短編小説 — THE STRANGE HIGH HOUSE IN THE MIST

霧の中の奇妙な高屋敷

キングスポートの北、段丘状に登る断崖のいちばん北の一つは「灰色の凍った風雲のように空に懸かり」、その上に古い家がある。夕方になると小さな窓に灯りが見え、「そこに住む者は朝の霧と語る」と人は言う。ナラガンセット湾の大学で教える哲学者トマス・オルニーは、ある夏、その崖に登ると決める。内陸側から近づくと、家には扉がなく、扉は海側、崖の縁と面一の壁にだけある。中から錠の音がして、黒髭の主人が窓から手を差し伸べる。1926年11月9日執筆、1931年10月『ウィアード・テイルズ』発表。約3,800語。

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霧の中の奇妙な高屋敷

「朝になると、キングスポートの向こうの断崖のあたり、海から霧が立ちのぼる。白く羽毛のようなその霧は、深海からその兄弟である雲のもとへと立ちのぼり、湿った牧場やレヴィアタンの洞窟の夢に満ちている」

— H・P・ラヴクラフト「霧の中の奇妙な高屋敷」(1931年発表)冒頭部
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概要

本文の最初の段落と最後の段落は、ほとんど同じ文です。朝、海から霧が上がり、「白く羽毛のように」雲のもとへ昇る。人魚の洞窟で噂が飛び交い、海藻の都で法螺貝が「旧き者どもから学んだ荒々しい調べ」を吹くとき、霧は知識を積んで天へ群れ、岩の上から海を見る目には「崖の縁が全地の縁であるかのように」白さだけが見える。物語はこの霧の描写で開き、同じ霧で閉じます[1]。

キングスポートの北、断丘は段丘状に高くなり、いちばん北の一つは「灰色の凍った風雲のように空に懸かって」います。その上に古い家があり、夕方、小窓に灯りが見える。「何百年も同じ一人が住んでいる」と土地の者は言い、ポルトガルの船乗りは初めて見ると十字を切ります。「恐ろしい老人」でさえ、祖父が子どものころから同じだった、としか言えません[1]。

ある夏、ナラガンセット湾の大学で「重々しいことを教える」哲学者トマス・オルニーが来ます。「同じものを何年も見て、同じよく躾けられた考えを考えて疲れた目」の男。彼はその崖に登ると誓います。1926年11月9日執筆[2]、1931年10月『ウィアード・テイルズ』発表[3]。約3,800語。ノーデンスが「大いなる深淵の主」として姿を見せる作品です。

作品情報

  • 原題: The Strange High House in the Mist
  • 執筆: 1926年11月9日[2]
  • 初出: 『ウィアード・テイルズ』第18巻第3号、1931年10月、394–400ページ[3]
  • 分量: 約3,800語(公式アーカイブ本文を機械集計)
  • 語り: 三人称。土地の噂と、オルニーが「恐ろしい老人」にだけ語ったことをもとに語られる
  • 時: ある夏。登攀は8月の早朝
  • 舞台: キングスポート北方の断崖と、その上の家。ミスカトニック川の河口、アーカムの白い尖塔が遠望される
  • 主題: 霧、境界の家、失われた何かと残された何か

登場神格・用語

  • ノーデンス: 「原初のノーデンス、大いなる深淵の主」。海豚の背に載った「巨大な波形の貝」に乗って現れ、「萎びた手」でオルニーと主人を貝へ引き上げます
  • ネプチューン: 三叉の矛を持って現れます。キングスポートの人々は断崖のひとつの横顔を「父なるネプチューン」と呼びます
  • 旧き者ども(the Elder Ones): 法螺貝が「旧き者どもから学んだ調べ」を吹く、という冒頭と結びの文と、主人が語る「神々も旧き者どもも生まれる前の混沌の最初の時代」に名が出ます。「これらすべてを決めるのは旧き者どもだけ」と本文は結びます
  • 他の神々(the other gods): 「ウルタールの向こう、スカイ川の彼方の石の砂漠のハテグ=クラの峰で踊りに来た」。主人はこの話になると「臆病に」なります
  • 恐ろしい老人: ウォーター街の「大洪水以前の」小屋で瓶の中の鉛の振り子に話しかけ、「何世紀も前のスペイン金貨」で食料を買う老人。よそ者を好みませんが、オルニーとは話し、事件のあと、彼だけがオルニーの話を聞きます
  • 家の主人: 名は最後まで出ません。「黒髭の大きな顔、聞いたこともない光景の刻印で燐光を放つ目」、「とても古い衣服」、「海の伝承と背の高いガレオン船の夢の、置き場所のない後光」。オルニーには若く見え、しかし目は「古い神秘に浸って」いました
  • 場所: 「父なるネプチューン」の崖、「舗道」と呼ばれる柱状の段、ミスカトニック川の河口、フーパーの池、古い煉瓦の火薬庫、セントラル・ヒル、会衆派病院脇の古い墓地(「その下に恐ろしい洞窟か穴が潜む」と噂される)、ブリストル・ハイランズ(結びのオルニーの新居)

あらすじ

空に懸かる家

キングスポートの海の民は、北の断崖を「ほかの海の民が北極星を見上げるように」見上げ、それが大熊座やカシオペヤ座や竜座をどう隠すかで夜の見張りの時刻を測ります。断崖のいくつかは愛されています。「父なるネプチューン」の横顔、「舗道」の柱状の段。しかしこの一つは「空にあまりに近い」ために恐れられている。それでもその上には古い家があり、夕方には小窓に灯りが見えます。「その家はいつもそこにあった」。中に住む「一人」が朝の霧と語り、「崖の縁が全地の縁になるとき」海のほうに奇妙なものを見るのだ、と人々は伝聞で言います。夏の避暑客は双眼鏡で覗いても灰色の屋根と灯りしか見ず、「同じ一人が何百年も住んでいる」ことを信じませんが、「本当のキングスポートの人間」に反証はできません[1]。

哲学者オルニー

トマス・オルニーは「太った妻と跳ね回る子どもたち」を連れて来ました。彼は「父なるネプチューン」の額から霧を眺め、「舗道」の巨人の段を霧の白い世界へ歩こうとし、朝ごとに崖に寝そべって「世界の縁の向こうの謎めいたエーテル」を見、「幽霊のような鐘と、鴎かもしれないものの荒々しい叫び」を聞きます。霧が上がって海が「汽船の煙で散文的に」現れると、彼はため息をついて町へ降り、曲がった小路と傾いた切妻を歩きました。「恐ろしい老人」とも話し、その小屋へ招かれます[1]。

空の灰色の小屋を彼が意識しないはずはありません。「恐ろしい老人」は、父から聞いた話として、ある夜その小屋から稲妻が上の空の雲へ「昇った」ことを喘ぎながら語り、シップ街のオーン婆さんは、祖母が又聞きした、東の霧から「羽ばたいて」あの家の細い一枚扉へまっすぐ入っていった形の話を嗄れ声で語ります。「扉は崖の縁近く、海に向いて設けられていて、沖の船からしか見えない」からです[1]。

「新しい奇妙なものへの渇望」に駆られ、キングスポートの住人の恐れにも避暑客の怠惰にも引き留められず、オルニーは「非常に恐ろしい決意」をします。保守的な訓練にもかかわらず──「あるいはそのゆえに、単調な生は未知への物憂い憧れを生むから」──あの崖に登ると誓う。「より正気の自分」は、住人は内陸側の尾根からミスカトニック河口沿いに家へ通っているに違いない、と論じます。東と北は海から数千フィートの垂直、南はキングスポート側の張り出した斜面で人の足では無理。残るのは西、内陸、アーカム側だけ[1]。

8月の早朝

8月のある早朝、オルニーは道を探しに出ます。フーパーの池と古い煉瓦の火薬庫を過ぎ、ミスカトニック川の上の尾根へ登ると、「幾リーグもの川と草地の向こうにアーカムの白いジョージ王朝様式の尖塔」が見えます。アーカムへの日陰の道はあっても、海の方向へは「道らしいものはまったくない」。石垣も迷い牛もなく、「最初の先住民が見たであろう」丈高い草と巨木と茨だけ。東へ登るほど道は険しく、彼は「あの嫌われた家の住人はどうやって外の世界へ出るのか、アーカムの市場へよく来るのか」と訝ります[1]。

木が薄くなり、はるか下にキングスポートの丘と屋根と尖塔が見えます。セントラル・ヒルさえ小人で、会衆派病院脇の古い墓地──「その下に恐ろしい洞窟か穴が潜むと噂される」──も見分けられます。尾根は狭まり、南はキングスポートへの恐ろしい絶壁、北は河口への「1マイル近い」垂直の落下。突然、深さ10フィートの裂け目が開き、彼は手で身を下ろして傾いた床へ落ち、向かいの壁の自然の隘路を危うく這い上がります。「これが、あの不気味な家の民が地と空のあいだを行き来する道か!」[1]

扉のない側

裂け目から出ると朝の霧が集まり始めていましたが、家ははっきり見えました。岩と同じ灰色の壁、海側の乳白色の蒸気を背に立つ高い屋根。そして内陸側の端には扉がなく、「17世紀風に鉛枠に嵌めた、くすんだ牛の目ガラスの」小さな格子窓が二つあるだけ。「まわりはすべて雲と混沌」で、下には「無限の空間の白さ」しか見えません。正面へ回ると、壁は崖の縁と面一で、「ただ一つの狭い扉は、空のエーテルからしか届かない」。彼は「高さだけでは説明のつかない恐怖」を感じます。「あれほど虫食いの屋根板が残り、あれほど崩れた煉瓦がまだ煙突を成しているのは、非常に奇妙だった」[1]。

霧が濃くなり、彼は北と西と南の窓を試して回りますが、すべて施錠されています。「その家を見れば見るほど、中に入りたくなくなったので、彼は錠が掛かっていることを漠然と喜んだ」。そこで音が彼を止めます。錠が鳴り、閂が抜かれ、重い扉が「ゆっくり用心深く」開く長い軋み。それは彼から見えない海側、「波の上数千フィートの霧の空の、何もない空間に開く」扉でした。家の中で重い足音がし、窓が順に開いていきます。北、西、次は彼のいる南。「主人が帰ってきたのは明らかだった。だが陸からではなく、想像できるどんな気球や飛行船からでもなかった」[1]。

彼は北へ回りますが、その前に「柔らかな声」が呼び、西の窓から「黒髭の大きな顔」が突き出ます。「聞いたこともない光景の刻印で燐光を放つ目」。しかし声は優しく「古風な種類」のもので、「褐色の手」が窓枠を越えるのを助けてくれたとき、オルニーは身震いしませんでした。黒樫の羽目板とチューダー様式の彫刻家具の低い部屋。主人は「とても古い衣服」をまとい、「海の伝承と背の高いガレオン船の夢の、置き場所のない後光」がありました[1]。

主人の話

オルニーは主人が語った驚異の多くを覚えていませんし、主人が誰だったかも言えません。「奇妙で親切で、測りがたい時空の虚空の魔法に満ちていた」とだけ言います。部屋は「薄暗い水のような光で緑」に見え、東の窓は開いておらず、「古い瓶の底のような鈍く厚いガラス」で霧のエーテルに対して閉ざされていました。主人は若く見え、目は古い神秘に浸っていて、「村の人々が、この寡黙な住まいを平地から見上げる村ができて以来ずっと、彼が海の霧と空の雲と交わってきたと言うのは正しいと推測せねばならない」[1]。

日が過ぎ、オルニーは「古い時代と遠い場所の噂」を聞きます。アトランティスの王たちが「海底の裂け目から這い出るぬめる冒涜」と戦ったこと、「柱と海藻のポセイドニスの神殿」がいまも真夜中に迷った船から見え、船はそれを見て自分が迷ったと知ること。ティタンの時代も語られましたが、主人は「神々も旧き者どもも生まれる前の混沌の最初の時代、他の神々だけがウルタールの向こうの石の砂漠のハテグ=クラの峰へ踊りに来た時代」の話になると「臆病に」なります[1]。

二度のノック

そのとき、扉にノックがあります。「その向こうには白い雲の深淵しかない、鋲を打った樫の古い扉」。オルニーは怯えますが、主人は静かにするよう合図し、爪先立ちで扉の小さな覗き穴から外を見ます。見たものが気に入らず、指を唇に当て、爪先立ちで回って窓をすべて閉めて鍵を掛け、客の隣の古い長椅子に戻りました。オルニーは、訪問者が「詮索するように」家のまわりを動くあいだ、小さな窓の半透明の四角に次々と「奇妙な黒い輪郭」が留まるのを見ます。「主人がノックに答えなかったことを、彼は喜んだ。大いなる深淵には奇妙なものがいて、夢を求める者は、間違ったものを掻き立てたり出会ったりしないよう気をつけねばならないからだ」[1]。

影が集まり始めます。まずテーブルの下の小さな忍び足の影、次に羽目板の暗い隅の大胆な影。主人は「謎めいた祈りの仕草」をし、「奇妙な細工の真鍮の燭台」に高い蝋燭を灯します。何度も扉を見て誰かを待つ様子で、やがて「非常に古く秘密の暗号に従ったに違いない」独特のノックが応えました。今度は覗き穴も見ずに、樫の閂を外し、鍵を抜き、重い扉を「星と霧へ向けて大きく開け放ち」ます[1]。

深淵からの客

「そして、幽かな調べの音とともに、深みから、地球の沈んだ偉大なる者たちのあらゆる夢と記憶がその部屋へ流れ込んできた」。金色の炎が海藻の髪のまわりに遊び、オルニーは目が眩みながら彼らに敬意を表します。三叉の矛のネプチューン、戯れるトリトンたち、幻想的なネレイスたち。そして海豚の背に載った「巨大な波形の貝」に、「原初のノーデンス、大いなる深淵の主の、灰色で畏るべき姿」が乗っていました。トリトンの法螺貝が奇怪な音を吹き、ネレイスは「黒い海の洞窟の未知の潜み手の、グロテスクで響く貝殻」を打って奇妙な音を立てます。「老いたノーデンスは萎びた手を差し伸べ、オルニーとその主人を巨大な貝へ助け上げ、法螺貝と銅鑼は荒々しく畏るべき喧噪を上げた。そして限りないエーテルへ、その伝説の一行はよろめき出て、その叫びの音は雷の反響に消えた」[1]。

一晩じゅう、キングスポートの人々は嵐と霧の切れ目にあの崖を見張り、夜半過ぎに小さな窓が暗くなると「恐れと災いを囁いた」。オルニーの子どもと太った妻は「バプテストの穏やかで正しい神」に祈り、「朝までに雨が止まなければ、旅人が傘とオーバーシューズを借りられますように」と願いました[1]。

降りてきた男

夜明けが海から「滴りながら、霧に巻かれて」泳ぎ出て、ブイが白いエーテルの渦の中で厳かに鳴ります。正午、「妖精の角笛が海の上に鳴り」、オルニーは「乾いて、足取り軽く」、「遠い場所の眼差し」で崖から古いキングスポートへ降りてきました。空に懸かる小屋で何を夢見たかも、ほかの誰の足も通ったことのないあの崖をどう降りたかも、思い出せません。これらのことを彼は「恐ろしい老人」以外の誰とも話せず、老人はあとで長い白髭の中で奇妙なことを呟きました。「あの崖から降りてきた男は、登っていった男とまったく同じではなかった。あの灰色の尖った屋根の下のどこかに、あるいはあの不吉な白い霧の想像もつかない広がりの中に、トマス・オルニーであった者の失われた霊がまだ留まっている」[1]。

それ以来、「灰色と倦怠のだらだらした年月」を通して、哲学者は働き、食べ、眠り、「市民にふさわしい行いを不平なく」しています。「もはや遠い丘の魔法を憧れず、底なしの海から緑の礁のように覗く秘密を求めてため息をつくこともない」。日々の同じさは悲しみを与えず、「よく躾けられた考えが想像力には十分になった」。妻はさらに太り、子どもたちは年を取って散文的で有用になり、「彼は場面が求めるとき、誇らしげに正しく微笑むことを決して忘れない」。「その眼差しに落ち着かない光はなく、厳かな鐘や遠い妖精の角笛に耳を澄ますことがあるとすれば、それは古い夢がさまよう夜だけだ」。家族は「おかしな古い家」を嫌い、排水が悪いと文句を言ったので、彼は二度とキングスポートを見ていません。いまは「高い断崖のそびえない、隣人が都会的で近代的な」ブリストル・ハイランズの「こぎれいなバンガロー」にいます[1]。

変わった家

しかしキングスポートには奇妙な噂が広まり、「恐ろしい老人」でさえ、祖父が語らなかったことを認めます。いま、北風があの家のそばを吹き抜けるとき、「キングスポートの海辺の小屋の民にとって常に禍いであった、あの不吉な陰鬱な沈黙」がついに破られている。老人たちは「そこで歌う心地よい声」と、「地上の歓びを越えた歓びに膨らむ笑い」を聞き、夕方の小窓は「以前より明るい」と言う。オーロラがその場所へ以前より頻繁に来て、「凍った世界の幻」とともに北で青く輝き、夜明けの霧はより濃く、船乗りは「海のほうから聞こえるくぐもった鳴り響きがすべて厳かなブイのものだとは、それほど確信できなくなった」[1]。

「しかし最悪なのは、キングスポートの若者たちの心で古い恐れが萎びていくことだ」。彼らは夜に北風の遠い音に耳を傾けるようになり、「あの高い尖った小屋に害も苦痛も住めない」と誓います。新しい声には歓びが脈打ち、笑いと音楽がある。長老たちは、いつか若者が一人ずつあの峰を訪ね、屋根の下の「何世紀もの秘密」を知ることを恐れます。「その冒険好きな若者たちが戻ってくることを疑いはしないが、目から光が、心から意志が消えているかもしれないと思う」。声また声と笑いの合唱が強く荒くなるあいだに、古いキングスポートが「気だるく年月を下って」いくのを、彼らは望みません。「来た声が海から新しい霧を、北から新しい光をもたらしたように、さらに別の声がさらに多くの霧と光をもたらし、ついには旧き神々(その存在を、会衆派の牧師に聞かれるのを恐れて囁きでしか匂わせない)が深みから、そして冷たい荒野の未知なるカダスから出てきて、静かで素朴な漁民の穏やかな丘と谷にあまりに近い、あの忌まわしくもふさわしい崖に住まうかもしれない」。そして「恐ろしい老人」はよく思い出します。「孤独な住人が恐れたノックと、あの奇妙な半透明の窓を通して霧を背に見えた、黒く詮索する形」のことを[1]。

「しかし、これらすべては旧き者どもだけが決めることだ」。そして本文は、冒頭と同じ朝の霧の文へ戻って閉じます[1]。

読みどころと注目テーマ

同じ文で開き、同じ文で閉じる

冒頭の霧の段落は、結びでほぼそのまま繰り返されます。「白く羽毛のように」「レヴィアタンの洞窟の夢」「旧き者どもから学んだ荒々しい調べ」「崖の縁が全地の縁であるかのように」「ブイの厳かな鐘が妖精のエーテルに自由に鳴る」。違うのは、最後には「その畏るべき懸かる岩の番人の下に落ち着きなく身を寄せるキングスポート」が加わることだけです。オルニーの一夜で何かが変わったあとも、霧は同じように上がる。物語はその枠の中の、一度きりの出来事として置かれています。

扉の向きと、二度のノック

家には内陸側に扉がなく、扉は海側、「空のエーテルからしか届かない」壁にあります。入ってくる者は空から来る。主人が帰ってくるのも、客が来るのも、その扉からです。そして客は二度ノックします。一度目は覗き穴で確かめて開けず、窓を閉め、影が窓を巡る。二度目は「秘密の暗号」で、覗きもせずに開け放つ。「大いなる深淵には奇妙なものがいて、夢を求める者は間違ったものに出会わないよう気をつけねばならない」。歓迎される訪問者と拒まれる訪問者が、同じ扉を叩きます。本文は一度目の訪問者が何かを言わず、「恐ろしい老人」が結びで「黒く詮索する形」を思い出すだけです。

何が降りてきて、何が残ったのか

オルニーは「乾いて、足取り軽く」、「遠い場所の眼差し」で降りてきます。しかしその後の彼は、憧れをなくし、「よく躾けられた考えが想像力には十分」になった男です。「恐ろしい老人」は「登っていった男とまったく同じではなかった」と言い、「トマス・オルニーであった者の失われた霊」が屋根の下か霧の中にまだいる、と言います。一方で、家のほうは変わります。沈黙が破れ、歌う声と笑いが聞こえ、窓は明るくなる。本文は「オルニーの何かが家に残った」とは書きませんが、彼が憧れを失った時期と、家に「新しい声」が加わった時期とを並べて置いています。

恐れを失う若者たち

結びで長老たちが恐れるのは、怪物でも災いでもなく、若者が「恐れを失う」ことです。家からは歓びの声しか聞こえない。だから若者は登りたがる。戻ってくるだろうが、「目から光が、心から意志が」消えているかもしれない。オルニーに起きたことが町の規模で繰り返される、という恐れです。ここで本作の恐怖は、害を受けることではなく、憧れを置いてきてしまうことになります。ラヴクラフトの作品の中でも、脅威が「歓び」の形をとる珍しい例です。

執筆背景と影響

公式アーカイブの年譜は本作を1926年11月9日に置いています[2]。同じ年にはクトゥルーの呼び声(夏)、ピックマンのモデル(1926年)が書かれ、本作の直後、1926年秋から翌年1月にかけて未知なるカダスを夢に求めてが書かれています。初出は執筆から5年後、1931年10月の『ウィアード・テイルズ』第18巻第3号でした[3]。

キングスポートは、恐ろしい老人(1920年)と祭り(1923年)に続いて三度目の舞台になります。本作には「恐ろしい老人」が同じウォーター街の小屋と瓶の振り子とスペイン金貨とともに再登場し、オルニーの話を聞く唯一の相手になります。「祭り」で地下から描かれた町が、本作では上から、崖の家から見下ろされます。

ノーデンスが「大いなる深淵の主」として貝に乗って現れる場面は、直後に書かれた未知なるカダスを夢に求めてで、同じ名の神格が再び出てくる際の先行例です。ハテグ=クラ、ウルタール、スカイ川、「他の神々」、「未知なるカダス」といった名も、本作の主人の話と結びに出てきます。夢の国の語彙が、ニューイングランドの港町の崖の上で使われている作品です。

出典

[1] H. P. Lovecraft, “The Strange High House in the Mist” (本文). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/shh.aspx本記事の引用・要約はすべてこの本文に基づきます。訳文は当サイトによる試訳です。

[2] “Lovecraft’s Fiction” (作品年譜). The H. P. Lovecraft Archive.https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/執筆日(1926年11月9日)、および「恐ろしい老人」1920年1月28日・「祭り」1923年10月・「クトゥルーの呼び声」1926年夏・「ピックマンのモデル」1926年・「未知なるカダスを夢に求めて」1926年秋?〜27年1月22日の出典。

[3] “Data Page for ‘The Strange High House in the Mist'” (作品情報・出版履歴).The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/shh.aspx初出『ウィアード・テイルズ』第18巻第3号(1931年10月)394–400ページの出典。

関連作品ガイド ── どれから楽しむか

  • 恐ろしい老人 — 本作に再登場する老人の初出作。瓶の中の振り子とスペイン金貨の由来は、あちらで描かれます。
  • 祭り — 同じキングスポートを、地下から描いた作品。本作の崖の上と並べると、この町が上下両方に「古いもの」を抱えているのが分かります。
  • 未知なるカダスを夢に求めて — 本作の直後に書かれた長編。ノーデンスと「他の神々」と未知なるカダスが、こちらでは夢の国の側から描かれます。
  • ノーデンス — 本作で貝に乗って現れる「大いなる深淵の主」の項。
  • キングスポート — 舞台の町の項。本作の断崖と「舗道」とウォーター街の位置関係はこちらで。
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