編集部注(著作権について): 出典の『狂気の山脈にて』は、Astounding Stories誌掲載号の著作権が更新されているため(Catalog of Copyright Entries登録番号R309944)、2032年まで米国で著作権が継続しています(パブリックドメインではありません)。本記事中の引用は論評・紹介目的の短い範囲に限定しています。
古のものによって地球最初の奴隷労働力として創造された、不定形の原形質生物である。忠実な労働機械として設計されながらも、幾百万年にわたる酷使の末に自我を獲得し、創造主に反旗を翻した——生物工学の悪夢を体現する存在である。
概要
「ショゴス」は、『狂気の山脈にて』中で古のものが自らの重労働を担わせるために人工的に作り出した、多細胞の原形質塊である。一定の形状を持たず、必要に応じて目や手足などの一時的な器官を自在に形成・吸収する。本来は意志を持たないはずの道具であったが、長い年月のうちに制御者である古のものの知性を模倣し、やがて半自立的な意志をもつようになった。反乱と鎮圧を繰り返しながら、最終的には南極の地下深くに残存し続けたとされる。
基本プロフィール
- 分類: 人工生命体(奴隷・奉仕種族)
- 欧文表記: SHOGGOTHS
- 初出・出典: 『狂気の山脈にて』(1931年執筆/1936年発表)
- 創造主: 古のもの(作中設定)/命名者: 『ネクロノミコン』著者アブドゥル・アルハザード(作中設定)
- 区分: 奉仕種族(反乱後は半独立)
- 主な居住域: 太古は海中、後に南極地下の温水湖
- canon層: 原典
別名・呼称
『ネクロノミコン』著者アブドゥル・アルハザードが、この原形質の塊について「“shoggoths”」と記していたことが、原典中で明かされる[1]。この名前はアルハザードの幻視体験(あるアルカロイド系の草を嚙んだ者の夢の中)の産物として記されており、地球上に実在するとは思われていなかったとも語られる。
形態と特徴
平常時は球形に近い不定形をとり、その直径は約15フィート(約4.5メートル)前後とされる[2]。表面は泡が互いに膠着し合ったような粘性のゼリー状物質で構成され、必要に応じて一時的に目・耳・口とおぼしき器官を、主人である古のものに似せて形成する。形状と体積は常に変化し続け、一時的な拡張部を随時生やして重量物を持ち上げることもできたという。
性質・生態
古のものの催眠的な命令によって常に制御され、石造建造物の重量輸送や都市建設の重労働を担った。しかし分裂による生殖を繰り返すうちに偽りの知性を強め、ペルム紀中頃(約1億5,000万年前)には古のものに対する反乱を起こす。古のものは分子撹乱兵器とも形容される兵器でこれを鎮圧し、以後のショゴスは西部開拓者に馬を使いならされる先住民のように、古のものによって飼いならされる存在へと変えられたという。反乱中には陸上でも活動できる能力を見せたが、管理の手間を思えば陸上化は奨励されなかった。
古のものの命令を難なく担うものの、ショゴス自体は声帯や固有の言語を持たない。主人たちが石彫や文字で用いていた「点の集合」の体系を受け継ぐことしかできないため、声もまた主人の音を帯びて模倣するしかなかったとされる[3]。南極地下都市の廊下で探検隊を追い詰めるシーンで、鬼気を漂わせながら周囲に響き渡る「テケリ・リ」という叫びは、こうした主人の声の模倣に他ならない。
他の存在との関係
創造主である古のものとの主従関係が、ショゴスの存在の根幹である。反乱と鎮圧の歴史は、知性を持つ道具が自己を獲得していく軌跡を描く一例としてしばしば読まれる。なお、『インスマスを覆う影』終盤では、酒に酔った老人ゼイドック・アレンが海の恐怖について含みを持たせながらこの語を一度だけ口にする場面があり、作中世界で広く知られた存在であることが示唆されている。後年のTRPGや派生作品群では、古のものの支配を離れて地下に残留した個体が、現代の探索者や研究者と遭遇するパターンもしばしば描かれる。
主要登場作と読みどころ
- 『狂気の山脈にて』(1931年執筆/1936年発表): ショゴスの創造・反乱・現存を描く唯一の原典。終盤、地下都市を逃げ惑う主人公たちを追い詰める場面は、クトゥルフ神話作品全体でも屈指のサスペンスとして知られる
- 『インスマスを覆う影』(1931年執筆/1936年発表): 直接登場しないが、登場人物の台詞中で一度だけ名前が口にされる
よくある誤解
Q. ショゴスは知性を持たない単なる道具ですか?
A. 原典では違います。長い使役の中で半安定な自我を発達させ、古のものの意志に完全には従わない個体意志を持つようになったと描写されており、反乱まで起こしています。
出典
- [1] “These viscous masses were without doubt what Abdul Alhazred whispered about as the “shoggoths” in his frightful Necronomicon”(訳: 「この粘液状の塊こそ、アブドゥル・アルハザードが彼の恐ろしい『ネクロノミコン』において「shoggoths」として囁いたものに違いなかった」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”, 公式アーカイブ ↩
- [2] “They were normally shapeless entities composed of a viscous jelly which looked like an agglutination of bubbles; and each averaged about fifteen feet in diameter when a sphere.”(訳: 「彼らは普段、泡が互いに膠着し合ったように見える粘性のゼリーで構成された不定形の存在であり、球形をとった際の平均直径は約15フィートだった。」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”, 公式アーカイブ ↩
- [3] “the daemoniac shoggoths—given life, thought, and plastic organ patterns solely by the Old Ones, and having no language save that which the dot-groups expressed— had likewise no voice save the imitated accents of their bygone masters.”(訳: 「悪魔のようなショゴスは——命も思考も可塑的な器官のパターンもすべて古のものから与えられたものであり、点の集合が表すもの以外の言語を持たない以上——かつての主人たちの音を模倣した声以外の声を持たなかった」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”, 公式アーカイブ ↩
用語集にもショゴス(概略)として簡潔な解説があります。





