編集部注(拡張神話): 「エーリッヒ・ツァンの音楽」原文を実際に確認したところ、「トゥルネンブラ」という名称は本文中に一度も登場しません。原典は、老musicianエーリッヒ・ツァンが屋根裏の窓の外に潜む「何か」を音楽で遠ざけようとする様を描くのみで、その正体には一切名前も説明も与えていません。この「何か」に名前を与えて体系化したのはTRPG『クトゥルフの呼び声』の設定資料集『Malleus Monstrorum』です。したがって本記事の分類は「拡張神話」とし、名称・体系化に関する部分は原文からの引用を行わず、公知の設定情報の要約のみで構成しています。
概要
H・P・ラヴクラフトの短編「エーリッヒ・ツァンの音楽」において、老ヴィオル弾きエーリッヒ・ツァンが窓の外の闇に向けて必死に音楽を奏で続ける、その対象として仄めかされるのみの正体不明の存在。TRPG『クトゥルフの呼び声』の設定資料集が「トゥルネンブラ」の名を与え、外なる神の一柱として体系化した。
原典における描写
語り手は、ツァンの奏でる音楽を「この地上のいかなるものも示唆しない響き」と評し、遠く彼方から届く「この上なく低く、無限に遠い一つの楽音」に反応してツァンが「狂おしいまでの演奏で夜を切り裂き始めた」様子を目撃する。ツァンは「何かを遠ざけよう、あるいは何かをかき消そうとしている」ように見えたと語られるが、その「何か」が具体的に何であるかは、物語の最後まで一切明かされない。ツァンは演奏中に息絶え、語り手は彼が書き残そうとしていた手記も、事件の起きた通り(リュ・ドーセイユ)そのものも、二度と見つけることができなくなる。
拡張神話における体系化
TRPG『クトゥルフの呼び声』の設定資料集『Malleus Monstrorum』は、この正体不明の存在に「トゥルネンブラ」(異名:音楽の笛吹き)という名を与え、アザトースの宮廷に永遠に留まる外なる神として位置づけた。この体系では、トゥルネンブラはアザトースの眠りを維持するうえで最も重要な外なる神の一柱とされ、時に才能ある音楽家に自らの調べを聴かせ、アザトースの宮廷へと誘い込むともされる。原典中で焔として登場するタルザーシャと関連づけて語られることもある。
執筆背景と影響
「エーリッヒ・ツァンの音楽」は、ラヴクラフト自身が自作の中でも特に気に入っていたとされる一篇で、恐怖の対象を最後まで明示しない曖昧さこそがその魅力の核となっている。後年のTRPG設定がこの「語られざるもの」にあえて名前を与えたことは、原典の意図的な曖昧さとは対照的な、体系化の一例として興味深い。






