地名(太古の地) — MNAR

ムナール

原典

大河Aiの流域と大いなる湖を擁する太古の地域。黒い羊飼い人族がスラー・イラルネク・カダテロンを、より頑健な部族が湖畔にサルナスを築いたと語られ、先住都市イブとの興亡を描く「サルナスの滅亡」の舞台となった。

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ムナール
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概要

ムナールは、ラヴクラフト「サルナスの滅亡」に登場する太古の地域で、大河Aiの流域と大いなる湖を含む。黒い羊飼い人族がこの地へ到り、川沿いにスラー・イラルネク・カダテロンの三都市を築き、より頑健な部族が湖畔にサルナスを建てたと語られる[1]。湖畔にはサルナス建国以前から先住都市イブが存在しており[2]、イブの滅亡とサルナス自体の滅亡という一連の因果応報譚全体の舞台となる地域である。

原典での描写

「サルナスの滅亡」(1919年12月3日執筆)――湖と地の成り立ち

物語は、一万年前この湖畔に聳えていたサルナスの都が、いまはもう跡形もないと語るところから幕を開ける[5]。サルナスの建国よりもさらに古く、湖そのものと同じ齢を重ねた先住都市イブが、既にこの湖畔にあったとも記される[2]。

「サルナスの滅亡」――ムナールの諸都市と交易

サルナスとイラルネクの間には隊商路が開け、地中から得た貴金属は他の金属や希少な布、宝石、書物、職人の道具など、あらゆる贅沢の品と取り引きされたと語られる。やがてサルナスの玉座には、ムナールの地と周辺の多くの土地を統べる王が座するに至ったという[6]。

「サルナスの滅亡」――滅亡後の地と灰色の岩

サルナスから逃れた者たちが振り返って見たのは、霧を立ちのぼらせる湖と、なかば沈んだ灰色の岩アクリオンだけだった。彼らの語る話はムナールの地とその周辺のすみずみまで広まり、隊商はもはやかの呪われた都市とその貴金属を求めて訪れなくなったという[7]。

それでもなお旅を試みたのは、遠いファローナから来た金髪碧眼の向こう見ずな若者たちだけであり、彼らはムナールの民とは血縁を持たなかったと記される[8]。

他作品での言及

「狂気の山脈にて」(1931年2月~3月22日執筆)では、南極の太古都市を望む語り手の想像の中で、人類以前の忌まわしい大都市の一つとして「ムナールの地のイブ」の名がヴァルーシアやルルイエと並び一度だけ挙げられるにとどまる[9]。

「名もなき都市」(1921年1月執筆)では、太古の廃墟に思いを馳せる語り手の回想の中に、人類がまだ若かった頃ムナールの地に立っていたという滅びのサルナスへの言及が一度だけ見える[10]。

基本プロフィール

  • 分類: 地名(太古の地)
  • 欧文表記: MNAR
  • 初出・出典: 「サルナスの滅亡」(1919年執筆/1920年発表)
  • 地理設定: 大河Aiの流域と大いなる湖畔からなる地域。スラー・イラルネク・カダテロン・サルナスの4都市を擁する。

由来・モデル

ムナールがどこにあるかを、原典は明記しない。「サルナスの滅亡」は「ムナールの地」と呼ぶだけで、夢の国の一部なのか目覚めの世界の一角なのかを語る文はなく、現実の地理との対応も示されない。後続作家が目覚めの世界のアラビア地域に設定し直したとする説明を見かけるが、当サイトではその作品の本文を確認していない。

歴史・年表

物語で語られる年表は以下の通り。

  • 太古の入植: 幾多の永劫を経て、黒い羊飼い人族がムナールの地へ到った。彼らは曲がりくねった川Aiの畔にスラー・イラルネク・カダテロンの三都市を築いた[1]。
  • イブの先住: この入植より前から、湖の畔には湖そのものと同じくらい古い灰色石の都市イブが存在していた[2]。
  • サルナス建設: より頑健な部族が湖の畔まで進み、貴金属の採れる場所にサルナスを築いた。サルナスはやがて強大かつ学識高く美しい都市へと成長した(詳細はサルナス記事を参照)。
  • イブの滅亡とサルナス自体の滅亡: サルナスの若い戦士たちがイブを滅ぼし、偶像を持ち帰ったことが後のサルナス滅亡を招く(詳細はイブ記事・サルナス記事を参照)。ムナールの地は、この一連の出来事全体の背景として機能している。

性質・特徴

ムナールは単一の都市名ではなく、川Aiと湖を軸にスラー・イラルネク・カダテロン・サルナスの4都市を含む地域名として原典に登場する。物語本文で個別の逸話が詳しく語られるのはイブとサルナスの2都市に限られ、スラー・イラルネク・カダテロンは、湖畔の出来事を記録した「カダセロンの粘土円柱」の産地や、イブの偶像が最終的に安置された「イラルネクの高位神殿」といった形で、背景の地名として言及されるにとどまる。ムナール全体を貫くのは、先住者を滅ぼした文明が同じ報いを受けるという因果応報の構図であり、この点でウルタールの猫の物語とも通底する主題を持つ。

関連する人物・存在

  • サルナス: ムナールの湖畔に築かれ、繁栄の絶頂で一夜にして滅んだ都市。ムナールを舞台とする物語の中心をなす。
  • イブ: サルナス建国以前からムナールの湖畔にあった先住都市。サルナスによって滅ぼされ、その報復が物語全体の伏線となる。
  • ボクルグ: イブの住人が崇めていた水蜥蜴の神。サルナスがその偶像を奪ったことが、ムナールの地全体を巻き込む一連の破滅の引き金になったとされる。

主要登場作と読みどころ

  • 「サルナスの滅亡」(1919年執筆/1920年発表): ムナールという地域そのものが登場する唯一の原典。冒頭でムナールへの入植と4都市の建設を手短に語ったのち、イブとサルナスという対をなす2都市の興亡へと焦点を絞り込んでいく構成が読みどころで、ムナールは物語全体を包む舞台装置として機能している。

よくある誤解

Q. ムナールの4都市(スラー・イラルネク・カダテロン・サルナス)は、それぞれ独立した物語を持つのですか?A. いいえ。原典で詳しく語られるのはサルナス(と、その滅亡の伏線となるイブ)の興亡のみです。スラー・イラルネク・カダテロンの3都市は、粘土円柱の記録元や偶像の安置先といった背景設定として言及されるにとどまり、単独の逸話は原典に描かれていません。

Q. ムナールは夢の国と目覚めた現実世界、どちらに属するのですか?A. 原典には現実の地理との対応も、夢の国に属するという記述もありません。「ムナールの地」という呼び方があるだけです。後続作家が目覚めの世界のアラビア地域に置き直したという説明は、当サイトでは本文を確認していないため、確定した設定としては扱っていません。

出典

  • [1] “After many eons men came to the land of Mnar, dark shepherd folk with their fleecy flocks, who built Thraa, Ilarnek, and Kadatheron on the winding river Ai.”(訳: 「幾多の永劫を経てムナールの地へ人々が到った——毛深い群れを連れた浅黒い羊飼いの民である。彼らは曲がりくねった川Aiの畔にスラー、イラルネク、カダテロンを築いた」) — H. P. Lovecraft, “The Doom That Came to Sarnath”(1919年執筆/1920年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [2] “before ever the men of Sarnath came to the land of Mnar, another city stood beside the lake; the gray stone city of Ib, which was old as the lake itself”(訳: 「サルナスの民がムナールの地へ到来するより前から、湖畔にはもう一つの都市が立っていた——湖そのものと同じくらい古い、灰色石の都市イブである」) — 同上 ↩
  • [3] (欠番。二次資料に基づく記述を削除した) ↩
  • [4] (欠番。二次資料に基づく記述を削除した) ↩
  • [5] “Ten thousand years ago there stood by its shore the mighty city of Sarnath, but Sarnath stands there no more.”(訳: 「一万年前、その岸辺には壮麗なる都サルナスが聳えていたが、いまサルナスはそこに無い」) — H. P. Lovecraft, “The Doom That Came to Sarnath”(1919年12月3日執筆/1920年発表), 公式アーカイブ ↩
  • [6] “Betwixt Sarnath and the city of Ilarnek arose a caravan route, and the precious metals from the earth were exchanged for other metals and rare cloths and jewels and books and tools for artificers and all things of luxury…and in time there sate upon a throne in Sarnath the kings of all the land of Mnar and of many lands adjacent.”(訳: 「サルナスとイラルネクの都の間には隊商路が開け、地中から得た貴金属は他の金属や希少な布、宝石、書物、職人の道具、あらゆる贅沢の品々と取り引きされた……そしてやがて、サルナスの玉座にはムナールの地と周辺の多くの土地を統べる王が座するに至った」) — 同上 ↩
  • [7] “the grey rock Akurion was quite submerged. Through all the land of Mnar and the lands adjacent spread the tales of those who had fled from Sarnath, and caravans sought that accursed city and its precious metals no more.”(訳: 「灰色の岩アクリオンは、なかば沈んでいた。サルナスから逃れた者たちの語る話はムナールの地とその周辺のすみずみまで広まり、隊商はもはやあの呪われた都市とその貴金属を求めて訪れることはなくなった」) — 同上 ↩
  • [8] “adventurous young men of yellow hair and blue eyes, who are no kin to the men of Mnar.”(訳: 「金髪碧眼の、向こう見ずな若者たちであり、彼らはムナールの民とは血縁を持たなかった」) — 同上 ↩
  • [9] “a megalopolis ranking with such whispered pre-human blasphemies as Valusia, R’lyeh, Ib in the land of Mnar, and the Nameless City of Arabia Deserta.”(訳: 「ヴァルーシア、ルルイエ、ムナールの地のイブ、アラビア砂漠の名もなき都市など、囁かれる人類以前の冒涜的な都市群と並び称される大都市」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”(1931年2月~3月22日執筆), 公式アーカイブ ↩
  • [10] “thought of Sarnath the Doomed, that stood in the land of Mnar when mankind was young, and of Ib, that was carven of grey stone before mankind existed.”(訳: 「人類がまだ若かった頃にムナールの地に立っていた滅びのサルナスと、人類が存在する前に灰色の石で刻まれていたイブとを思った」) — H. P. Lovecraft, “The Nameless City”(1921年1月執筆), 公式アーカイブ ↩
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