概要
ガタノソアは、H・P・ラヴクラフトがヘイゼル・ヒールドの代作者として1935年に発表した短編「永劫より」に登場する旧支配者である。その姿を見た生者は、いかに精巧な小さな彫像であっても、意識を保ったまま肉体だけが石と化すという苛烈な呪いを受ける。ラヴクラフト自身はこの神格をクトゥルフと明示的に結びつけたことは一度もなく、両者の血縁関係は後世の作家によって付け加えられた設定である。
日本語表記には「ガタノソア」のほか「ガタノトア」「ガタノトーア」などの表記ゆれがあり、原語表記でも異形として「Ghanta」「Gtantha」が記録されている。これらはいずれもファンによる音訳・整理の産物で、原典が単一の正式な日本語表記を定めているわけではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 旧支配者(原典自体は体系上の位置づけを明示せず、後世のTRPG設定・ファン整理を通じて分類された) |
| 欧文表記 | GHATANOTHOA |
| 初出 | H・P・ラヴクラフト(ヘイゼル・ヒールドの代作)「永劫より」(1935年) |
| 封印地 | ムー大陸ヤディス=ゴー山[1] |
| 主な異名 | ガタノトア、ガタノトーア(日本語表記ゆれ)、Ghanta、Gtantha(異形表記) |
| 象徴するテーマ | 石化、視覚による呪い、太古のムー大陸、意識ある死 |
初出作品
ガタノソアが登場するのは、H・P・ラヴクラフトがヘイゼル・ヒールドの代作者として1935年に発表した短編「永劫より(Out of the Aeons)」ただ一作である。他の多くの旧支配者と異なり、原典レベルで複数作品にまたがる書き継ぎはない。
物語は、ミイラ化した太古の神官の遺体を調査団が解剖し、その正体と石化の呪いの真実に直面する構成を持つ。太古の犠牲者が何千年もの間、意識を保ったまま石の中で苦しみ続けていたという発見が物語の核であり、発掘・解剖という近代科学の営みそのものが、意図せず恐怖を呼び覚ましてしまう。代作作品というやや特殊な成立事情を持つ一編だが、「発掘された遺物が現代の調査者に真実を強いる」という構成はクトゥルフの呼び声とも共通する神話の定型パターンである。
原典での描写
原典本文は、ガタノソアをタコやゾウを思わせる無定形の巨大な塊として描く。その表面は絶えず波打っているとされる[2]。
姿を直視した生者は、意識と感覚を保持したまま肉体だけが石と化す。これが原典における中心的な設定である[3][4]。しかも呪いが及ぶのは本体を直視した場合に限らない。それを模した精巧な小さな彫像を見ただけでも、同様の変異が生じるとされる[3]。
封じられていた場所は、太古のムー大陸クナア(K’naa)の地にそびえるヤディス=ゴー山の要塞である[1]。この土地とムー大陸そのものの年代記については、ムーの記事で原典に沿って詳しく扱っている。
原典に、これ以上の権能の詳細や他の神格との関係についての記述はない。現在流通しているガタノソア像の多くは、ここから先の層で作られたものである。
ダーレス以降の変化
ガタノソアに関するこの層の設定を創ったのは、オーガスト・ダーレスではなくリン・カーターである。原典より後に付け加えられた設定を扱うという、この見出し共通の趣旨に沿ってここにまとめる。
原典に血縁設定はない。後世の代表的な系譜整理としては、リン・カーターの「ゾス神話群(Xothic Legend Cycle、1971〜1981年)」が、ガタノソア・イソグタ・ゾス=オムモグの三神をクトゥルフとその伴侶イダ=ヤーの子(「魔の三神」)とする設定を提示しており、ガタノソアはその長兄とされることが多い。
ブライアン・ラムレイ関連の整理では、ここに隠された第四子クティーラが加わる場合がある。さらに後年のファン考察では、クトゥルフの三番目の妻カソグサとの間に生まれた双子ヌクトーサ・ヌクトルーが異母姉妹として追加されることもあるが、この情報の一次的な典拠は確認できていない(イダ=ヤーの記事でも同様に未照合として扱われている)。これらの系譜はいずれも1935年の原典には存在しない、後世の作家・ファンによる血統設定である点に注意したい。
研究者ロバート・M・プライスは、ラヴクラフト自身は一度もガタノソアとクトゥルフを明示的に結びつけていないと指摘した上で、ガタノソアは実質的にクトゥルフの改訂版として意図されていたのではないかという見解を示している。
TRPGでの扱い
原典「永劫より」の時点では単に太古ムー大陸の恐るべき神として描かれるのみで、クトゥルフ神話全体における体系上の位置づけは明確にされていない。後世のTRPG設定・ファン整理を通じて「旧支配者」に分類されるようになった。
- PathfinderRPG設定(PathfinderWiki) — ムー大陸において最も恐れられ、同時に最も篤く崇拝された神とされる[5](1935年の原典自体にこの表現はなく、後世のゲーム設定による位置づけである点に注意)
- 信仰の継承 — 同設定では、ムー滅亡後も人間以外の主体、特にミ=ゴによって信仰・管理が継承されたとされる[5]。ミ=ゴがガタノソアをムーの要塞に配置し崇拝と管理を担う「主体」として描かれることが多く、この点で自律的に信仰を集める他の旧支配者とはやや性格を異にする
- クトゥルフ信徒との対立 — 同設定では、ガタノソア=クトゥルフの子説はガタノソア信徒にとって冒涜的とみなされる一方、クトゥルフ信徒はガタノソアを歯牙にもかけないとされ、両陣営の対立が描かれる
- サードパーティ数値化 — サプリメント『Spheres of Power』では、CR19の破壊・悪・狂気・水を司る神格として数値化されている
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 永劫より(Out of the Aeons) | 1935 | H・P・ラヴクラフト(ヘイゼル・ヒールドの代作) | 初出。石化の呪い、ヤディス=ゴー山、ムー大陸[1][2][3][4] |
| ゾス神話群(Xothic Legend Cycle) | 1971〜1981 | リン・カーター | クトゥルフとイダ=ヤーの子という系譜 |
| The Transition of Titus Crow | 1975 | ブライアン・ラムレイ | 隠された第四子クティーラの追加(ゾス系譜の拡張) |
| PathfinderWiki設定 | – | Paizo社 | ミ=ゴによる信仰継承、クトゥルフ信徒との対立設定[5] |
| Spheres of Power(サプリメント) | – | サードパーティ | CR19としての数値化 |
関連神格・地域・書物
神格・種族
- クトゥルフ — リン・カーターの系譜における父とされる。原典に血縁関係の記述は無い
- イダ=ヤー — 同系譜における母
- イソグタ — 同系譜における弟(魔の三神の一柱)
- ゾス=オムモグ — 同系譜における弟(魔の三神の一柱)
- クティーラ — ブライアン・ラムレイ関連の整理で加わるとされる隠された妹
- ミ=ゴ — TRPG設定でガタノソアの崇拝・管理を担うとされる種族
地域
- ムー — 封印地であるヤディス=ゴー山を含む、原典の舞台となった沈没大陸
参考文献
- [1] “Mount Yaddith-Gho soared starkly into the sky, topped by a gigantic fortress of Cyclopean stone.”(訳: 「ヤディス=ゴー山は鋭く天へとそびえ立ち、その頂には巨石造りの巨大な要塞を戴いていた」) — H. P. Lovecraft(ヘイゼル・ヒールド名義代作), “Out of the Aeons”(1935年), hplovecraft.com
- [2] “I might call it gigantic—tentacled—proboscidian—octopus-eyed—semi-amorphous—plastic—partly squamous and partly rugose—ugh!”(訳: 「それを、巨大で——触手を持ち——象の鼻のようなものがあり——タコのような目を持ち——半ば無定形で——可塑的で——一部は鱗状、一部はざらついている、とでも呼ぶべきか——うっ!」) — 同上, hplovecraft.com
- [3] “For no living thing could behold Ghatanothoa, or even a perfect graven image of Ghatanothoa, however small, without suffering a change more horrible than death itself.”(訳: 「いかなる生ある者も、ガタノソアの姿を、あるいはそれを模した完璧な彫像を——いかに小さくとも——目にすれば、死そのものよりも恐ろしい変異を被らずには済まなかった」) — 同上, hplovecraft.com
- [4] “the brain within remained perpetually alive—horribly fixed and prisoned through the ages, and maddeningly conscious of the passage of interminable epochs”(訳: 「内なる脳髄は永遠に生き続けた——幾星霜にわたり恐ろしくも固定され幽閉されたまま、気も狂わんばかりに、果てしない時代の経過を意識し続けて」) — 同上, hplovecraft.com
- [5] “Ghatanothoa is the god of ancient Mu, now bereft of its primary cult… Ghatanothoa counts few human followers, but has long been worshipped by several mi-go sects, who build stone temples on desolate islands.”(訳: 「ガタノソアは太古ムーの神であり、今ではその主たる信仰を失っている……人間の信奉者はほとんどいないが、荒涼とした島々に石造の神殿を築く複数のミ=ゴ教団によって長らく崇拝されてきた」) — PathfinderWiki「Ghatanothoa」項目(1935年原典ではなく、Paizo社パスファインダーRPGのゲーム設定), PathfinderWiki
FAQ
Q. ガタノソアはクトゥルフの息子という設定は原典にあるのか?A. ない。1935年の原典「永劫より」にはクトゥルフとの血縁関係を示す記述は一切なく、この設定はリン・カーターら後世の作家が「ゾス神話群」として付け加えたものである。
Q. ガタノソアの姿や名前の表記は決まっているのか?A. 姿は原典に一応の描写がある。タコやゾウを思わせる無定形の巨大な塊で、絶えず波打つ表面を持つとされる[2]。一方、名前の日本語表記は「ガタノソア」「ガタノトア」「ガタノトーア」など複数の表記ゆれがあり、原語側にも「Ghanta」「Gtantha」という異形が記録されている。いずれもファンによる音訳・整理の産物で、原典が単一の正式表記を定めているわけではない。
Q. ウルトラマンティガの「ガタノゾーア」と同じ存在なのか?A. 別物である。1996年放映の特撮作品に登場するラスボス「ガタノゾーア」は、ガタノソアの名と太古文明を滅ぼすという設定を踏まえつつ、クトゥルフ由来の要素も取り込んだ独自の翻案キャラクターであり、原典のガタノソアそのものではない。日本国内でのガタノソアの知名度上昇には、このガタノゾーアの存在が大きく寄与している。なお漫画・アニメ『這いよれ! ニャル子さん』のキャラクター「グタタン」も、ガタノソアの表記ゆれ由来の名を持ちつつ、外見デザインは原典よりもむしろガタノゾーアから引き継がれたものとされる。





