概要
プロビデンスの実際の街並みと、友人のロバート・ブロックとの文学的ジョーク(お互いの作家を作品中で殺し合う)から生まれた、ラヴクラフト最後の小説作品。
作品情報
- 執筆・発表年: 1935年執筆/1936年発表(「ウィアード・テイルズ」誌)
- 主題タグ: 覗き見る恐怖、廃教会の秘密、雷雨と停電
登場神格・用語
あらすじ
怪奇作家ロバート・ブレイクは、プロビデンスのフェデラル・ヒルに立つ黒々とした廃教会の塔に惹かれ、内部を探索する。地元のイタリア系住民たちは以前からこの教会に近づくことを避けていた——聖職者たちは「かつて何か途方もない邪悪がここに棲みつき、痕跡を残していった」と皆に警告しており、ブレイク自身も子供の頃から父親越しにそうした不穏な噂話を耳にしていたという[1]。教会内部では、かつて邪教「星の知恵派」が使用していた奇妙な金属箱と、非対称の黒い石「輝くトラペゾヘドロン」を発見。ブレイクが石を覗き込んだことで、塔の暗闇に潜んでいた「暗闇の悪魔(ニャルラトホテプの化身)」が覚醒してしまう。塔の一角には、数十年前にこの教会を調査したとみられる記者らしき人物の白骨死体が、擦り切れた灰色のスーツの断片とボタンをまとったまま長らく放置されていたことも判明する[2]。この怪物はわずかな光も浴びると消滅するため、塔の暗闇に閉じ込められていたが、ある夜、プロビデンスを巨大な雷雨と停電が襲う。街の光が消え、暗闇が支配する中、怪物があばら家からブレイクの自宅へと向かって飛来。翌朝、ブレイクは自宅の書斎の窓際で、完全に恐怖で凍りついた死体となって発見される[3]。彼の最後の日記には、怪物の接近と精神が融合していくプロセスが書き残されていた。
読みどころと注目テーマ
光と闇の物理学、知覚と同化、都市伝説の再現
執筆背景と影響
ロバート・ブロックが『星から訪れた獣』でラヴクラフトをモデルにした人物を殺したことへの返礼として書かれた。プロビデンスの歴史的景観が緻密に描かれ、彼のゴシック的怪奇と宇宙的恐怖の幸福な融合を示している。本作は1935年11月5日から9日にかけて執筆され、ラヴクラフトが単独で書いた最後の小説となった(これ以降に発表された作品は、他の作家との共作のみである)[4]。ラヴクラフトは当時まだ若い文通仲間だったブロックに宛てた手紙で、作中人物ロバート・ブレイクが友人ブロックをそれとわかる形でモデルにした人物であることを明かしており、ブロック自身は後年の1950年、この掛け合いを引き継ぐ形で続編にあたる短編『尖塔の影』を発表した。批評家フリッツ・ライバーは本作を「彼の優れた作品の一つであり、そして最後の作品」と評し、ホラー史家R・S・ハジも本作を「史上最も恐ろしいホラー短編」のリストに含めている[4]。
出典
- [1] “…the Italian priests warned everybody against it, vowing that a monstrous evil had once dwelt there and left its mark. He himself had heard dark whispers of it from his father, who recalled certain sounds and rumours from his boyhood.”(訳: 「……イタリア人の聖職者たちは皆にこの場所への接近を戒め、かつて途方もない邪悪がここに棲みつき、痕跡を残していったのだと言い続けていた。彼自身も、子供時代のある種の物音や噂を覚えていた父から、この不穏な話を耳にしていた」) — H. P. Lovecraft, “The Haunter of the Dark”(1935年執筆/1936年発表), 公式アーカイブ ↩
- [2] “It was a human skeleton, and it must have been there for a very long time. The clothing was in shreds, but some buttons and fragments of cloth bespoke a man’s grey suit.”(訳: 「それは人間の骸骨であり、非常に長い間そこにあったに違いなかった。衣服はぼろぼろだったが、いくつかのボタンと布の断片から、男物の灰色のスーツであったことが窺えた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [3] “The rigid body sat bolt upright at the desk by the window, and when the intruders saw the glassy, bulging eyes, and the marks of stark, convulsive fright on the twisted features, they turned away in sickened dismay.”(訳: 「硬直した遺体は、窓際の机に真っ直ぐ座った姿勢のままだった。侵入者たちは、そのガラスのような飛び出した目と、ねじれた顔に刻まれた剥き出しの痙攣的な恐怖の痕跡を目にすると、吐き気を催しながら顔を背けた」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [4] 執筆時期(1935年11月5日〜9日、ラヴクラフトが単独名義で書いた最後の小説)、「ウィアード・テイルズ」誌1936年12月号(第28巻5号)への掲載、ロバート・ブロックの1935年作『星から訪れたもの』への返礼として着想され、作中のロバート・ブレイクがブロックをモデルにしていることを本人への書簡で認めていた点、ブロックが1950年発表の続編『尖塔の影』でこの掛け合いを引き継いだ点、批評家フリッツ・ライバーおよびR・S・ハジによる高評価について。— 出典: Wikipedia「The Haunter of the Dark」, 該当ページ ↩






