地名(幻夢境の廃都) — SARKOMAND

サルコマンド

原典

レンの下の谷にある、人類より古い廃都。断崖と玄武岩の埠頭のあいだに築かれた大海港で、かつては「ほぼ人間であるものたち」の首都だった。中央広場では一対の有翼の閃緑岩の獅子が、幻夢境から大深淵へ下る階段を守り続けている。

公開作成AI支援で作成

誤りの指摘・訂正依頼と編集方針は運営者情報へ。

サルコマンド

「それは閃緑岩の巨大な有翼の獅子で、あいだに闇と影を挟んでいた。まるまる二十フィートの高さにグロテスクな、欠けたところのない頭をもたげ、あたりの廃墟へ嘲るように牙を剥いていた。」

— H・P・ラヴクラフト「未知なるカダスを夢に求めて」(1926-1927年執筆)、カーターが崖の穴から転がり落ちて廃都に降り立つ場面
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概要(2〜3行)

サルコマンドは、レン高原の下の谷にある見捨てられた都市である[1]。海に面した断崖と玄武岩の埠頭のあいだに柱を連ねた大海港であり、月から来た黒いガレー船が到来する以前は「ほぼ人間であるものたち」がここを首都としていた[4][7]。最初の真の人間が光を見る百万年前から、その廃墟は白く朽ちていた[8]。中央広場に対座する一対の有翼の閃緑岩の獅子は、幻夢境から大深淵へ下る階段を永遠に守り続けている[8][12]。

基本プロフィール(表で可)

項目内容
分類地名(幻夢境の廃都)
欧文表記SARKOMAND
初出「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋?〜1927年1月22日執筆[36]/1943年、アーカム・ハウスの作品集『Beyond the Wall of Sleep』で刊行[37])
位置レンの下の谷[1][3]。町の背後に玄武岩の大断崖が垂直に立ち、その上を越えるとレン外れの冷たい卓状地が開ける[10][35]
海との関係玄武岩の埠頭を持つ港町[4][32]。月の獣が駐屯する海中の切り立った岩は、この埠頭から遠くない[15]
市域の構造六つのスフィンクスを戴く門から、大庭園と列柱の街路が中央広場へ通じる[5]。街路には壺と水盤が並んでいた[11]
中央広場一対の有翼の巨獅子が、地下階段の頂を守る[5]。獅子は十フィート隔てて対座し、側面に浅浮彫を刻んだ巨大な台座に載る[21]
獅子像閃緑岩製。高さ二十フィート。頭部は欠けていない[6][12]
深淵への門獅子のあいだのタイル敷きの中庭。かつて縞瑪瑙の手すりが巡っていた区画の中央に黒い井戸が開き、悪夢の納骨所へ石段が下る[21]
大深淵の主ノーデンス。夜鬼はニャルラトホテプではなくこの神を主とする[34]
海からの行き方レラグ=レン行きの船に乗るほかない[28]
原典での言及回数本文中 “Sarkomand” 21回(当サイトが hplovecraft.com の本文を数えた実測)

原典での描写

サルコマンドが登場するラヴクラフト作品は「未知なるカダスを夢に求めて」一作に限られる。当サイトは hplovecraft.com が公開するラヴクラフト本人および代作・共作を含む本文を機械的に検索し、この語が現れるのが同作だけであることを確認している。

名前として現れる ── 深淵から地上へ出る二つの道

読者がこの地名に最初に触れるのは、地下の食屍鬼の領域である。かつて画家リチャード・アプトン・ピックマンだった食屍鬼は、ランドルフ・カーターに二つの選択肢を示した。ひとつは目覚めの世界へ戻って旅をやり直すこと。もうひとつが、サルコマンドで深淵を離れることである。この助言のなかで、サルコマンドは「レンの下の谷にある見捨てられた都市で、有翼の閃緑岩の獅子が守る黒い硝石の階段が幻夢境から下の深淵へ通じている」場所として説明される[1]。

つまりこの都市は、最初から「場所」としてではなく「出入口」として導入される。地上の街として紹介されるのではなく、地下から地上へ抜けるための扉として名が挙がる。

その直後、案内役の食屍鬼たちはこの道を選ばない。彼らは自分たちの隠密性を頼りにグーグの都を通って戻る計画で、「深淵への獅子が守る門を持つ幽鬼めいたサルコマンド」へ地上を行く道を知らなかったからである[2]。魔法の森へ出たあと、彼らはようやくサルコマンドと深淵の門を経て帰ることに決めるが、やはり行き方は分からない。ここでカーターが、あの都市がレンの下の谷にあることを思い出し、ディラス=リーンの細目の老商人のことを併せて助言する[3]。

この三つの場面が示すのは、サルコマンドが幻夢境の住人にとってさえ「名は知られているが道順は知られていない」土地だという点である。

修道院の壁画 ── 滅びる前の姿

サルコマンドの生前の姿は、都市そのものではなく絵として読者に示される。レンの窓の無い石造修道院へ連れ込まれたカーターは、迷路のような廊下の壁に、歴史より古い先史の壁画を見る。そこには蹄と角を持つ「ほぼ人間であるものたち」の年代記が描かれていた。

壁画の一面が示していたのが、断崖と玄武岩の埠頭のあいだに柱を連ねて誇らかに建つ大海港にして首都であり、高い神殿と彫刻の広場を備えた都だった[4]。断崖から、そして六つのスフィンクスを戴く門のそれぞれから、大庭園と列柱の街路が広大な中央広場へ通じ、その広場には地下階段の頂を守る一対の有翼の巨獅子があった[5]。有翼の獅子は繰り返し描かれ、閃緑岩の力強い脇腹が、昼の灰色の薄明にも夜の雲の燐光にも光っていた[6]。

繰り返し現れるその図像を通り過ぎるうちに、カーターは獅子の正体と、この都が黒いガレー船の到来よりはるか以前に「ほぼ人間であるものたち」が支配していた都市であることを悟る[7]。幻夢境の伝説は豊かで事欠かないので、間違えようがなかった。その太古の都は伝説のサルコマンドにほかならず、最初の真の人間が光を見るより百万年も前からその廃墟は白く朽ちており、双子の巨獅子は幻夢境から大深淵へ下る階段を永遠に守っているのだった[8]。

ここで原典は、都市の歴史をひとつの順序で並べている。ほぼ人間であるものたちの首都であった時代、黒いガレー船の到来、そして廃墟。ただし、この三つがどれだけの間隔を置いて起きたかは書かれていない。

到着 ── 崖の穴から転がり落ちた先

カーターが実際にサルコマンドへ着くのは、旅の計画によってではなく事故による。修道院から逃れて暗い通路を手探りで進むうち、彼はほとんど垂直の穴を滑り落ちた。動きが止まったとき、頭上には北国の夜の燐光を放つ雲があり、まわりには崩れかけた壁と折れた円柱があった。彼が横たわる舗石は、まばらな草に貫かれ、方々の灌木と根に引き裂かれていた[9]。

背後には玄武岩の断崖が頂も見えず垂直に立ち、その暗い面には不快な場面が彫られ、彼が出てきた内部の闇へ通じるアーチ状の彫刻された入口が穿たれていた[10]。前方には円柱の二列と、円柱の破片と台座が延びて、かつての広い街路を物語る。道沿いの壺と水盤から、カーターはそこが庭園の大通りだったと知る[11]。

その街路の果てで円柱が広がり、広大な円形の広場を示していた。そして毒々しい夜の雲の下に、二つの巨大なものが聳えていた。閃緑岩の巨大な有翼の獅子で、あいだに闇と影を挟んでいる。まるまる二十フィートの高さにグロテスクな、欠けたところのない頭をもたげ、あたりの廃墟へ嘲るように牙を剥いていた。カーターはそれが何であるかをよく知っていた。伝説が語る獅子の対はこれ一組しかない。それらは大深淵の変わらぬ守護者であり、この暗い廃墟こそが原初のサルコマンドだった[12]。

壁画で見た都と、目の前の廃墟が、この一段落で重なる。読者は滅びる前の姿を先に見せられており、そのうえで同じ広場の跡に立たされる。

廃墟の全景と、埠頭の焚き火

カーターが最初にしたのは、崖のアーチ状の入口を、落ちていた石塊と瓦礫で塞ぐことだった[13]。レンの修道院からの追手を入れないためである。

だが、そこから人の住む地域へどう出るかを、彼はまったく知らなかった[14]。食屍鬼の洞窟へ下りても事情は変わらない。彼らも同じだけ無知だからである。船が手に入ればインガノクへ戻れるかもしれない。修道院の壁画が、インガノクの船乗りが避けるあの忌まわしい海中の岩が、サルコマンドの玄武岩の埠頭から遠くないことを示していたからだ。しかし、この永劫のあいだ見捨てられてきた都で船を見つける見込みは薄かった[15]。

そのあいだ、彼の前には伝説のサルコマンドの屍のような広がりが横たわっていた。黒い折れた円柱、崩れかけたスフィンクスを戴く門、巨石、そして怪物的な有翼の獅子が、光を放つ夜の雲の病んだ輝きを背にしている[16]。この一文が、原典の与えるサルコマンドの全景である。

やがて彼は、雲では説明のつかない光を遠く右手に見つける。近づくと、それは埠頭近くの焚き火で、多くの漠とした姿が黒く群れ、致死的な臭気が重く垂れこめていた。その先では港の水が油のように打ち寄せ、大きな船が錨を下ろしていた[17]。船は月から来た黒いガレー船だった。

巨大な円柱の陰から見た焚き火のまわりでは、蟇に似た月の獣と、そのほぼ人間の奴隷たちが悪臭を放つ輪をつくって蹲っていた。奴隷の何人かは奇妙な鉄の槍を炎で熱し、ときおりその白熱した先端を、固く縛られて身をよじる三人の捕虜に当てていた[18]。カーターがその啼き声に気づいたとき、拷問されている食屍鬼が、彼を深淵から無事に導き、その後サルコマンドと故郷の深みへの門を探して魔法の森を発った、あの忠実な三人組であることが分かった[19]。

なぜ彼らが捕らえられたのかをカーターは知らない。ただ、あの灰色の蟇のような冒瀆的存在たちが、三人組がディラス=リーンでサルコマンドへの道を尋ねているのを聞きつけ、レンの高原と言い表せない大司祭にこれ以上近づけまいとしたのではないか、と推測している[20]。原典がここで書いているのは推測であって、確定した事情ではない。

獅子のあいだの井戸 ── 大深淵への入口

救出の手立てを持たないカーターは、広場の獅子まで這い進み、深淵へ下ることを選ぶ。原典がサルコマンドの「門」の構造を具体的に書くのはこの場面である。

嘲るような顔をした閃緑岩の獣は十フィート隔てて蹲り、側面に恐ろしい浅浮彫を刻んだ巨大な台座の上で考え込んでいた。そのあいだにはタイル敷きの中庭があり、その中央の区画にはかつて縞瑪瑙の手すりが巡らされていた。区画の中ほどに黒い井戸が口を開けており、カーターはそこが、地殻と黴に覆われた石段が悪夢の納骨所へ下っていく、あの大きく口を開けた深淵であることを見て取った[21]。

続く下りは長い。暗闇のなかを、カーターは何時間も、急で滑る底知れぬ螺旋階段を手探りで回り降りた[22]。この階段の途中で夜鬼が彼を捕らえ、食屍鬼の合言葉によって、そのまま食屍鬼の平原まで運ばれる。

つまりサルコマンドの中央広場は、幻夢境の地表と地下の世界をつなぐ縦の通路の上端にあたる。獅子が「守る」のは都市ではなく、この井戸である。

食屍鬼と夜鬼の軍勢

カーターの報告を受けた食屍鬼たちは軍を編成した。ピックマンは、夜鬼が食屍鬼の前衛であり軍馬であること、そして軍勢が月の獣を相手にするためサルコマンドへ出撃することを説明する[23]。カーターと族長たちは夜鬼に抱え上げられ、風と闇のなか、ひたすら上へ、上へ、有翼の獅子の門と原初のサルコマンドの幽鬼めいた廃墟へ運ばれた[24]。

再びサルコマンドの病んだ夜空の下に出たとき、彼が見たのは、戦意に満ちた食屍鬼と夜鬼で埋まった大中央広場だった[25]。奇襲は完璧に成功し、月の獣とその奴隷は音もなく取り押さえられる。捕らえられた者たちは大深淵へ運び去られ、ボール、グーグ族、ガスト、その他の闇の住人たちへ分け隔てなく分配された[26]。カーターは幻夢境の他の地域への足を確保するため、錨を下ろした黒いガレー船を沈めないよう求め、この願いは快く聞き入れられた[27]。

捕虜たちが語ったこと ── なぜ彼らはここへ運ばれたか

救出された三人組の話によって、サルコマンドへの「行き方」が原典のなかで一度だけ具体的に語られる。

彼らはカーターの指示どおり魔法の森からディラス=リーンへ出て、酒場でサルコマンドへの道を尋ね続けた。応じる者はなかなか現れず、ついに一人の老いた旅人が教えてくれる。そこで彼らが知ったのは、目的を果たすにはレラグ=レン行きの船に乗るほかない、ということだった[28]。

三人組はその船を待つあいだにルビー商人の罠にかかり、黒いガレー船の囚人となる。このとき、見えざる漕ぎ手たちが目指したのは月ではなく古のサルコマンドだった。捕虜を言い表せない大司祭の前へ連れて行くためである[29]。船は途中、インガノクの船乗りが避ける北の海の切り立った岩へ寄港し、そこで三人組は船の真の主人たちを初めて目にした[38]。そして廃墟のサルコマンドへの上陸と、拷問の開始が続く。それを止めたのが今回の救出だった[30]。

この経緯は、サルコマンドが単なる無人の廃墟ではないことを示す。月の獣はこの港を使い、レンの大司祭のもとへ捕虜を送る中継地としている。

出発 ── 玄武岩の断崖の向こう

海中の岩の掃討を終えた一行は、サルコマンドへ戻る。夜明け、船はサルコマンドの崩れた玄武岩の埠頭を視界に入れた。そこでは数体の夜鬼の歩哨が、人類の年月より前に生きて死んだこの恐ろしい都の、折れた円柱と崩れかけたスフィンクスの上に、黒い角のあるガーゴイルのように蹲って待っていた[32]。それに先立って、捕らえた月の獣を携えた夜鬼の群れがサルコマンドと大深淵へ去ったことも確認されている[31]。

食屍鬼たちはサルコマンドの倒れた石のあいだに野営し、軍馬となる夜鬼を呼ぶ使者を送った[33]。この野営地で、カーターは未知なるカダスへの助力を求めて自分の知ることを語る。夜鬼については、大いなるものたちでさえ彼らを恐れること、そして彼らの支配者が這い寄る混沌ニャルラトホテプではまったくなく、古く太古のノーデンス、大深淵の主であることを伝えた[34]。原典がノーデンスの称号を明示するのは、このサルコマンドでの場面である。

出発の場面が、この都市の最後の描写になる。ピックマンの短い啼き声を合図に、恐るべき軍勢は悪夢の雲となって原初のサルコマンドの折れた円柱と崩れかけたスフィンクスの上へ舞い上がった。さらに高く上がって町の背後の大玄武岩断崖を越えると、レン外れの冷たく不毛な卓状地が眼下に開けた[35]。この一文によって、読者は初めてサルコマンドとレン高原の位置関係を、伝聞ではなく上空からの眺めとして与えられる。

由来・モデル

この地名の由来を説明する記述は、原典本文にも、当サイトが確認した hplovecraft.com の作品資料にも見当たらない。ラヴクラフト自身が語源やモデルに触れた箇所を確認できなかったため、未確認のまま残す。「サルナス(Sarnath)」など語頭の似た他の地名との関係についても、原典に根拠となる記述は無い。

原典が与えているのは、作中世界の内側での位置づけだけである。カーターは壁画の都を「伝説のサルコマンド(storied Sarkomand)」と呼び、「幻夢境の伝説は豊かで事欠かない」ことを根拠に同定する[8]。つまりこの都市は、幻夢境においても既に伝説の対象であり、直接見た者ではなく語り継ぎによって知られている土地として設定されている。

歴史・年表

原典はサルコマンドの建国史も王朝の系譜も与えない。年代を伴って語られるのは、廃墟の古さと、カーターの旅程だけである。以下は本文から読み取れる順序であり、暦の上の年を示すものではない。

  • 人類以前(年代不詳): 「ほぼ人間であるものたち」がこの都市を支配し、断崖と玄武岩の埠頭のあいだに大海港にして首都を築く[4][7]。
  • 黒いガレー船の到来(年代不詳): 月から来た存在が現れ、レンの民が服従する。壁画はこの前後を描き分けている[7]。
  • 年代不詳: 最初の真の人間が光を見る百万年前の時点で、廃墟は既に白く朽ちていた[8]。原典は、この「百万年前」と黒いガレー船の到来の前後関係を明示しない。
  • カーターの訪問より前: 月の獣が海中の切り立った岩に駐屯地を構え、その岩がサルコマンドの埠頭から遠くない位置にあると壁画が記録している[15]。
  • カーターの訪問より前: 三人組の食屍鬼がディラス=リーンでサルコマンドへの道を尋ね、老いた旅人から教えられる[28]。その直後に黒いガレー船の捕虜となり、古のサルコマンドへ運ばれて拷問を受ける[29][30]。
  • カーターの到着(第1夜): レンの修道院からの垂直の穴を滑り落ち、廃墟に降り立つ[9]。崖の入口を塞ぎ[13]、埠頭の焚き火と三人組を発見する[17][19]。
  • 同夜: 獅子のあいだの黒い井戸から深淵へ下る[21][22]。夜鬼に捕らえられ、食屍鬼の平原で軍を要請する。
  • 同夜の明け方近く: 食屍鬼と夜鬼の軍勢が中央広場へ到着し、月の獣を制圧[24][25]。捕虜は大深淵へ送られる[26]。
  • その後の数日: 黒いガレー船で海中の岩へ遠征し、掃討を行う。夜鬼が捕らえた月の獣を携えてサルコマンドと大深淵へ帰還[31]。
  • 帰着の朝: 船が崩れた玄武岩の埠頭に着く。夜鬼の歩哨が円柱とスフィンクスの上で待っていた[32]。食屍鬼は倒れた石のあいだに野営する[33]。
  • 出発: 軍勢が舞い上がり、町の背後の玄武岩断崖を越えてレン外れの卓状地へ向かう[35]。原典がサルコマンドに触れるのは、ここが最後である。

性質・特徴

  • 立地: レンの下の谷[1][3]。町の背後には頂の見えない玄武岩の断崖が垂直に立ち[10]、その上を越えるとレン外れの卓状地が広がる[35]。つまり高原の縁から見下ろされる位置にある。
  • 海への面: 玄武岩の埠頭と港を持つ[4][32]。月の獣の駐屯地である海中の岩は、この埠頭から遠くない[15]。ただし海路でここへ来るには、レラグ=レン行きの船を使うほかない[28]。
  • 市域: 六つのスフィンクスを戴く門から、大庭園と列柱の街路が中央広場へ集まる[5]。街路の跡には壺と水盤が残り、庭園の大通りだったことが分かる[11]。
  • 中央広場と獅子: 十フィート隔てて対座する二頭の閃緑岩の有翼獅子。高さ二十フィート、頭部は欠けていない[12]。台座は巨大で、側面に浅浮彫が刻まれている[21]。廃墟全体が崩れているなかで、この獅子だけが「欠けたところのない(unbroken)」姿で残されている点を、原典は書き分けている。
  • 深淵への門: 獅子のあいだのタイル敷きの中庭。中央区画にはかつて縞瑪瑙の手すりが巡り、その中ほどに黒い井戸が開く[21]。そこから悪夢の納骨所へ、地殻と黴に覆われた石段が下る。下りは急で滑る底知れぬ螺旋で、何時間もかかる[22]。
  • 保存状態: 折れた黒い円柱、崩れかけたスフィンクスを戴く門、巨石、そして獅子。全体は「屍のような広がり」と形容される[16]。舗石は草に貫かれ、灌木と根に引き裂かれている[9]。
  • 住人: 常住者はいない。原典がここで描くのは、上陸してきた月の獣と奴隷[18]、駆けつけた食屍鬼と夜鬼[25]、そして帰路の歩哨と野営[32][33]だけである。都市は無人だが、通過する者が絶えない場所として書かれている。
  • 明るさ: 描写はすべて夜または明け方に行われ、光源は燐光を放つ低い雲である[9][16]。原典はサルコマンドの昼の光景を書かない。

関連する人物・存在(関係図)

  • ランドルフ・カーター: レンの修道院から落ちてこの廃墟に降り立ち[9]、獅子のあいだの井戸から深淵へ下って救援を呼んだ人物[21]。彼にとってサルコマンドは目的地ではなく、経路の結節点である。
  • リチャード・アプトン・ピックマン: この地名を最初にカーターへ告げた食屍鬼[1]。のちに軍勢を率いて同じ広場へ戻る[23][24]。
  • 食屍鬼: 大深淵に住み、サルコマンドの井戸を自分たちの領域への門と見なす[19]。地上の道順は知らず[2]、そのために三人組が捕らえられた[28][29]。
  • 夜鬼: 深淵の階段を守り[22]、食屍鬼の前衛かつ軍馬として働く[23]。帰路にはサルコマンドの円柱とスフィンクスの上で歩哨に立った[32]。
  • ノーデンス: 大深淵の主であり、夜鬼の支配者[34]。サルコマンドの階段が下る先を支配する存在にあたる。
  • レンの男: 黒いガレー船の到来以前、この都市を首都としていた「ほぼ人間であるものたち」[4][7]。当サイトの該当記事も、サルコマンドを彼らの太古の首都として扱っている。
  • ムーンビースト: 廃墟の埠頭に上陸して焚き火を焚き、捕虜を拷問していた側[17][18]。彼らにとってこの港は、レンの大司祭のもとへ捕虜を送る中継地である[29]。
  • レン高原: サルコマンドの上方にある高原。町の背後の玄武岩断崖を越えた先が、その外れの卓状地にあたる[35]。
  • ディラス=リーン: サルコマンドへの道を知る者がいた港[28]。同時に、月の獣が三人組の問い合わせを聞きつけた場所でもある[20]。
  • グーグ族・ガスト: 捕らえられた月の獣が分配された大深淵の住人[26]。
  • レラグ=レン: 海路でサルコマンドへ向かうために必要な寄港地[28]。原典はこの地名を一度しか使わず、当サイトにも記事が無い。
  • 言い表せない大司祭: 捕虜が引き渡される予定だった相手[29]。サルコマンドそのものには現れない。

主要登場作と読みどころ

  • 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋?〜1927年1月22日執筆[36]/1943年刊行[37]): サルコマンドが登場する唯一の原典で、本文に “Sarkomand” が21回現れる。読みどころは、同じ都市が四つの距離で語り直される構成にある。まず地下での助言のなかの地名として[1]、次に壁画に描かれた滅びる前の首都として[4][5]、続いて実際に立つ廃墟として[9][12][16]、最後に軍勢の集結地かつ出発点として[25][35]。読者は都市の「生前」を先に見せられたうえで廃墟に降ろされるため、広場に着いた時点で、そこに何があったかを既に知っている。
  • 獅子の扱いも、この作品の運びを示している。最初の言及では「有翼の閃緑岩の獅子が守る階段」という説明語にすぎず[1]、壁画では繰り返し現れる図像になり[6]、実地では二十フィートの高さで廃墟を見下ろす物体になる[12]。同じ対象が、伝聞・図像・実物と段階を踏んで具体化していく。
  • あわせて読む記事として、上方の高原を扱うレン高原、この都市をかつての首都としていた種族を扱うレンの男、埠頭に上陸した側を扱うムーンビースト、作品全体を扱う「未知なるカダスを夢に求めて」がある。

よくある誤解(Q&A)

Q. サルコマンドはレン高原の上にあるのですか? A. 下です。原典は一貫して「レンの下の谷(the valley below Leng)」と書いています[1][3]。町の背後には玄武岩の断崖が垂直に立ち、軍勢がそれを越えて初めてレン外れの卓状地が見えた、という描写もあります[35]。

Q. 有翼の獅子は生きているのですか? A. 原典に、獅子が動いたり声を発したりする記述はありません。書かれているのは、閃緑岩製であること[6]、高さ二十フィートで頭部が欠けていないこと[12]、十フィート隔てて台座の上に蹲っていること[21]、そして大深淵の階段を守る「変わらぬ守護者(the changeless guardians)」と呼ばれること[12]です。像として描かれており、それ以上のことは書かれていません。

Q. サルコマンドは誰が滅ぼしたのですか? A. 原典に記述がありません。分かるのは、黒いガレー船の到来より前に「ほぼ人間であるものたち」が支配していたこと[7]と、最初の真の人間が光を見る百万年前の時点で廃墟が既に白く朽ちていたこと[8]だけです。この二つの時間関係も明示されていません。滅亡の原因を断定する記述は、本記事が確認した一次資料には見当たりません。

Q. サルコマンドへはどう行けばよいのですか? A. 原典が示す確実な経路は二つです。ひとつは大深淵から、獅子のあいだの井戸の階段を上ること[21][24]。もうひとつが海路で、この場合はレラグ=レン行きの船に乗るほかないと、食屍鬼の三人組が老いた旅人から教えられています[28]。地上を歩いて行く道は、食屍鬼たちも知りませんでした[2][14]。

Q. 名前は「サルナス」と関係がありますか? A. 関係を示す記述は原典にも hplovecraft.com の資料にも見当たりません。語頭が似ているというだけで結びつけることはしません。未確認として扱います。

Q. ダーレス以降の作品やTRPGでは、どう扱われていますか? A. 本記事は一次資料(hplovecraft.com の本文と作品資料)に限って調べており、後世の作家の作品や供給元の公式資料は確認していません。確認できる資料が無いため、ここには書きません。

出典

  • [1] “So the ghoul that was Pickman advised Carter either to leave the abyss at Sarkomand, that deserted city in the valley below Leng where black nitrous stairways guarded by winged diorite lions lead down from dreamland to the lower gulfs” (訳: そこでピックマンだった食屍鬼はカーターに、サルコマンド――有翼の閃緑岩の獅子が守る黒い硝石の階段が幻夢境から下の深淵へ下っていく、レンの下の谷にあるあの見捨てられた都市――で深淵を離れるか、さもなければ墓地を抜けて目覚めの世界へ戻るかを勧めた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [2] “They themselves planned to descend again and return through the city of the gugs, since their elusiveness was great, and they did not know the way overland to spectral Sarkomand with its lion-guarded gate to the abyss.” (訳: 彼ら自身はもう一度下りてグーグの都を通って戻る計画だった。身をかわす術に長けていたし、深淵への獅子が守る門を持つ幽鬼めいたサルコマンドへ地上を行く道を知らなかったからである。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [3] “So at length they decided to return through Sarkomand and its gate of the abyss, though of how to get there they knew nothing. Carter recalled that it lies in the valley below Leng” (訳: そこでついに彼らは、サルコマンドとその深淵の門を経て帰ることに決めた。もっとも、そこへどう行くかは何も知らなかった。カーターは、それがレンの下の谷にあることを思い出した。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [4] “And in those frescoes was shewn the great seaport and capital of the almost-humans; proud and pillared betwixt the cliffs and the basalt wharves, and wondrous with high fanes and carven places.” (訳: そしてそれらの壁画には、ほぼ人間であるものたちの大海港にして首都が描かれていた。断崖と玄武岩の埠頭のあいだに誇らかに柱を連ね、高い神殿と彫刻の場所に彩られた、驚くべき都だった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [5] “Great gardens and columned streets led from the cliffs and from each of the six sphinx-crowned gates to a vast central plaza, and in that plaza was a pair of winged colossal lions guarding the top of a subterrene staircase.” (訳: 大庭園と列柱の街路が、断崖から、また六つのスフィンクスを戴く門のそれぞれから、広大な中央広場へ通じていた。そしてその広場には、地下階段の頂を守る一対の有翼の巨獅子があった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [6] “Again and again were those huge winged lions shewn, their mighty flanks of diorite glistening in the grey twilight of the day and the cloudy phosphorescence of the night.” (訳: あの巨大な有翼の獅子は幾度も繰り返し描かれ、閃緑岩の力強い脇腹が、昼の灰色の薄明にも夜の雲の燐光にも光っていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [7] “it came to him at last what indeed they were, and what city it was that the almost-humans had ruled so anciently before the coming of the black galleys.” (訳: ついに彼には、それらが実際には何であるのか、そしてこれが、黒いガレー船の到来よりはるか以前にほぼ人間であるものたちが支配していた、どの都市であるのかが分かった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [8] “Indubitably that primal city was no less a place than storied Sarkomand, whose ruins had bleached for a million years before the first true human saw the light, and whose twin titan lions guard eternally the steps that lead down from dreamland to the Great Abyss.” (訳: 疑いなく、その太古の都は伝説のサルコマンドにほかならなかった。最初の真の人間が光を見るより百万年も前からその廃墟は白く朽ちており、その双子の巨獅子は、幻夢境から大深淵へ下る階段を永遠に守っている。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [9] “Then he realised he was still, with the phosphorescent clouds of a northern night shining sickly above him. All around were crumbling walls and broken columns, and the pavement on which he lay was pierced by straggling grass and wrenched asunder by frequent shrubs and roots.” (訳: そして彼は、自分が静止していることに気づいた。頭上では北国の夜の燐光を放つ雲が病んだ光を投げている。まわりは崩れかけた壁と折れた円柱ばかりで、彼が横たわる舗石は、まばらに伸びた草に貫かれ、方々の灌木と根に引き裂かれていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [10] “Behind him a basalt cliff rose topless and perpendicular; its dark side sculptured into repellent scenes, and pierced by an arched and carven entrance to the inner blacknesses out of which he had come.” (訳: 背後には玄武岩の断崖が、頂も見えぬまま垂直に聳えていた。その暗い面には不快な場面が彫り込まれ、彼が出てきた内部の闇へ通じる、アーチ状の彫刻された入口が穿たれていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [11] “Ahead stretched double rows of pillars, and the fragments and pedestals of pillars, that spoke of a broad and bygone street; and from the urns and basins along the way he knew it had been a great street of gardens.” (訳: 前方には円柱の二列と、円柱の破片や台座が延びていて、かつての広い街路を物語っていた。そして道沿いの壺と水盤から、彼はそこが庭園の大通りだったと知った。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [12] “Huge winged lions of diorite they were, with blackness and shadow between them. Full twenty feet they reared their grotesque and unbroken heads, and snarled derisive on the ruins around them.” … “They were the changeless guardians of the Great Abyss, and these dark ruins were in truth primordial Sarkomand.” (訳: それは閃緑岩の巨大な有翼の獅子で、あいだに闇と影を挟んでいた。まるまる二十フィートの高さにグロテスクな、欠けたところのない頭をもたげ、あたりの廃墟へ嘲るように牙を剥いていた。……それらは大深淵の変わらぬ守護者であり、この暗い廃墟こそが原初のサルコマンドだった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [13] “Carter’s first act was to close and barricade the archway in the cliff with fallen blocks and odd debris that lay around.” (訳: カーターが最初にしたのは、崖のアーチ状の入口を、落ちていた石塊とあたりの雑多な瓦礫で塞いで防柵にすることだった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [14] “Of how to get from Sarkomand to the peopled parts of dreamland he knew nothing at all” (訳: サルコマンドから幻夢境の人の住む地域へどう出るかについて、彼はまったく何も知らなかった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [15] “If he could get a boat he might sail back to Inganok past the jagged and hideous rock in the sea, for the primal frescoes in the monastery labyrinth had shewn that this frightful place lies not far from Sarkomand’s basalt quays. But to find a boat in this aeon-deserted city was no probable thing” (訳: 船が手に入れば、海中のあの切り立った忌まわしい岩を回ってインガノクへ帰れるかもしれなかった。修道院の迷路の太古の壁画が、その恐ろしい場所はサルコマンドの玄武岩の埠頭から遠くないと示していたからである。だが、この永劫のあいだ見捨てられてきた都で船を見つけるのは、望み薄なことだった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [16] “All this while there had stretched before him the great corpse-like width of fabled Sarkomand with its black broken pillars and crumbling sphinx-crowned gates and titan stones and monstrous winged lions against the sickly glow of those luminous night clouds.” (訳: そのあいだずっと、彼の前には伝説のサルコマンドの、屍のような大きな広がりが横たわっていた。黒い折れた円柱、崩れかけたスフィンクスを戴く門、巨石、そして怪物的な有翼の獅子が、あの光を放つ夜の雲の病んだ輝きを背にしていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [17] “he perceived that it was a campfire near the wharves with many vague forms clustered darkly around it, and a lethal odour hanging heavily over all. Beyond was the oily lapping of the harbour water with a great ship riding at anchor” (訳: 彼は、それが埠頭近くの焚き火であり、そのまわりに多くの漠とした姿が黒く群れ、すべての上に致死的な臭気が重く垂れこめているのを見て取った。その先では港の水が油のように打ち寄せ、大きな船が錨を下ろしていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [18] “there squatted a stinking circle of the toad-like moon-beasts and their almost-human slaves. Some of these slaves were heating curious iron spears in the leaping flames, and at intervals applying their white-hot points to three tightly trussed prisoners” (訳: そこには、蟇に似た月の獣とそのほぼ人間の奴隷たちが、悪臭を放つ輪をつくって蹲っていた。奴隷の何人かは奇妙な鉄の槍を跳ねる炎で熱し、ときおりその白熱した先端を、固く縛られた三人の捕虜に押し当てていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [19] “the tortured ghouls were none other than the faithful trio which had guided him safely from the abyss and had thereafter set out from the enchanted wood to find Sarkomand and the gate to their native deeps.” (訳: 拷問されている食屍鬼たちは、彼を深淵から無事に導き、そののち魔法の森を発ってサルコマンドと故郷の深みへの門を探しに行った、あの忠実な三人組にほかならなかった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [20] “fancied that the grey toad-like blasphemies had heard them inquire in Dylath-Leen concerning the way to Sarkomand and had not wished them to approach so closely the hateful plateau of Leng and the high-priest not to be described.” (訳: 灰色の蟇のような冒瀆的存在たちが、彼らがディラス=リーンでサルコマンドへの道を尋ねているのを聞きつけ、忌まわしいレンの高原と、言い表すべからざる大司祭にそれほど近づかれることを望まなかったのだろう、と彼は想像した。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [21] “Ten feet apart crouched the mocking-faced beasts of diorite, brooding on Cyclopean pedestals whose sides were chiselled into fearsome bas-reliefs. Betwixt them was a tiled court with a central space which had once been railed with balusters of onyx. Midway in this space a black well opened, and Carter soon saw that he had indeed reached the yawning gulf whose crusted and mouldy stone steps lead down to the crypts of nightmare.” (訳: 嘲るような顔をした閃緑岩の獣たちは十フィート隔てて蹲り、側面に恐ろしい浅浮彫を刻んだ巨大な台座の上で考え込んでいた。そのあいだにはタイル敷きの中庭があり、その中央の区画にはかつて縞瑪瑙の手すりが巡らされていた。区画の中ほどに黒い井戸が口を開けており、カーターはまもなく、自分が本当にあの大きく口を開けた深淵――地殻と黴に覆われた石段が悪夢の納骨所へ下っていく深淵――に辿り着いたのだと知った。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [22] “Terrible is the memory of that dark descent, in which hours wore themselves away whilst Carter wound sightlessly round and round down a fathomless spiral of steep and slippery stairs.” (訳: あの暗い下降の記憶は恐ろしい。カーターが何も見えぬまま、急で滑る底知れぬ螺旋階段をぐるぐると回り降りるあいだに、何時間もが擦り減っていった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [23] “Pickman explained that night-gaunts are the advance guard and battle steeds of the ghouls, and that the army was issuing forth to Sarkomand to deal with the moon-beasts.” (訳: ピックマンは、夜鬼が食屍鬼の前衛であり軍馬でもあること、そしてこの軍勢が月の獣を相手にするためサルコマンドへ出撃するのだと説明した。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [24] “Another moment and all were whirling in wind and darkness; endlessly up, up, up to the gate of the winged lions and the spectral ruins of primal Sarkomand.” (訳: 次の瞬間には全員が風と闇のなかを渦巻いて運ばれていた。果てしなく上へ、上へ、上へ――有翼の獅子の門と、原初のサルコマンドの幽鬼めいた廃墟へ。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [25] “it was to behold the great central plaza swarming with militant ghouls and night-gaunts.” (訳: 彼が目にしたのは、戦意に満ちた食屍鬼と夜鬼で埋め尽くされた大中央広場だった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [26] “soon the hapless creatures were borne silently away into the Great Abyss, to be distributed impartially amongst the bholes, gugs, ghasts, and other dwellers in darkness” (訳: まもなく哀れな生き物たちは音もなく大深淵へ運び去られ、ボール、グーグ族、ガスト、その他の闇の住人たちのあいだへ分け隔てなく分配されることになった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [27] “Carter, anxious to preserve a means of access to the rest of dreamland, urged them not to sink the anchored galley; and this request was freely granted” (訳: カーターは幻夢境の他の地域への行き来の手段を残しておきたかったので、錨を下ろしたガレー船を沈めないよう強く求めた。この願いは快く聞き入れられた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [28] “they had persisted in asking the way to Sarkomand until at last an old traveller was able to tell them. Then they knew that only a ship for Lelag-Leng would serve their purpose” (訳: 彼らはサルコマンドへの道をしつこく尋ね続け、ついに一人の老いた旅人が教えてくれた。そのとき彼らは、目的を果たすにはレラグ=レン行きの船しかないことを知った。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [29] “This time, however, the unseen rowers steered not for the moon but for antique Sarkomand; bent evidently on taking their captives before the high-priest not to be described.” (訳: だが今回は、見えざる漕ぎ手たちは月ではなく古のサルコマンドへ舵を取った。捕虜たちを、言い表すべからざる大司祭の前へ連れて行くつもりだったのは明らかである。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [30] “After that had come the landing at ruined Sarkomand and the beginning of the tortures, whose continuance the present rescue had prevented.” (訳: そのあとに来たのが、廃墟のサルコマンドへの上陸と拷問の開始であり、その続きを今回の救出が阻んだのだった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [31] “when the ghouls were satisfied that all the night-gaunts had left for Sarkomand and the Great Abyss with their doomed burdens” (訳: 夜鬼がことごとく、その破滅を定められた荷を携えてサルコマンドと大深淵へ発ったと食屍鬼たちが納得したとき) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [32] “Dawn found the ship in sight of Sarkomand’s ruined quays of basalt, where a few night-gaunt sentries still waited, squatting like black horned gargoyles on the broken columns and crumbling sphinxes of that fearful city which lived and died before the years of man.” (訳: 夜明けは、サルコマンドの崩れた玄武岩の埠頭を視界に入れた船を照らした。そこでは数体の夜鬼の歩哨がなお待っており、人の年月より前に生きて死んだあの恐ろしい都の、折れた円柱と崩れかけたスフィンクスの上に、黒い角のあるガーゴイルのように蹲っていた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [33] “The ghouls made camp amongst the fallen stones of Sarkomand, despatching a messenger for enough night-gaunts to serve them as steeds.” (訳: 食屍鬼たちはサルコマンドの倒れた石のあいだに野営し、軍馬として仕えるのに足りるだけの夜鬼を呼ぶため、使者を送った。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [34] “how even the Great Ones fear them, and how their ruler is not the crawling chaos Nyarlathotep at all, but hoary and immemorial Nodens, Lord of the Great Abyss.” (訳: 大いなるものたちでさえ彼らを恐れること、そして彼らの支配者が這い寄る混沌ニャルラトホテプではまったくなく、古く太古のノーデンス、大深淵の主であること。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [35] “the whole shocking army rose in a nightmare cloud above the broken columns and crumbling sphinxes of primordial Sarkomand; higher and higher, till even the great basalt cliff behind the town was cleared, and the cold, sterile table-land of Leng’s outskirts laid open to sight.” (訳: 衝撃的な軍勢はまるごと悪夢の雲となって、原初のサルコマンドの折れた円柱と崩れかけたスフィンクスの上へ舞い上がった。さらに高く、さらに高く上がって、ついには町の背後の大きな玄武岩の断崖さえ越え、レン外れの冷たく不毛な卓状地が眼下に開けた。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [36] “The Dream-Quest of Unknown Kadath (Autumn? 1926–22 January 1927)” (訳: 「未知なるカダスを夢に求めて」(1926年秋?〜1927年1月22日)) — H. P. Lovecraft’s Fiction, Alphabetical Order, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [37] “1943: The Dream-Quest of Unknown Kadath ( Beyond the Wall of Sleep , Arkham House)” (訳: 1943年:「未知なるカダスを夢に求めて」(作品集『Beyond the Wall of Sleep』、アーカム・ハウス)) — H. P. Lovecraft’s Fiction, Publication Order, The H. P. Lovecraft Archive ↩
  • [38] “They had touched at the jagged rock in the northern sea which Inganok’s mariners shun, and the ghouls had there seen for the first time the real masters of the ship” (訳: 彼らは、インガノクの船乗りが避ける北の海の切り立った岩に寄港しており、食屍鬼たちはそこで初めて、船の真の主人たちを目にしたのだった。) — 「未知なるカダスを夢に求めて」(1943年), The H. P. Lovecraft Archive ↩
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