知的種族 — FLYING POLYPS

飛行ポリプ

原典

太古の地球に無窓の玄武岩の塔の都市を築き、風を操って飛行したとされる先住の知的種族。原文中に固有の種族名はなく、「飛行ポリプ」の呼称自体は後年のTRPG設定に由来する。

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飛行ポリプ
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編集部注(著作権について): 出典の『時間からの影』は、掲載誌Astounding Stories該当号の著作権が更新されているため(登録番号R316511)、2032年まで米国で著作権が継続しています(パブリックドメインではありません)。本記事中の引用は論評・紹介目的の短い範囲(1文程度)に限定し、出典を脚注で明示しています。断定的な言い切りは、原文または複数資料で裏付けられた事実に限定し、細部は「〜とされる」等のヘッジ表現で区別しています。

概要

飛行ポリプは、H・P・ラヴクラフトの中編『時間からの影』(1936年発表)に登場する、太古の地球に君臨したとされる先住の知的種族である。作中では主人公がイースの大いなる種族に精神を拘束される物語の一部として位置づけられ、大いなる種族本体に比べると知名度・登場頻度は低いとされる。

原文中に「flying polyp」という語は存在しない。現在使われているこの呼称は、1980年代のクトゥルフ神話TRPG設定資料で与えられた英語名が日本語に訳されたものである(詳しくはTRPGでの扱いを参照)。

ラヴクラフトの原典は、この種族を「外なる神」「旧支配者」といった神格分類の枠組みには位置づけていない。太古の地球を支配した「先住種族」として描かれるにとどまり、旧支配者・外なる神・旧神——神格の分類用語を整理するが扱うような格付けよりも、イースの大いなる種族の物語における先住の知的種族という位置づけが実態に近い。東雅夫編『クトゥルー神話事典』(第四版、2013年、学研)も「先住種族」の項でこの種族を整理しているとされる。

項目 内容
分類 知的種族(半物質的な生命体。原文中では複数形の「Elder Things」(作中で最も多く使われる呼称)や「elder race」等と呼ばれる[1][2])
欧文表記 FLYING POLYPS
初出・出典 『時間からの影』(1934–1935年執筆/1936年発表)
活動時代(原典設定) 太古の地球。原文には地球など複数の惑星を支配したのは約6億年前とする記述がある(詳しくはFAQ参照)
主な居住域 無窓の玄武岩の塔からなる地下都市
canon層 原典

初出作品

飛行ポリプが登場する原典作品は、『時間からの影』(The Shadow Out of Time)ただ一作である。1934年から1935年にかけて執筆され、1936年にAstounding Stories誌に発表された中編小説で、主人公ナサニエル・ピースリーがイースの大いなる種族に精神を拘束される経緯を描く物語の中で、大いなる種族ですら決して口にしないタブーの歴史として飛行ポリプの存在が明かされる構成になっているとされる。

続編や関連する原典作品は無い。後続作家による言及・再登場はあるが(登場作品一覧を参照)、種族としての設定自体はこの一作の記述がすべてである。

原典での描写

原文中に固有の種族名は無く、作中では複数形の「Elder Things」(最も多く使われる呼称)、一度だけ登場する「Elder Beings」、そして「elder race」といった呼び方にとどまる[1][2]。半ポリプ状で身体の一部のみが物質的とされる異質な生命体であり、可視・不可視のあいだを行き来するとされる。

原典から読み取れる性質は次のとおりである。

  • 視覚を持たない代わりに、あらゆる物質的障壁を透過する特殊な知覚を備えるとされる[6]
  • 翼や他の付属肢を用いず、気流そのものを操ることで飛行する。攻撃・移動の両方に大風を利用するという紹介もある[3][4]
  • 一時的に姿を消すことができるが、不可視の状態でも他に類のない甲高い口笛のような音を発するため、存在を察知できるとされる[4][5]
  • 部分的にしか物質でないものの、通常の物質からの影響を受けるだけの実体性があり、通常の攻撃手段にはほぼ無敵に近い耐性を持つ一方、ある種の電気エネルギーでは破壊されうるとされる[6]
  • 精神構造があまりに特異なため、イースの大いなる種族による精神転移の対象にもできなかったとされる[7]
  • 空中を移動していても地面と接触するらしく、行く先々に五本指状の放射状の足跡を残すという紹介が英語圏資料に見られる[5]

物語の中心にあるのはイースの大いなる種族との対立である。太古の地球で飛行ポリプは、半植物的な円錐体生物を捕食しながら無窓の玄武岩の塔の都市を築いていたが、イースの大いなる種族が円錐体生物の身体を乗っ取って地球へ進出すると、攻撃を受けて地底世界へ追いやられ、都市は放棄されたとされる。長い年月を経て再び地上に現れた飛行ポリプは逆襲し、円錐体生物(すでに大いなる種族が精神を捨てて未来へ逃れた後の抜け殻の身体)を滅ぼしたとされる。復讐を果たした後は地上の再支配を望まず地下の深淵で衰退していったが、現代においても滅亡してはいないという紹介がある。

なお、南極大陸を舞台とする太古の知的種族「古のもの(エルダー・シング、Elder Thing)」は、飛行ポリプとは別種族として区別される。両者はしばしば混同されるが、飛行ポリプが登場するのは『時間からの影』のみで、『狂気の山脈にて』には登場しない(詳しくはFAQ参照)。

ダーレス以降の変化

後続作家による拡張として、フレッド・ペルトンの設定では飛行ポリプに「ロイガーノス」という固有名が与えられ、邪神ロイガーに仕える風の眷属として位置づけられているとされる。ロイガーノスの名はネクロノミコンの異本「サセックス稿本」に記録されているとされるが、正本のネクロノミコンには載っていないとされる。この眷属設定はラヴクラフトの原典には存在せず、後続作家による追加設定である。

文学作品での言及としては、リン・カーター「暗黒の知識のパピルス」(邦訳は新紀元社『エイボンの書』所収)に飛行ポリプ(先住種族)への言及があるとされる。また、Trent Roman「The Invasion Out of Time」(アンソロジー『Cthulhu Unbound』、Permuted Press刊、未訳)は、未来において人類の前に敵として出現した飛行ポリプと、書物を通じて彼らの存在を知っていた人類との戦いを、中国人戦闘機パイロットの視点から描いているとされる。いずれも原典の設定を大きく拡張するものではなく、飛行ポリプという存在への言及・再登場にとどまる。

TRPGでの扱い

「飛行ポリプ(flying polyp)」という名称自体が、TRPG発の呼称である。原文中で確認できる呼称は「Elder Things」「elder race」等にとどまり、1980年代にクトゥルフ神話TRPG(Call of Cthulhu)の設定資料で英語名”flying polyp”が与えられ、それが日本語へ訳されたものとされる。日本語圏の紹介記事では「盲目のもの」という呼称も用いられる。

Pathfinder Roleplaying Game『Into the Nightmare Rift』(James Jacobs & Sean K Reynolds著、Paizo Inc.、2012年)ほか一連のPathfinderソースブックでは、flying polypが「Aberration(air)」タイプ・Challenge Rating 14のクリーチャーとしてステータス化されている。ゴラリオン(Golarion)世界設定では、ハスターを信奉する一団が「星の石柱」を築いたとする独自の追加設定もあるとされる。

TRPG層が神話に何をしたのかという全体像は三層で読み解くクトゥルフ神話にまとめてある。

登場作品一覧

作品 年 作者 この作品が足したもの
時間からの影 1934–1935年執筆/1936年発表 H・P・ラヴクラフト 飛行ポリプが登場する唯一の原典
暗黒の知識のパピルス — リン・カーター 後続作家による言及(邦訳『エイボンの書』所収)
The Invasion Out of Time(『Cthulhu Unbound』所収) — Trent Roman 未来を舞台に人類との戦いを描く後続作品(未訳)
Into the Nightmare Rift ほかPathfinderソースブック 2012年 James Jacobs & Sean K Reynolds(Paizo Inc.) Aberration(air)・CR14としてステータス化。ゴラリオン独自設定を追加
邪神伝説シリーズ — 矢野健太郎 日本の漫画作品でモチーフとして登場
Z/X -Zillions of enemy X- — — 日本のトレーディングカードゲームでモチーフとして採用

関連神格・地域・書物

神格・種族

  • イースの大いなる種族 — 飛行ポリプの物語の中心にある対立相手。地球征服後に飛行ポリプを追い、後に逆襲を受けた
  • 古のもの(エルダー・シング) — 南極大陸を舞台とする別の太古種族。飛行ポリプとしばしば混同されるが別種族
  • ロイガー — フレッド・ペルトンの設定で飛行ポリプ(ロイガーノス)を眷属とするとされる邪神。原典に無い、後続作家の追加設定

地域

  • 無窓の玄武岩の塔からなる地下都市 — 飛行ポリプが築いたとされる太古の居住地。固有の地名は原文で与えられていない

書物・象徴

  • ネクロノミコンの異本「サセックス稿本」 — フレッド・ペルトンの設定で、ロイガーノスの名が記録されているとされる書物。正本のネクロノミコンには無いとされる

分類の考え方

参考文献

原典『時間からの影』が著作権継続中のため(冒頭の編集部注を参照)、原文からの引用は下記[1]〜[7]の短い一文程度にとどめている。

  • [1] “the basis of the fear was a horrible elder race of half-polypous, utterly alien entities which had come through space from immeasurably distant universes and had dominated the earth and three other solar planets about six hundred million years ago.”(訳: 「恐怖の根底にあったのは、計り知れないほど遠い宇宙から飛来し、地球と他の三つの惑星を約六億年前に支配した、半ポリプ状のまったく異質な存在からなる恐ろしい先住の種族だった。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩
  • [2] “there came vague, evil signs that the Elder Things were growing strong and numerous in the inner world.”(訳: 「Elder Things(先住のもの)が地底の世界で再び強大になり、数を増しているという、漠然とした不吉な兆候が現れはじめた。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩
  • [3] “They had the power of aërial motion despite the absence of wings or any other visible means of levitation.”(訳: 「翼やその他目に見える浮揚の手段が無いにもかかわらず、彼らは空中を移動する力を持っていた。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩
  • [4] “There were veiled suggestions of a monstrous plasticity, and of temporary lapses of visibility, while other fragmentary whispers referred to their control and military use of great winds.”(訳: 「怪物じみた可塑性や、一時的に姿が見えなくなることを仄めかす記述があり、また別の断片的な伝聞は、大風を操り軍事的に利用する能力に触れていた。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩
  • [5] “Singular whistling noises, and colossal footprints made up of five circular toe-marks, seemed also to be associated with them.”(訳: 「異様な口笛のような音や、五つの円形の指の跡からなる巨大な足跡も、彼らと結びつけられているようだった。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩
  • [6] “Though their senses could penetrate all material barriers, their substance could not; and certain forms of electrical energy could wholly destroy them.”(訳: 「彼らの知覚はあらゆる物質的障壁を透過できたが、その実体そのものは透過できず、ある種の電気エネルギーは彼らを完全に破壊しえた。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩
  • [7] “Their minds were of such texture that no exchange with them could be effected by the Great Race.”(訳: 「彼らの精神はあまりに特異な性質のものだったため、イースの大いなる種族による(精神の)交換の対象にすることができなかった。」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow Out of Time”, 公式アーカイブ ↩

その他、本文で言及した参照先:

  • 東雅夫編『クトゥルー神話事典』第四版(2013年、学研)——「先住種族」の項
  • Pathfinder Roleplaying Game『Into the Nightmare Rift』(James Jacobs & Sean K Reynolds著、Paizo Inc.、2012年)
  • Trent Roman, “The Invasion Out of Time”, 収録: アンソロジー『Cthulhu Unbound』(Permuted Press刊)
  • リン・カーター「暗黒の知識のパピルス」(邦訳: 新紀元社『エイボンの書』所収)

FAQ

Q. 『狂気の山脈にて』にも登場しますか?

A. いいえ。『時間からの影』は飛行ポリプが登場する唯一の原典作品です。『狂気の山脈にて』に登場する類似の先史種族は「古のもの(エルダー・シング、Elder Thing)」という別種族として区別されており、飛行ポリプ自体が『狂気の山脈にて』に登場するという裏付けは確認できません。なお、ややこしいことに『時間からの影』の原文でも飛行ポリプ自身が複数形で「Elder Things」と呼ばれており(古のものを指す英語表現と同一)[2]、この語の一致も両者が混同されやすい一因と考えられます。

Q. 「飛行ポリプ」という名前はラヴクラフト自身が付けたのですか?

A. いいえ。原文中で確認できる呼称は「Elder Things」「elder race」等にとどまり、「飛行ポリプ(flying polyp)」という名称は1980年代にクトゥルフ神話TRPGの設定資料で英語名が与えられ、それが日本語へ邦訳されたものとされています。

Q. 地球に飛来した時期は何年前と確定しているのですか?

A. 確定していません。原文には、地球を含む複数の惑星を支配したのは約6億年前とする記述があり、これが飛来時期の目安になっているとされます。これより新しい年代を挙げる紹介も見られますが、原文で確認できる数値ではないため、本記事では採用していません。

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