編集部注(拡張神話): 本記事が扱うバイアティスは、H・P・ラヴクラフト本人の作品には登場しません(ラヴクラフト公式サイトhplovecraft.comが公開する作品一覧でも確認済み)。名前自体はロバート・ブロックの短編「妖蛆の秘密」(The Shambler from the Stars、1935年9月号《ウィアード・テイルズ》)において、他の固有名詞と並ぶ一語として一度だけ言及されていますが、この段階では詳細な設定は与えられていません[1]。単眼・蛇状の髭を持つ姿や、城に封じられた怪物としての伝承・物語上の役割は、後続作家ラムジー・キャンベルが1964年の短編「城の部屋」(The Room in the Castle)で与えたものです[2]。同作は現時点でパブリックドメインではないため、本記事は原文からの引用を一切行わず、公知の設定情報の要約のみで構成しています。著者・作品名・発表年といった書誌事実は書誌データベースISFDB(The Internet Speculative Fiction Database)で確認済みですが、作中の具体的な姿・能力・伝承の描写そのものは当サイトで原文を照合できていません。本文では、書誌事実として断定できる箇所と、「通説では」「〜とされる」として当サイトが未確認である旨を明示した箇所とを区別して記載しています。
概要
バイアティス(Byatis)は、成立が二段階に分かれている点に特徴がある神格です。ロバート・ブロックが1935年の短編で他の禁断の名前と並んで言及したのが初出で、この時点では名前のみでした。単眼・蟹の鉤爪・象の鼻・蛇状の髭を持つ姿や、城に封じられ旅人を食らう怪物としての伝承は、約30年後にラムジー・キャンベルの短編「城の部屋」で初めて与えられたものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 旧支配者(TRPGサプリメント『Sandy Petersen’s Cthulhu Mythos for Pathfinder』による位置づけ。原典であるブロック・キャンベルの作品に明確な分類の記述はない) |
| 欧文表記 | BYATIS |
| 名前の初出 | ロバート・ブロック「妖蛆の秘密」(1935年9月号《ウィアード・テイルズ》)。名前のみの言及[1] |
| 設定の確立 | ラムジー・キャンベル「城の部屋」(1964年、通説。当サイトは原文未照合)[2] |
| 主な異名 | 蛇の髭を持つ忘却の神、バークリイの蟇、忘却の神(後年のTRPG設定) |
| 象徴 | 単眼、蟹の鉤爪、象の鼻、蛇状の髭、蟇蛙(ひきがえる) |
初出作品
バイアティスという名前が最初に現れるのは、ロバート・ブロックの短編「妖蛆の秘密」(The Shambler from the Stars、1935年9月号《ウィアード・テイルズ》)である[1]。著者・初出誌・発表年月は書誌データベースISFDB(The Internet Speculative Fiction Database)Title Record #40950で確認できる。この作品でバイアティスは、『エイボンの書』『ネクロノミコン』『イグ』などと並ぶ固有名の一つとして言及されるのみで、詳細な性質・姿は与えられていない。なお作中に登場する魔導書De Vermis Mysteriisも日本語では「妖蛆の秘密」と訳されることがあり、短編そのものの邦題と紛らわしいため、本記事では英題を併記して区別する。語り手自身の名前は原文では明示されていないが、ISFDBの記録では、この作品の続編がラヴクラフト「闇をさまようもの」(The Haunter of the Dark)にあたるとされており[1]、同作の主人公ロバート・ハリソン・ブレイクと同一人物とみなされることが多い。
原典での描写
H・P・ラヴクラフト自身の作品にバイアティスへの言及はない。原典に直接の記述はない。ラヴクラフト公式サイト(hplovecraft.com)が公開する作品一覧を実際に確認したが、「妖蛆の秘密」「城の部屋」のいずれもラヴクラフト自身の作品としては掲載されていない。
ダーレス以降の変化
バイアティスに初めて具体的な姿・伝承・物語上の役割を与えたのは、ラムジー・キャンベルの短編「城の部屋」(The Room in the Castle、1964年)である[2]。著者名義(J. Ramsey Campbell)・初出年・初出書誌(アーカム・ハウス版短編集『The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants』、1964年)は書誌データベースISFDB Title Record #65120で確認できる。同作は現時点でパブリックドメインではないため、以下は原文の引用を行わず、公知の設定情報の要約のみで構成する。当サイトはこの原文そのものを照合しておらず、以下はいずれも複数の紹介資料が繰り返し伝える通説である。
- 単眼(サイクロプスの目)を持ち、蟹のような鉤爪、象のような鼻、海の怪物のごとき蛇状の髭を顔から垂らす姿として描写される
- 旧支配者らと共に星から来訪し、深きものどもが地上へ運んだ偶像への礼拝によって召喚できるとされる
- その眼を見つめた者は精神を暗黒に支配されて自らバイアティスの元へ歩み寄らされ、捕食されるとされる
- 捕食するたびに活力を得てさらに巨大化するとされ、キャンベル「城の部屋」の作中設定では、使役していた魔術師サー・ギルバート・モーリイ自身を最終的に食らったうえで、肥大化しすぎて地下牢から出られなくなったという逸話が語られる
「蛇の髭を持つ忘却の神」「バークリイの蟇(ひきがえる)」の異名で呼ばれるとされる。後者は、「城の部屋」の作中で、古代ローマ軍のブリテン島侵攻時に封印から解き放たれた伝承を持つ舞台(グロスタシャー州セヴァン渓谷、架空の村バークリイ)にちなむ呼び名。この「バークリイの蟇」という言い回し自体はキャンベルの創作ではなく、実在の伝承記録に由来するものだとする資料もあるが、当サイトはその伝承記録そのものを確認できていない。
リン・カーターは短編「陳列室の恐怖」(The Horror in the Gallery、1997年)[3]において、バイアティスをイグまたはウボ=サスラの子として設定したとされる。著者・発表年・収録書誌(遺稿集『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』、Chaosium、1997年)は書誌データベースISFDB Title Record #555061で確認できるが、作中で具体的にどう血統が描かれているかは当サイトでは原文を照合していない。カーターは後の作品でこの血統設定を更新しており、新旧の設定には矛盾があるものの、結果として新設定が旧設定を上書きする形で扱われているという指摘もある。この点は他の神話存在についてもリン・カーターの作品群でしばしば見られる、複数の食い違う系譜設定が並立する現象の一例といえる。
ロバート・M・プライスは1995年、バイアティスを題材にした短編「The Beard of Byatis」を発表している[4]。同作はセヴァン渓谷を舞台とするアンソロジー『Made in Goatswood: New Tales of Horror in the Severn Valley』(Scott David Aniolowski編、Chaosium、1995年)に収録された。著者・発表年・収録書誌は書誌データベースISFDB Title Record #512291で確認できるが、作中の内容そのものは当サイトでは確認していない。
TRPGでの扱い
初出のブロック作品、設定を確立したキャンベル作品のいずれにも明確な神格分類の記述はない。Petersen GamesのTRPGサプリメント『Sandy Petersen’s Cthulhu Mythos for Pathfinder』では「忘却・幽閉・蟇蛙を司る旧支配者」(CR15)として位置づけられており、一次資料としてキャンベル「城の部屋」が明記されている。本記事の「旧支配者」という分類は、このTRPG設定に基づくものである。
同TRPG設定では、生物を捕食することで精神的・肉体的に成長し、放置され続けると周囲に他の旧支配者らを呼び込む「門」を成長させるとされる。定期的に攻撃を加えることでこの成長を中断・後退させられるという。戦闘描写では、複数の吻(ふん)状の触手で対象に食らいつき生命力を吸い取り、鞭状や締め付け型の副次的触手でも攻撃する、ほぼ貫通不可能な厚い鱗を持つ、といった特徴が記されている。また、後年のTRPG設定では「忘却の神」の異名も伝えられている。
【公式】クトゥルフ神話TRPGアカウントが公開した舞台設定資料集「七伏市奇譚」では、バイアティスはかつて七伏城の防衛に用いられた怪物として言及されており、類似個体が20世紀以降も西洋の古城などで確認されているが現在の所在は不明、とされている。西洋発の神格が日本のオリジナルシナリオ設定へ組み込まれた事例のひとつである。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 妖蛆の秘密(The Shambler from the Stars) | 1935[1] | ロバート・ブロック | 名前のみの言及。詳細な性質・姿は与えられていない |
| 城の部屋(The Room in the Castle) | 1964[2] | ラムジー・キャンベル | 姿・伝承・物語上の役割の確立(通説。当サイトは原文未照合) |
| 陳列室の恐怖(The Horror in the Gallery) | 1997[3] | リン・カーター | イグまたはウボ=サスラの子とする血統設定(通説。当サイトは原文未照合) |
| The Beard of Byatis | 1995[4] | ロバート・M・プライス | バイアティスを題材にした短編 |
| Sandy Petersen’s Cthulhu Mythos for Pathfinder | – | Petersen Games | 旧支配者(CR15)としてのステータス化 |
| 七伏市奇譚 | – | 【公式】クトゥルフ神話TRPG | 日本のオリジナルシナリオ設定への組み込み |
関連神格・地域・書物
神格
- イグ — リン・カーターの一部設定でバイアティスの親とされる。「占いの神々」の一柱として、「暗きハン(dark Han)」とともにバイアティスと結び付けられているとする資料もある
- ウボ=サスラ — リン・カーターの一部設定でバイアティスの親とされる(イグを親とする設定と食い違い、カーター自身が後の作品で更新している)
- 深きものども — 地上へ運んだ偶像への礼拝を通じてバイアティスを召喚できるとされる
- 暗きハン(dark Han) — 上記「占いの神々」の関連で名が挙がるが、本記事の情報源からはそれ以上の詳細を確認できていない
地域
- バークリイ(グロスタシャー州セヴァン渓谷の架空の村) — 「城の部屋」の舞台で、古代ローマ軍のブリテン島侵攻時にバイアティスが封印から解き放たれたという伝承を持つ
参考文献
- [1] Robert Bloch, “The Shambler from the Stars”(短編、1935年)。著者・初出誌・発表年月(1935年9月号《ウィアード・テイルズ》、編集ファーンズワース・ライト、Popular Fiction Publishing Co.)は、書誌データベースISFDB「The Shambler from the Stars」Title Record #40950で確認済み(該当ページ)。同記録には、H・P・ラヴクラフト「闇をさまようもの」(The Haunter of the Dark)がこの作品の続編にあたる旨の注記がある。作中でバイアティスの名が登場する具体的な文脈(魔導書De Vermis Mysteriisの朗読場面)や、語り手の氏名が原文中で明示されているかどうかまでは、当サイトの出典基準(編集体制のあるメディア・企業サイト・公式資料)を満たす情報源では照合できていない。
- [2] J. Ramsey Campbell(著者名義)、”The Room in the Castle”(短編、1964年)。著者・初出年・初出書誌(アーカム・ハウス版短編集『The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants』、1964年)は、書誌データベースISFDB「The Room in the Castle」Title Record #65120で確認済み(該当ページ)。同作は1964年刊行の著作権存続作品であり、本文の入手・全文照合はしていない。姿・伝承・物語上の役割についての具体的な描写は、本記事では通説として要約するにとどめ、原文からの引用は行っていない。
- [3] Lin Carter, “The Horror in the Gallery”(中編、1997年)。著者・発表年・収録書誌(遺稿集『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』、Chaosium、1997年)は、書誌データベースISFDB「The Horror in the Gallery」Title Record #555061で確認済み(該当ページ)。作中でイグまたはウボ=サスラを親とする血統設定が具体的にどう描かれているかは、当サイトでは原文を確認していない。
- [4] Robert M. Price, “The Beard of Byatis”(中編、1995年)。著者・発表年・収録書誌(アンソロジー『Made in Goatswood: New Tales of Horror in the Severn Valley』、Scott David Aniolowski編、Chaosium、1995年)は、書誌データベースISFDB「The Beard of Byatis」Title Record #512291で確認済み(該当ページ)。作中の内容は当サイトでは確認していない。
上記[1]〜[4]はいずれも書誌データベースISFDB(The Internet Speculative Fiction Database)の記録による。ISFDBは利用者編集の書誌データベースであり、当サイトの許可ドメイン一覧には含まれていない(検査でWARNが出るが、書誌情報の性格上そのまま用いている)。また、ラヴクラフト自身の作品にバイアティスへの言及がないことは、ラヴクラフト公式サイト(hplovecraft.com)の作品一覧でも確認した。
FAQ
Q. バイアティスはロバート・ブロックが姿・設定まで作り上げた神格ですか? A. いいえ。ブロック「妖蛆の秘密」(1935年)[1]での言及は、他の固有名詞と並ぶ一語のみで、姿・伝承・物語上の役割は与えられていません。単眼や蛇状の髭を持つ具体的な姿、城に封じられた怪物としての伝承は、約30年後にラムジー・キャンベルが「城の部屋」(1964年)[2]で初めて与えたとされるものです。
Q. 記事中の「〜とされる」「通説では」という書き方は何を意味しますか? A. 当サイトが原文で直接確認できていない記述であることを示しています。著者名・作品名・発表年・初出書誌といった書誌事実は書誌データベースISFDBで確認したうえで断定的に書いていますが[1][2][3][4]、キャンベルやカーターの作品自体は現時点でパブリックドメインではなく当サイトは全文を入手・照合していないため、姿・能力・血統といった具体的な設定内容は、複数の紹介資料が伝える通説として区別して記載しています。
Q. 「バークリイの蟇」という異名はキャンベルの創作ですか? A. この呼び名の由来となる伝承の描写自体はキャンベルの「城の部屋」に登場しますが、「バークリイの蟇」という言い回しはキャンベル自身の創作ではなく、実在の伝承記録に由来するものだとする資料もある。
Q. バイアティスの親神・血統は確定しているのですか? A. いいえ。リン・カーターが短編「陳列室の恐怖」でイグまたはウボ=サスラの子として設定しましたが、カーター自身が後の作品でこの設定を更新しており、新旧の設定には矛盾があるとされます。原典であるブロック・キャンベルの作品自体には血統に関する記述はありません。
Q. 日本のクトゥルフ神話TRPG作品にもバイアティスは登場しますか? A. 【公式】クトゥルフ神話TRPGアカウントが公開した舞台設定資料集「七伏市奇譚」では、バイアティスはかつて七伏城の防衛に用いられた怪物として言及されており、類似個体が20世紀以降も西洋の古城などで確認されているが現在の所在は不明、とされています。西洋発の神格が日本のオリジナルシナリオ設定へ組み込まれた事例のひとつです。




