Long were both involved in ghostwriting works for Zealia Bishop, and they conferred repeatedly about the ebbs and flows of the pulp magazine market.」(ラヴクラフトとロングはともにゼリア・ビショップ名義の作品のゴーストライティングに関わっており、パルプ雑誌市場の浮き沈みについても繰り返し話し合っていた)[1]。「共通の趣味を語り合った友人同士」という以上に、実際の仕事の相談相手だったことをうかがわせる一文である。
誰が代作の相談に乗っていたか——ビショップ名義の作品をめぐる往復
当サイトの「イグの呪い」、「メデューサの巻き毛」、「墳丘」の各記事で確認した通り、これらはいずれも依頼人ゼリア・ビショップ名義で発表されながら、実際の文章のほとんどをラヴクラフトが書いた作品群である。今回の書簡集の公式紹介文は、この代作の仕事について、ロングがラヴクラフトと「conferred repeatedly(繰り返し相談し合った)」相手だったと述べている[1]。
これが具体的にどのやり取りを指すのか――原稿の出来を見せ合ったのか、ビショップとの交渉の進め方を相談したのか、単にパルプ市場の景気の話をしただけなのか――は、公式ページの一文からは判断できない。書簡本文そのものを当サイトでは読めておらず、この一文の背後にある具体的な内容には踏み込めない。それでも、ビショップ名義の代作という、当サイトが既に複数の記事で扱ってきた出来事の背後に、ロングという名の相談相手が存在したという事実自体は、公式ページの記述として確認できる。
猟犬という実例——書簡の外側にあった、存命中の「持ち込み」
書簡集そのものの内容には踏み込めないが、ロングがラヴクラフトの存命中に神話の材料を持ち込んだ実例は、書簡集を離れたところに確かに存在する。当サイトの「ティンダロスの猟犬」の記事で確認した通り、この存在の名前と設定を創造したのはロングであり、ラヴクラフトの作ではない。初出は「The Hounds of Tindalos」(Weird Tales誌1929年3月号)、ロング単独の作品だ。
ラヴクラフトはこの創造物を、自らの中編『闇に囁くもの』(1930年執筆/1931年発表)の中で一度だけ取り上げている。「The nature of the Doels was plainly revealed, and I was told the essence (though not the source) of the Hounds of Tindalos.」(訳: 「ドエルたちの正体は明確に明かされ、私はティンダロスの猟犬の本質(ただしその根源ではない)を教えられた」)という一文である[2]。ロングが作った存在を、ラヴクラフト自身が自分の作品の中に招き入れた瞬間だ。1929年から1931年、どちらもラヴクラフトの生前(死去は1937年)の出来事である。
書簡集の公式紹介文が挙げる論点――伝統・宗教・土地への感覚・パルプ市場・ビショップ名義の代作――のリストに、ティンダロスの猟犬という固有名詞は登場しない。したがって、二人が実際の手紙の中でこの生物についてやり取りしたかどうかは、当サイトでは確認できない。ここで確認できるのは、書簡というプライベートな往復とは別の、公表された作品同士のやり取りとして、ロングからラヴクラフトへの一方向の「受け渡し」が現に起きていたという事実だけである。書簡が語る共同作業がどのような手触りのものだったかを推測する手がかりとして、この一件を並べておく意味はある。
原典との距離(神話の三層のどこに立つか)
書簡集そのものは、当サイトが整理する原典/ダーレス系拡張/TRPG設定という三層のいずれにも属さない。二人の人物のあいだで交わされた私信であり、神話の設定を書き足す創作物とは性格が違うからである。強いて言えば、ラヴクラフト自身の言葉を直接伝える一次資料という点で、小説作品の第1層(原典)に近い性格を持つ史料と言えるが、これは資料としての位置づけの話であり、神話体系上の分類には当たらない。
一方、この記事で取り上げたティンダロスの猟犬は、当サイトの三層区分に照らすと境界線上に立つ。当サイトの三層の記事は第2層(ダーレス系拡張)を「ラヴクラフトの死後(1937年)」に友人作家オーガスト・ダーレスが体系化を試みたところから説き起こしており、時期の起点を明確に死後に置いている。だがロングが猟犬を創造したのは1929年、ラヴクラフトの死の8年前である。つまりこの一件は、第2層の定義がそもそも想定していない時期――ラヴクラフトが自ら手を加えられた存命中――に起きた出来事だ。実際、当サイトの「ティンダロスの猟犬」記事自身が、この点についてfrontmatterの`canon_layer: original`と、本文が繰り返し使う「拡張系(ラヴクラフト自身の作品には直接登場しない)」という表現が食い違っていることを認め、どちらが正しいか判断できないまま両論を残していると明記している。今回の書簡集の刊行を機にこの矛盾を解消できるだけの材料は、当サイトには無い。存命中に起きた「持ち込み」という現象そのものが、死後の体系化を前提にした三層モデルの外側に、もう一つの扱いにくい領域として存在している、という留保を添えるにとどめる。
関連して読むなら
- フランク・ベルナップ・ロング — 本書のもう一人の書き手についての当サイトの記事
- ティンダロスの猟犬 — ロングがラヴクラフトの存命中に持ち込んだ、この記事で扱った実例
- ラヴクラフト・サークルと後続作家による神話拡張 — ロングを含む同時代作家たちの相互交流を年表でたどった記事
- 「クトゥルフ神話」という呼称の成立と体系化 — 「神話」という呼び名自体が死後の後付けだったという経緯
- Lovecraft Annual No. 20 / Lovecraftian Proceedings No. 6 — 同じくHippocampus Pressが2026年に刊行した、もう一系統のラヴクラフト研究誌
- クトゥルフ神話は誰のものになったのか — 神話が最初から「共有」を前提に始まったことをNecronomiCon Providence 2026の現地報道から辿った記事
出典
- [1] 在庫表記「IN STOCK AND SHIPPING IMMEDIATELY!」、編者David E. SchultzとS. T. Joshi、856ページ、価格85ドル、ISBN 978-1-61498-435-1、限定ハードカバー500部、カバーアートDavid Verba・カバーデザインDaniel V Sauer、カタログ追加日「This product was added to our catalog on Monday 02 December, 2024.」、紹介文「A plausible case could be made that Frank Belknap Long was H. P. Lovecraft’s best friend. Long knew Lovecraft for nearly two decades and saw him on a nearly daily basis during Lovecraft’s years in New York (1924–26).」「a wide array of topics is discussed in depth: the role of tradition in human culture; the place of religion in contemporary society; the “sense of place” each writer felt, the one for his native Providence, R.I., the other for New York; and much else.」「Lovecraft and Long were both involved in ghostwriting works for Zealia Bishop, and they conferred repeatedly about the ebbs and flows of the pulp magazine market.」、シリーズ完結の記載「This volume brings to a conclusion the massive effort to publish the totality of Lovecraft’s extant correspondence.」を確認 — Hippocampus Press公式商品ページ「A Sense of Proportion: The Letters of H. P. Lovecraft and Frank Belknap Long」(2026年9月9日取得)、https://www.hippocampuspress.com/h.-p.-lovecraft/collected-letters/a-sense-of-proportion-the-letters-of-h.-p.-lovecraft-and-frank-belknap-long ↩
- [2] 「The nature of the Doels was plainly revealed, and I was told the essence (though not the source) of the Hounds of Tindalos.」の記載がある(当サイト「ティンダロスの猟犬」記事で既に確認済みの引用を再掲) — H. P. Lovecraft, “The Whisperer in Darkness”(1930年執筆/1931年発表), 公式アーカイブ。初出作品「The Hounds of Tindalos」がフランク・ベルナップ・ロング単独の作品でありWeird Tales誌1929年3月号が初出であることも同記事で確認済み ↩
- [3] Hippocampus Press「Collected Letters」カテゴリ一覧ページに合計20点の商品が表示され(「Displaying 19 to 20 (of 20 products)」のページネーション表記を含む)、『A Sense of Proportion』のほかに伝記『The Star-Treader: A Life of Clark Ashton Smith』や『H. P. Lovecraft’s Commonplace Book and Other Notes: An Annotated Edition』など書簡集以外の書目も同じ一覧に含まれることを確認(2026年9月9日取得) — Hippocampus Press「Collected Letters」カテゴリページ、https://www.hippocampuspress.com/h.p-lovecraft/collected-letters ↩
- [4] ハードカバー1冊は送料計算上ペーパーバック8冊分として扱われる旨の記載「hardcovers count as 8 paperback books for shipping cost」、Rest of the World区分で「8 or more paperback books」に対応する送料が「$59.95」であることを確認(2026年9月9日取得) — Hippocampus Press公式配送案内ページ「Shipping & Returns」、https://www.hippocampuspress.com/shipping_info ↩

