概要
『エルドリッチホラー』は、世界を舞台にした協力型ボードゲームである。日本語版を出しているアークライトの公式商品ページによれば、メーカーは Fantasy Flight Games、デザイナーは Nikki Valens と Corey Konieczka、原題は *ELDRITCH HORROR*、日本語版の発売は2014年4月[1]。
アークライトは本作を、一文でこう位置づけている[1]。
これが全世界版「アーカムホラー」だ!
『アーカムホラー』が街ひとつを盤にしたのに対し、本作は 地球全体 を盤にする[1][2]。
基本情報
アークライト公式の「商品概要」による[1]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メーカー | Fantasy Flight Games |
| デザイナー | Nikki Valens / Corey Konieczka |
| 原題 | ELDRITCH HORROR |
| 日本語版の販売 | アークライト |
| 日本語版発売 | 2014年4月 |
| 価格 | 7,480円(税込) |
| プレイ人数 | 1〜8人 |
| プレイ時間 | 120〜240分 |
| 対象年齢 | 14歳以上 |
1〜8人。当サイトが扱う神話系ボードゲームの中で、もっとも多くの人数に対応する[2][3]。
世界を旅する
公式紹介文が語る設定は、次のとおりである[1]。
世界は崖っぷちに立たされている。巨大な災厄が今にも訪れようとしている。現実とあちらの世界との壁が壊れ始め、異世界へのゲートが出現するにつれて、あらゆる大陸に、奇妙なカルト集団や、言葉を話せないモンスターたちが出現し始めている。あなたたち数少ない勇敢な探索者たちだけが、彼らに対抗できるのだ。
遊び方についてはこう書く[1]。
列車や船を使って 南極やアマゾン奥地、アーカムや東京など、世界各地を旅し、それぞれのモンスターに応じたクエストを解決しよう。時には 星座表に記された星辰の並び により、各地のゲートからモンスターがあふれてきたり、時にはクエストの指示により ルルイエが浮上 してきたりするかもしれない!
東京が名指しされている点は、日本語圏の読者にとって目を引く[1]。ラヴクラフト原典の舞台はほぼニューイングランドに限られるが、本作は世界のどこでも神話的な事件が起きうるという前提を採っている。
クトゥルフ神話との関係
「星辰の並び」と「ルルイエ浮上」
公式紹介文が挙げる2つの仕掛けは、どちらも原典に直接の出どころがある[1]。
星辰の並び。ラヴクラフト「クトゥルフの呼び声」(1928年)には、次の一節がある[4]。
Then, whispered Castro, those first men formed the cult around small idols which the Great Ones shewed them; idols brought in dim aeras from dark stars. That cult would never die till the stars came right again, and the secret priests would take great Cthulhu from His tomb to revive His subjects and resume His rule of earth.
(カストロがささやいたところによれば、最初の人間たちは、大いなるものたちが示した小さな偶像のまわりに教団を作った。偶像は、暗い星々から遠い時代にもたらされたものだった。その教団は 星辰が再び正しい位置に来るまで 決して死なず、秘密の司祭たちは偉大なるクトゥルフをその墓所から連れ出し、臣下たちを蘇らせ、地上の支配を再開させるのだ)
「星辰が正しい位置に来る」というこの条件が、本作では 星座表 というコンポーネントになっている[1]。
ルルイエ浮上。同じ作品の第3章には、地震によって海底から都市が持ち上げられる記述がある[4]。
The Emma, in ballast, had cleared Auckland on February 20th, and had felt the full force of that earthquake-born tempest which must have heaved up from the sea-bottom the horrors that filled men’s dreams.
(エマ号はバラストを積んでオークランドを2月20日に出港し、あの地震によって生じた嵐の力をまともに受けた。その嵐こそが、人々の夢を満たした恐怖を海底から持ち上げたにちがいない)
浮上した都市については、次のように書かれている[4]。
…come upon a coast-line of mingled mud, ooze, and weedy Cyclopean masonry which can be nothing less than the tangible substance of earth’s supreme terror—the nightmare corpse-city of R’lyeh, that was built in measureless aeons behind history by the vast, loathsome shapes that seeped down from the dark stars.
((前略)泥と軟泥と海草に覆われた巨石建築の入り混じる海岸線に行き当たった。それは地上最高の恐怖の実体にほかならない——悪夢のような屍の都市ルルイエ。暗い星々から滴り落ちてきた巨大で忌まわしい形態のものたちが、歴史の背後の計り知れない永劫のうちに築いたものだ)
本作はこれを「クエストの指示により」起きる事象としてゲーム化した[1]。原典では一度きりの出来事が、盤上では繰り返し起こりうる事象になっている。
同作は1928年の発表で、米国の著作権保護期間(発表から95年)を過ぎてパブリックドメインに入っているため、当サイトは原文を引用している。
「エンシェントワン」を葬る
公式は探索者の目的を「遥かな奥地を調査し、影に潜む悪夢のような生きものと戦い、古の謎を解き、エンシェントワンを葬ること」と書く[1]。
『アーカムホラー 第3版』が「エンシェントワンの行動を妨害する」だったのに対し[2]、本作は「葬る」である[1]。目的の強度が違う。世界規模のゲームであるぶん、決着の付け方も大きい。
当サイトが旧支配者の記事で扱う分類との関係は、そちらを参照してほしい。
層としてはどこか
当サイトの神話の三層でいえば、本作は第3層——ゲームによる拡張——にあたる。南極・アマゾン・東京という舞台の広がりは、原典にはないゲーム独自の拡張である。
「星辰が正しい位置に来る」とは何か
引用した一節は、本作の星座表というコンポーネントが何を表しているかを教えてくれる。
原典において、クトゥルフの復活は 時が来れば起きる ものであって、誰かが起こすものではない。星の配置という、人間の手の届かない条件が満たされたときに目覚める。教団がすることは、その時まで信仰を絶やさないことだけである[4]。
この「待つしかない」という構造が、ゲームでは時間制限として機能する。本作の星座表は、盤上に置かれた砂時計にあたる。
同じ一節は、教団の性格も示している。彼らは神を呼び出そうとしているのではなく、目覚めたときに備えている。本作の紹介文にある「あらゆる大陸に、奇妙なカルト集団や、言葉を話せないモンスターたちが出現し始めている」という状況[1]は、その備えが世界規模で進んでいる段階だと読める。
内容物から分かること
公式が掲載しているコンポーネント一覧は、次のとおり[1]。
| 種別 | 数量 |
|---|---|
| ゲームボード | 1枚 |
| ルールブック / リファレンスガイド | 各1冊 |
| 探索者シート | 12枚 |
| エンシェントワンシート | 4枚 |
| カード | 303枚 |
| トークン | 245個 |
| ダイス | 4個 |
| 探索者コマ / プラスチックの台 | 各12個 |
エンシェントワンシートが4枚ある[1]。誰を相手にするかで、盤面の展開が変わる作りである。探索者12人との組み合わせで、毎回違う顔ぶれの戦いになる。
3作の中での位置
アークライトが出しているFantasy Flight Gamesの神話系ボードゲーム3作を並べると、縮尺の違いがはっきりする[1][2][3]。
| 作品 | 舞台の広さ | 人数 | 時間 | 価格 |
|---|---|---|---|---|
| エルドリッチホラー | 世界全体(南極・アマゾン・東京ほか) | 1〜8人 | 120〜240分 | 7,480円 |
| アーカムホラー 第3版 | 街ひとつ(アーカム) | 1〜6人 | 120〜180分 | 8,580円 |
| マンション・オブ・マッドネス 第2版 | 建物の中(大邸宅) | 1〜5人 | 120〜180分 | 14,850円 |
3作すべてに Nikki Valens の名がある[1][2][3]。舞台が狭くなるほど人数の上限が下がり、価格は上がる——この対応関係が、そのまま表に出ている。
本作は3作の中で もっとも広く、もっとも長く、もっとも安い[1][2][3]。
どんな人に向くか
短いものなら『パンデミック:クトゥルフの呼び声』(約40分)や『クトゥルフの呼び声フラックス』(10〜40分)がある[5]。神話ゲーム全体の見取り図はクトゥルフ神話ゲーム総覧にまとめてある。
なお、アークライト公式は本製品について表記訂正(エラッタ)を公開している[1]。遊ぶ前に確認しておくとよい。
関連記事
- アーカムホラー 第3版 — 街ひとつを盤にした姉妹作
- マンション・オブ・マッドネス 第2版 — 建物の中を盤にした姉妹作
- 旧支配者 — 「エンシェントワン」と呼ばれる存在
- 「クトゥルフの呼び声」 — 「星辰の並び」とルルイエ浮上の出どころ
- クトゥルフ神話ゲーム総覧
出典
- [1] アークライト公式の商品ページ「エルドリッチホラー 完全日本語版」(該当ページ)。メーカー Fantasy Flight Games、デザイナー Nikki Valens・Corey Konieczka、原題 ELDRITCH HORROR、価格7,480円(税込)、プレイ人数1〜8人、プレイ時間120〜240分、対象年齢14歳以上、2014年4月発売。コンポーネント(ゲームボード1枚/ルールブック1冊/リファレンスガイド1冊/探索者シート12枚/エンシェントワンシート4枚/カード303枚/トークン245個/ダイス4個/探索者コマ12個/プラスチックの台12個)。紹介文の「これが全世界版「アーカムホラー」だ!」「現実とあちらの世界との壁が壊れ始め、異世界へのゲートが出現するにつれて〜」「遥かな奥地を調査し、影に潜む悪夢のような生きものと戦い、古の謎を解き、エンシェントワンを葬ることが、あなたたちの義務なのだ!」「列車や船を使って南極やアマゾン奥地、アーカムや東京など、世界各地を旅し〜」「時には星座表に記された星辰の並びにより、各地のゲートからモンスターがあふれてきたり、時にはクエストの指示によりルルイエが浮上してきたりするかもしれない!」。同ページに表記訂正(エラッタ)の案内があること(2026年9月16日確認)。 ↩
- [2] アークライト公式の商品ページ「アーカムホラー 第3版 完全日本語版」(該当ページ)。メーカー Fantasy Flight Games、デザイナー Richard Launius・Nikki Valens・Kevin Wilson、価格8,580円(税込)、プレイ人数1〜6人、プレイ時間120〜180分、2019年4月25日発売。紹介文に「最終的にエンシェントワンの行動を妨害しなければなりません」とあること(2026年9月16日確認)。 ↩
- [3] アークライト公式の商品ページ「マンション・オブ・マッドネス 第2版 完全日本語版」(該当ページ)。メーカー Fantasy Flight Games、デザイナー Nikki Valens、価格14,850円(税込)、プレイ人数1〜5人、プレイ時間120〜180分、2016年12月3日発売(2026年9月16日確認)。 ↩
- [4] H・P・ラヴクラフト「The Call of Cthulhu」の本文(該当ページ)。同作は1928年2月の『ウィアード・テイルズ』誌に発表されたもので、米国の著作権保護期間(発表から95年)を過ぎてパブリックドメインに入っているため原文を引用した。引用箇所は第2章の教団に関する記述、および第3章のエマ号とルルイエに関する記述(2026年9月16日確認)。 ↩
- [5] ホビージャパン公式の商品ページ「パンデミック:クトゥルフの呼び声」(該当ページ)および「クトゥルフの呼び声フラックス」(該当ページ)。前者はプレイ時間約40分、後者は約10〜40分(2026年9月16日確認)。 ↩



