概要
キングスポート北方、天を突くように切り立つ断崖の頂に建つ古い家と、その正体不明の住人にまつわる一篇。夏の避暑客としてキングスポートを訪れた哲学者トマス・オルニーが、危険を冒してその家を訪ね、そこで太古の神々の来訪に立ち会う。
作品情報
- 執筆・発表年: 1926年11月9日執筆/1931年10月号「ウィアード・テイルズ」誌発表
- 主題タグ: 到達不能な高みへの憧れ、太古の神々との遭遇、日常への回帰の拒絶、キングスポートの怪異譚
登場神格・用語
- キングスポート
- ウルタール(言及のみ)
あらすじ
キングスポート北方の断崖の頂には、誰も訪れたことがないという古い家があり、そこには「霧と語らう者」が住むと噂されていた。長年同じ思索に倦んでいた哲学者トマス・オルニーは、家族とともに避暑に訪れたキングスポートでその家に強く惹かれ、危険を顧みず断崖をよじ登って訪問を果たす。家の主である髭の男は親切にオルニーを迎え入れ、太古の海に沈んだアトランティスやポセイドンの神殿について語り聞かせる。やがて扉に謎めいた合図の音が響き、男は暖炉の灯りを消して息を潜めるが、二度目の合図には応じて扉を開け放つ。そこから太古の神々の一団——海神ノーデンスを筆頭とする海の眷属たち——が繰り出し、オルニーと家主を歓待の渦に巻き込んでいく。翌朝、断崖を下りてキングスポートに戻ったオルニーは自分が何を体験したか語れなかったが、恐ろしい老人だけは「登っていった男と下りてきた男は、もはや同じ人間ではない」と呟く。以後キングスポートでは、あの高屋敷から夜ごと歓喜の歌声が漏れ聞こえるようになったという。
読みどころと注目テーマ
海神ノーデンスをはじめとする「太古の神々」が肯定的な存在として描かれる点が特異で、ラヴクラフト作品の中でも数少ない「恐怖ではなく陶酔をもたらす神々」の物語として読める。キングスポートを舞台にした一連の作品群と地理的・雰囲気的に強く結びついている。
執筆背景と影響
キングスポートを舞台とする一連の作品群(「恐ろしい老人」「祝祭」等)と世界観を共有する一篇で、恐ろしい老人が脇役として再登場する。到達不能な高みに憧れ、それを得た者が二度と元の日常には戻れないという構図は、ラヴクラフトの夢幻文学に繰り返し現れるモチーフである。




