書籍(英語・図鑑、SIRIUS[ARCTURUS PUBLISHING]刊、米国版2026年8月4日発売) — Strange World of H. P. Lovecraft: A Guide to the Characters and Creations of the Cthulhu Mythos

Strange World of H. P. Lovecraft

Sirius(Arcturus Publishing)がMark Hayes著『Strange World of H. P. Lovecraft』を2026年8月4日に発売する。公式紹介文は「Great Old Ones of the Cthulhu Mythos」と一続きに書くが、この一文自体が原典の語と後世の呼称を重ねている。目次は未公開で、内容が層をどう扱うかは紹介文の語法からしか判定できない。

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東雅夫『クトゥルー神話大事典』(新紀元社)。同じ分野の日本語の事典。本書と読み比べる基準になる。

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概要

Sirius(英Arcturus Publishing Limitedのインプリント)は、Mark Hayes著『Strange World of H. P. Lovecraft: A Guide to the Characters and Creations of the Cthulhu Mythos』を、米国では2026年8月4日に発売する。ハードカバー144ページ、ISBN13は9781398868632、リスト価格16.99ドル、Simon & Schusterが流通を担う[1]。

この本を当サイトは読めていない。したがって判定できるのは、公式に公開されている紹介文の語法までである。本稿では、Simon & SchusterとArcturus Publishing自身の商品ページの文面を一字一句確認し、そこに並ぶ「Great Old Ones」「Cthulhu Mythos」「Dreamlands」「Lovecraft’s tales」という語が、当サイトが個々の用語記事で確認してきたラヴクラフト自身の用法と、どこで重なり、どこでずれるかを見る。内容そのものへの評価は行わない。

なお、同じ版元Arcturus Publishing自身のオンラインストアには、タイトルの表記・ISBN・価格・発売時期がいずれも異なる別掲載が存在する。この食い違いも含めて、確認できた事実だけを以下に記す。

どんな作品か

Simon & Schusterの商品ページに掲載された紹介文は、次の三段落からなる。1段落目、「Ideal for horror fans, this stunning, fully illustrated guide unlocks the eerie worlds and enduring legacy of H. P. Lovecraft’s cosmic mythos and monsters.」(ホラーファンに向けた、この見事なイラスト満載のガイドは、H・P・ラヴクラフトの宇宙的神話と怪物たちが持つ不気味な世界と、その息の長い影響力を解き明かす)[1]。

2段落目、「In this fascinating reference guide, you will discover the secrets and mysteries of H. P. Lovecraft’s iconic worlds. From the Great Old Ones of the Cthulhu Mythos to the shifting places of the Dreamlands, the settings of Lovecraft’s stories are replete with terrifying monsters, bizarre creations and cosmic mysteries.」(この魅力的な参考ガイドで、読者はH・P・ラヴクラフトの象徴的な世界の秘密と謎を発見する。クトゥルフ神話の旧支配者たちから、移ろいゆくドリームランドの各地に至るまで、ラヴクラフトの物語の舞台は、恐ろしい怪物、奇怪な創造物、そして宇宙的な謎に満ちている)[1]。

3段落目、「Fully illustrated with full-color images and maps, the world of Cthulhu is brought to life as never before in this volume and you will soon become an expert in the characters and locations of Lovecraft’s tales. As well as descriptions and explanations of the key people, events and places, this book includes an exploration of Lovecraft’s legacy and examines how his writing has continued to enthrall and influence people for nearly a century.」(フルカラーの図版と地図で全編に挿絵が施され、クトゥルフの世界はこれまでにない形でこの一冊に息を吹き込まれる。読み終える頃には、読者はラヴクラフトの物語に登場する人物や場所に通じているはずだ。主要な人物・出来事・場所の説明に加え、本書はラヴクラフトが遺した影響を掘り下げ、彼の作品がおよそ一世紀にわたって人々を魅了し、影響を与え続けてきた経緯を検証する)[1]。

著者Mark Hayesの経歴紹介は、商品ページに「About the Author」という項目自体は用意されているものの、当サイトが取得した時点では本文が空欄で、確認できなかった。目次も同様に「Table of Contents」という項目名だけがあり、内容は確認できていない。

「Great Old Ones of the Cthulhu Mythos」——一文に同居する二つの由来

この紹介文で目を引くのは、「Great Old Ones of the Cthulhu Mythos」という句である。「旧支配者(Great Old Ones)」という語自体は、後世の造語ではない。当サイトの旧支配者記事で確認した通り、ラヴクラフト自身が「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年発表)の中で既に使っている。「They worshipped, so they said, the Great Old Ones who lived ages before there were any men, and who came to the young world out of the sky.」(彼らが崇拝していたのは、人類が存在するより遥か以前から生き、若き世界へ空から到来した旧支配者であったという)[3]。

一方、それに続く「Cthulhu Mythos」という名称のほうは、ラヴクラフト自身の造語ではない。当サイトの「クトゥルフ神話」という呼称の成立記事によれば、この呼び名はラヴクラフトの死後、友人オーガスト・ダーレスが1937年のエッセイで初めて用いたとされ、ダーレス自身が1969年の論考で「ラヴクラフトは一度もそう呼んだことはない」と明言している[4]。ラヴクラフト本人は、自らの作品群を諧謔を込めて「ヨグ=ソトーサリー(Yog-Sothothery)」と呼んでいたにとどまる[4]。

つまり「Great Old Ones of the Cthulhu Mythos」という一句は、ラヴクラフト自身が書いた語と、彼の死後に他人が付けた体系名を、一つの名詞句として結びつけている。これ自体は誤りではない——「クトゥルフ神話」という呼称は当サイトを含め半世紀以上定着した慣用表現であり、この本の紹介文だけがそうしているわけでもない。ただ、この一句が二つの異なる由来の語を無造作に重ねている、という事実そのものは記録しておく価値がある。

「Dreamlands」もまた、原典の固有名詞ではない

紹介文にはもう一つ、「the shifting places of the Dreamlands」という言い回しがある。大文字で始まる「Dreamlands」は、あたかも原典に定着した固有名詞であるかのように読める。だが当サイトの夢の国記事が本文を数えた結果によれば、出典となる「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年発表)の地の文には、単数形の”dreamland”が三十例、”land of dream”が六例、複数形の”dreamlands”が二例、”land of dreams”が一例、合計三十九例が現れるが、いずれも普通名詞としての言い回しであり、「Dreamlands」という体系名としての固有名詞表記はこの作品自体には登場しない。

複数形が使われる数少ない箇所の一つは、こう続く。「…whether it be in the dreamlands around our world, or in those surrounding some unguessed companion of Fomalhaut or Aldebaran. If in our dreamland, it might conceivably be reached; but only three fully human souls since time began had ever crossed and recrossed the black impious gulfs to other dreamlands, and of that three two had come back quite mad.」(それが我々の世界を巡る夢の国の中にあるのか、それともフォーマルハウトやアルデバランの見知らぬ伴星を巡る夢の国の中にあるのかを。我々の夢の国の中であれば辿り着けるかもしれないが、開闢以来、他の夢の国との間を渡ってまた戻った完全な人間の魂はわずか三人しかおらず、その三人のうち二人は正気を失って帰ってきた)[5]。ラヴクラフト自身の設定では、夢の国は地球一つに固定された単一の地名ではなく、恒星ごとに複数存在しうる普通名詞的な場だったことになる。

紹介文の「the shifting places of the Dreamlands」という句が指しているのがどちらの意味か——地球の夢の国という単一の舞台なのか、恒星ごとに散らばる複数の夢の国という原典の設定を踏まえたものなのか——は、この一文だけからは判断できない。「Dreamlands」という表記自体が、原典の言葉ではなく後年に定着した呼び方だという点だけを、ここでは確認しておく。

判定できるのは紹介文の語法まで——目次は未公開

ここまで見てきた二つの句はどちらも、原典の語と後世の呼び方を並べて使っている。この本の実際の項目立てが、当サイトが神格記事で行っているような層の書き分け——「原典では〜」「後世の設定では〜」という区別——を内部で行っているのか、それとも紹介文と同じように由来を分けずに一続きの物語として語っているのかは、公開されている資料からは判定できない。「Table of Contents」の項目名はSimon & Schusterの商品ページに存在するが、当サイトが取得した時点では中身が空欄で、実際の収録項目・章立ては確認できなかった。

この点は、同時期に取り上げた『Encyclopedia Cthulhiana 第4版』と比べると性格の違いが分かる。あちらの版元ケイオシアムの発表文は、収録対象がラヴクラフト自身の作品・後続作家の拡張・TRPGの設定資料の三者にまたがることを明言したうえで、それぞれの由来を挙げていた。今回の紹介文には、そうした由来の説明は一切ない。「Great Old Ones」「Cthulhu Mythos」「Dreamlands」「Lovecraft’s tales」がすべて同じ地平の言葉として並べられ、どの語がラヴクラフト自身の筆になり、どの語が後世の体系化に属するかを読者に示す記述は見当たらない。これは紹介文というごく短い文章の性質上、当然の簡略化とも言えるし、本文自体がそうなのかは分からない。

原典との距離(神話の三層のどこに立つか)

この本が扱うと紹介文にある「Great Old Ones」「Dreamlands」という概念そのものは、いずれも当サイトの区分で第1層(原典)に属する。前者はラヴクラフト自身が「クトゥルフの呼び声」で用いた語であり、後者もラヴクラフト自身が「未知なるカダスを夢に求めて」で(固有名詞化はされない形で)描いた世界である。原典の素材そのものを扱う本だという点は、紹介文の記述から確認できる。

一方、それらを束ねる「Cthulhu Mythos」という名称は、当サイトの区分で言えば第2層(ダーレス以降の拡張)の入口にあたる。原典の素材を、原典には無かった名前で呼ぶという二重構造は、この本に限らず「クトゥルフ神話」を扱うほとんどすべての解説書・事典に共通する事情であり、当サイトのクトゥルフ神話——よくある誤解Q&Aが確認している通り、そもそも「完全な公式設定」自体が存在しない以上、避けようのない前提でもある。

問題は、この本がその二重構造を読者に説明しているかどうかである。紹介文の語法だけを見る限り、原典の語と後世の名称は区別なく並んでおり、この一冊が第1層の素材を第1層として提示しているのか、それとも第2層・第3層(TRPG設定)の要素も併せて収録し、由来を明示せずに一冊にまとめているのかは、当サイトでは確認できない。目次が公開されていない以上、この本が実際にどの層をどこまで扱っているかについての判断は、紹介文の語法から読み取れる範囲にとどめる。

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出典

  • [1] Simon & Schuster公式商品ページ(2026年9月9日取得、curlで直接取得)。タイトル「Strange World of H. P. Lovecraft」、副題「A Guide to the Characters and Creations of the Cthulhu Mythos」、著者Mark Hayes、出版社「Arcturus Publishing Limited」・インプリント「Sirius」、「Distributed by Simon & Schuster」、判型Hardcover、ページ数144、ISBN13「9781398868632」、リスト価格「$16.99」、発売日「Publisher: Sirius (August 4, 2026)」、紹介文全文(「Ideal for horror fans, this stunning, fully illustrated guide unlocks the eerie worlds and enduring legacy of H. P. Lovecraft’s cosmic mythos and monsters.」「In this fascinating reference guide, you will discover the secrets and mysteries of H. P. Lovecraft’s iconic worlds. From the Great Old Ones of the Cthulhu Mythos to the shifting places of the Dreamlands, the settings of Lovecraft’s stories are replete with terrifying monsters, bizarre creations and cosmic mysteries.」「Fully illustrated with full-color images and maps, the world of Cthulhu is brought to life as never before in this volume and you will soon become an expert in the characters and locations of Lovecraft’s tales. As well as descriptions and explanations of the key people, events and places, this book includes an exploration of Lovecraft’s legacy and examines how his writing has continued to enthrall and influence people for nearly a century.」)を確認した。「Table of Contents」「About the Author」という項目名は存在するが、本文はいずれも空欄だった。https://www.simonandschuster.com/books/Strange-World-of-H-P-Lovecraft/Mark-Hayes/9781398868632 ↩
  • [2] Arcturus Publishing公式オンラインストア商品ページ(2026年9月9日取得、curlで直接取得)。タイトル表記「The Strange World of H. P. Lovecraft」、ISBN「9781398855984」、vendor「Mark Hayes」、type「Hardcover」、価格「£14.99」、商品タグ「imprint:Arcturus」「publisher:Arcturus Publishing」「format:Hardcover」「publication-date:2026-09-01」、紹介文冒頭「A stunning visual guide to the worlds created by one of horror’s most influential writers.」に続き、[1]と同一の第2・第3段落(綴りのみ”full-colour”の英国綴り)を確認した。同社サイト内検索結果ページでは、この版のみが該当した。https://arcturuspublishing.com/products/9781398855984 ↩
  • [3] 「They worshipped, so they said, the Great Old Ones who lived ages before there were any men, and who came to the young world out of the sky.」(訳: 「彼らが崇拝していたのは、人類が存在するより遥か以前から生き、若き世界へ空から到来した旧支配者であったという」) — H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表)、当サイト「旧支配者」記事で確認済みの引用、hplovecraft.com ↩
  • [4] 「クトゥルフ神話(Cthulhu Mythos)」という呼称がオーガスト・ダーレスの1937年のエッセイに端を発し、ダーレス自身が1969年の論考で「ラヴクラフトは一度もそう呼んだことはない」と明言していること、ラヴクラフト自身は自らの作品世界を「ヨグ=ソトーサリー(Yog-Sothothery)」と呼んでいたことの記載がある — 当サイト「「クトゥルフ神話」という呼称の成立」 ↩
  • [5] 「…whether it be in the dreamlands around our world, or in those surrounding some unguessed companion of Fomalhaut or Aldebaran. If in our dreamland, it might conceivably be reached; but only three fully human souls since time began had ever crossed and recrossed the black impious gulfs to other dreamlands, and of that three two had come back quite mad.」(訳: 「それが我々の世界を巡る夢の国の中にあるのか、それともフォーマルハウトやアルデバランの見知らぬ伴星を巡る夢の国の中にあるのかを。我々の夢の国の中であれば辿り着けるかもしれないが、開闢以来、他の夢の国との間を渡ってまた戻った完全な人間の魂はわずか三人しかおらず、その三人のうち二人は正気を失って帰ってきた」)、および原文中の「夢の国」にあたる語の出現回数(単数形dreamland30例・land of dream6例・複数形dreamlands2例・land of dreams1例、合計39例)が普通名詞としての用法にとどまり、固有名詞としての「Dreamlands」表記が作品自体には登場しないことの記載がある — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表)、当サイト「夢の国」記事で確認済み、hplovecraft.com ↩

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