短編小説 — The Festival

祭り

語り手は、一族の言い伝えに従ってクリスマスの夜、一度も見たことのない先祖の故郷、港町キングスポートを訪れます。迎えたのは、口をきかず蝋のような顔をした老人と、無言で糸を紡ぎ続ける老婆。夜十一時、フードを被った無言の群衆とともに丘の教会から地下納骨堂を抜け、山の奥深くへ続く螺旋階段を下ると、そこには緑色の炎が噴き上がる地底の川辺で、人類より古いという祭祀が執り行われていました。老人が示す一族の証しに恐怖した語り手は、地底の川へ身を投げます。翌朝、港で発見された語り手が目にしたのは、路面電車の走る別のキングスポートでした。1923年10月執筆、1925年1月『ウィアード・テイルズ』発表。約3,700語。

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祭り

「私は故郷を遠く離れていた。東の海の魔力が、私の上にあった。」

— H・P・ラヴクラフト「祭り」(1923年執筆、1925年発表)冒頭部(ラクタンティウスの題辞の直後)
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概要

『祭り』は、H・P・ラヴクラフトの短編小説です。祖先の言い伝えに従ってニューイングランドの港町キングスポートを訪れた語り手が、雪に閉ざされたクリスマスの夜、一族に伝わる秘密の祭祀に立ち会う顛末を、一人称の報告体で描きます。本文の前にはラクタンティウスの言葉として「悪霊どもは、存在しないものを、あたかも存在するかのように人の目に見せる」という一文が置かれており[1]、これから語られる出来事が幻影なのか事実なのかという揺らぎを、冒頭から作品全体に敷いています。

語り手は、一族が三百年前にこの土地へ移り住む以前から続けてきたという、百年に一度の祭りに末裔として呼び戻された身です。人けのない雪道を抜けてたどり着いた祖先の家では、口をきかない老人と、無言で糸を紡ぎ続ける老婆が語り手を迎え、『ネクロノミコン』を含む禁書の山を前にして待つよう促します。夜十一時、フードを被った人影の群れに合流した語り手は、丘の上の白い教会から地下納骨堂、さらに山の奥深くへと続く螺旋階段を下り、緑色の炎が噴き上がる地底の川辺で執り行われる祭祀を目にします。

祭りの終盤、老人が証拠として示したのは、一族の紋章を刻んだ指章指輪と、高祖父とともに埋葬されたはずの懐中時計でした。しかし語り手は、老人の顔が蝋の仮面にすぎないことを知り、地底の川へ身を投げて逃れます。翌朝、キングスポート港で発見された語り手が目にしたのは、路面電車の走る「現代の」キングスポートであり、前夜に見た古い町並みとは食い違うものでした。

搬送先のアーカムでも語り手は同じ『ネクロノミコン』の一節を読み返し、自分が見た光景がそこに記された内容と符合することに気づきます。事件が幻覚だったのか、それとも語り手が病院で示された「現在のキングスポート」の方に何か問題があったのか、本文はどちらとも判定しないまま幕を閉じます。

作品情報

  • 原題: The Festival
  • 執筆: 1923年10月[2]
  • 初出: 『ウィアード・テイルズ』第5巻第1号、1925年1月、169–174ページ[3]
  • 分量: 約3,700語(公式アーカイブ本文を機械集計)
  • 語り: 一人称。名前の明かされない語り手による、事件後の回想的な報告体。
  • 時: ユールタイド(クリスマス)の夜から、翌朝にかけて。
  • 舞台: 架空の港町キングスポートの町なかと、丘の教会の地下から続く地底の洞窟。
  • 主題: 一族に伝わる秘祭とその正体、および語り手が見た光景と病院で示された「現代の」キングスポートとの食い違い。

登場神格・用語

  • ネクロノミコン — 老人の家に積まれた禁書の一冊。「狂えるアラビア人アブドゥル・アルハズラード」による書物とされ、オラウス・ウォルミウスのラテン語訳版として登場します。祭祀の終盤、老人はこの本を頭上に掲げて群衆に拝礼させ、末尾では語り手が地底の洞窟について記された一節を訳出して引用します。
  • キングスポート — 語り手の一族の故郷である港町。雪に覆われた古い町並みと、病院で示される路面電車の走る「現代の」町並みという、二つの姿が対比されています。
  • アーカム — 語り手が搬送されるセント・メアリー病院がある町。ミスカトニック大学の図書館から『ネクロノミコン』を借り出す場面の舞台です。
  • 老モリスターの『Marvells of Science』、ジョゼフ・グランヴィルの『Saducismus Triumphatus』(1681年刊)、レミギウスの『Daemonolatreia』(1595年、リヨン刊) — いずれも老人の家に積まれていた書物として本文に登場します(当サイトに単独記事はありません)。
  • イブン・シャカバク — 語り手が末尾で引用する『ネクロノミコン』の一節の中で、名の挙げられる人物です。
  • 翼を持つ雑種の生き物 — 地底の川をさかのぼって現れ、参加者たちを乗せて闇の奥へ運ぶ生き物。本文では「烏でも土竜でも禿鷲でも蟻でも吸血蝙蝠でも、腐乱した人間でもない」と記され、固有の名は与えられていません。

あらすじ

帰郷 — キングスポートへの道

語り手は、東の海に近いどこかから、先祖の呼びかけに従って旅立ちます。目指すのは、一度も見たことのない古い港町、キングスポートです。雪の積もった道をたどりながら、語り手はこの祭りが「クリスマスと呼ばれてはいるが、実はベツレヘムやバビロンよりも古い」ものだと自覚していました。丘の頂からは、古い風見や尖塔、迷路のような坂道が連なるキングスポートの町並みが見渡せ、傍らには黒い墓石が「巨大な死体の腐った爪」のように雪から突き出た墓地がありました。語り手はこの土地で1692年に四人の縁者が魔女として絞首刑になったことを思い出しますが、その場所がどこかまでは分かりません[1]。

祖先の家、蝋の老人

町へ下りても人影はなく、語り手はそれをピューリタンの流儀による静かなクリスマスのせいだろうと考えました。グリーン・レーンにある一族の家――1650年以前に建てられた、七軒目の家――の扉を叩くと、口のきけない老人が現れ、尖筆と蝋板で歓迎の言葉を記します。通された部屋では、暖炉に火の気がないまま老婆が黙って糸を紡いでおり、テーブルの上には老モリスターの『Marvells of Science』、ジョゼフ・グランヴィルの『Saducismus Triumphatus』(1681年刊)、レミギウスの『Daemonolatreia』(1595年、リヨン刊)、そして「狂えるアラビア人アブドゥル・アルハズラード」による『ネクロノミコン』のオラウス・ウォルミウスによるラテン語訳が積まれていました。語り手はその『ネクロノミコン』の一節に読みふけり、正気を失いかねないほどの思考に触れます。老人の顔はまったく動かず、蝋のような肌をしていて、語り手はやがてそれが仮面ではないかと疑い始めました[1]。

深夜の行列と地下への降下

十一時が打つと、老人はフード付きの外套を二着取り出し、一着を自分が、もう一着を老婆にまとわせます。三人が外へ出ると、月のない町のあらゆる戸口からフードを被った群衆が音もなく溢れ出し、いくつもの行列となって坂を登っていきました。行き着く先は丘の中心に建つ白い教会で、周囲には墓石が並ぶ半舗装の広場があり、影を落とさない死火が墓の上で揺れています。語り手はわざと最後に教会へ入りますが、振り返ると、戸口近くの雪には自分の足跡さえ残っていないことに気づきました。群衆は説教壇の前で口を開けた地下納骨堂への落とし戸から潜り込み、さらにある墓の床にあいた穴から、削り出した石の螺旋階段を果てしなく下っていきます[1]。

地底の祭祀

階段と通路はしだいに岩を彫り抜いたものへと変わり、脇に開く無数の側道からは腐臭が漂ってきます。やがて視界が開け、毒々しい緑色の炎の柱が噴き上がる巨大な地底の岸辺と、暗黒の奥から流れてくる油じみた川が姿を現しました。これは人類より古く、人類が滅びたのちも続くという「ユールの祭祀」であり、集まった者たちは炎の柱の周りに半円をつくり、粘つく植物の塊を川へ投げ込みます。暗闇のどこかでは、形の定まらない何かが笛を吹き続けていました。老人が『ネクロノミコン』を頭上に掲げると群衆は拝礼し、やがて笛の音が変わると、暗闇の奥から翼を持つ雑種の生き物の群れが川をさかのぼって現れます。それは「烏でも土竜でも禿鷲でも蟻でも吸血蝙蝠でも、腐乱した人間でもない」ものだったと語り手は記しました。フードの群衆は次々とその背にまたがり、川の奥の闇へと去っていきます[1]。

仮面が落ちるとき

語り手が動物にまたがることを拒むと、老人は尖筆と蝋板で、自分こそ一族の祭祀を興した先祖の正統な代理人だと書きつけます。証拠として差し出されたのは、語り手の家紋を刻んだ指章指輪と懐中時計でしたが、その時計は1698年に語り手の高祖父とともに葬られたはずの品でした。老人がフードを外して顔の類似を示しても、語り手にはそれが蝋の仮面としか見えません。動物の一頭が逃げようとして老人が急にそちらへ向き直った拍子に、蝋の仮面が「本来頭であるはずの場所から」ずれ落ちます。石段への道を塞がれた語り手は、悲鳴を上げながら地底を流れる油じみた川に身を投げました[1]。

病院にて

語り手が次に気づいたのは、キングスポート港で漂流する丸太にすがりついた凍えかけの姿で発見された朝でした。周囲の説明では、前夜に丘の道を間違えてオレンジ岬の崖から落ちたはずだといい、雪に残った足跡がその根拠とされます。しかし語り手の見た窓の外には、五軒に一軒ほどしか古びていない屋根の連なりと、路面電車や自動車の音がある「現代の」キングスポートが広がっていました。語り手が病院の場所を古い墓地のそばだと知って錯乱すると、アーカムのセント・メアリー病院へ移されます。そこの医師たちは語り手の状態を「精神症」と呼びつつも、ミスカトニック大学の図書館が所蔵する『ネクロノミコン』を読ませてくれました。語り手はそこで、自分が地底で見た光景と符合する一節を見つけます。次のように書き記されています。「地の底の最も深き洞窟は」と狂えるアラブ人は記した。「見る目を持つ者の測り知る場所にあらず。その驚異は異様にして凄まじきものなればなり。死せる想念が奇怪な姿を得て新たに息づく地は呪われ、頭に宿らぬ心は禍々しい。イブン・シャカバクの言えるところ賢し、魔道士の眠らぬ墓こそ幸いなる墓であり、魔道士がことごとく灰となりし夜の町こそ幸いなる町である、と。古き噂によれば、悪魔に魂を売りし者の霊は、その屍から急いで去ることをせず、屍を肥やしてこれを蝕む蛆にすら知恵を授けるという。かくて腐敗のうちより恐ろしき生命が芽生え、地の鈍き掃除役どもは狡知を得てこれを悩ませ、怪物のごとく膨れ上がってこれを苦しめる。大地の毛穴だけでは足りぬとして、大いなる穴がひそかに掘られ、這うべきものが歩むことを覚えたのだ」[1]。

読みどころと注目テーマ

題辞が仕掛ける不安定な現実感

本文の冒頭には、ラクタンティウスの言葉として「悪霊どもは、存在しないものを、あたかも存在するかのように人の目に見せる」という一節が掲げられています[1]。この一文は、地下の祭祀が幻影なのか、それとも病院で示された「現代のキングスポート」の方が誤りなのかという、物語の結末まで解消されない揺らぎを先取りしています。語り手自身、退院後に読み返した『ネクロノミコン』の一節について「これは私にとって初めてではなかった」と記すにとどまり、どちらが真実かを断定しません[1]。

蝋の仮面と一族の代理人

語り手を迎える老人は、口をきかず尖筆と蝋板だけで意思を伝え、その顔は終始「動かない」ものとして描かれます[1]。老人は語り手の家紋を刻んだ指章指輪と、1698年に高祖父とともに葬られたはずの懐中時計を証拠として示しますが、その直後、動物を止めようとした拍子に蝋の仮面が頭のあった場所からずれ落ちます[1]。血縁と正統性を証明する品と、顔そのものが作り物だったという事実が、同じ場面の中で並べて置かれている点に本文の構成が表れています。

音を立てない群衆、跡を残さない雪

教会へ向かう行列は「音もなく」戸口から溢れ出し、語り手を押す肘や胴は「異様に柔らかく」「異様にぶよぶよ」していたと記されます[1]。教会に入る直前、語り手が振り返って見た雪の上には、自分の足跡さえ残っていませんでした[1]。地底への螺旋階段でも、無数の足音は音を立てず、こだまも立てなかったとあります[1]。触覚と足音という具体的な感覚の描写を重ねることで、群衆の異様さが積み上げられていきます。

温もりのない炎と地底の川

地底に現れる緑色の火柱は、「健全な炎が本来落とすはずの影」を落とさず、そこに宿るのは「死と腐敗の冷たさ」だけだったと語られます[1]。この火柱と、暗黒の奥から流れてくる油じみた川、そして川をさかのぼって現れる名づけようのない翼の生き物たちが、地上の凍った港町とは異なる、地底世界だけの異様さをかたちづくっています[1]。

執筆背景と影響

『祭り』は1923年10月に執筆され[2]、1925年1月発行の『ウィアード・テイルズ』誌第5巻第1号(169–174ページ)に発表されました[3]。作中の舞台であるキングスポートは、ラヴクラフトが他の作品でも用いた架空の港町で、恐ろしい老人(1920年1月28日執筆)や霧の中の奇妙な高屋敷(1926年11月9日執筆)にも、坂の多い古い町並みや海に面した地形といった要素が見られます。もっとも、これらの作品と『祭り』の間に直接の物語上のつながりがあるかどうかについては、公式アーカイブに記載がなく、当サイトでは確認していません。

出典

[1] H. P. Lovecraft, “The Festival” (本文). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/f.aspx本記事の引用・要約はすべてこの本文に基づきます。訳文は当サイトによる試訳です。

[2] “Lovecraft’s Fiction” (作品年譜). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/執筆時期(1923年10月)ほかの出典。

[3] “Data Page for ‘The Festival'” (作品情報・出版履歴). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/f.aspx初出『ウィアード・テイルズ』第5巻第1号(1925年1月)169–174ページの出典。

関連作品ガイド ── どれから楽しむか

  • 恐ろしい老人 — 同じくニューイングランドの寡黙な老人を描いた短編で、本作の蝋のように動かない老人と読み比べられます。
  • 霧の中の奇妙な高屋敷 — キングスポートを舞台にした別の短編で、丘の上に立つ建物を軸に町の姿を描きます。
  • インスマスの影 — 一族の血筋にまつわる秘密を軸にした作品で、血の縁が呼び寄せる恐怖という枠組みを本作と比べられます。
  • 墓 — 一族の来歴への執着を描いた初期短編で、祖先への呼びかけという本作の主題と並べて読めます。
  • ネクロノミコン — 本作にも登場する架空の魔道書についてまとめた記事で、作中に引用された一節の位置づけを確認できます。
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