書物 — DE VERMIS MYSTERIIS

デ・ヴェルミス・ミステリイス

原典

ロバート・ブロック「The Shambler from the Stars」(1935年)に登場する架空の魔道書です。古書店で見つかった黒革に鉄金具の大冊で、著者は異端審問で刑死した魔道士ルドヴィク・プリンとされます。ラヴクラフト作品では「暗闇の悪魔」「時間からの影」「アロンゾ・タイパーの日記」の3篇に、他の禁書と並んで名が挙がります。

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概要

デ・ヴェルミス・ミステリイスは、ロバート・ブロックの短編「The Shambler from the Stars」(Weird Tales 1935年9月号)に登場する架空の魔道書です。古書店の棚に忘れられていた一冊として物語に姿を現し、語り手である駆け出しの怪奇作家がこれを買い求めるところから、悲劇の顛末が始まります[1]。

作中で明かされる書物の由来はこうです。著者はルドヴィク・プリンという名の錬金術師・降霊術師で、魔女裁判の嵐が吹き荒れた時代にブリュッセルで火刑に処された人物とされます。彼は裁判を待つ独房でこの書を書き上げ、死の翌年にケルンで印刷にかけられました[1]。

この書物は、H・P・ラヴクラフトの作品にも3度名前が登場します。「暗闇の悪魔」「時間からの影」「アロンゾ・タイパーの日記」のいずれでも、ネクロノミコンや屍食教典儀、無名祭祀書などと並ぶ禁書の一つとして挙げられるにとどまり、内容や来歴が語られるわけではありません[2][3][4]。

基本プロフィール

  • 分類: 書物(架空)
  • 欧文表記: DE VERMIS MYSTERIIS(資料A中に英訳「Mysteries of the Worm」の併記があります)
  • 著者(作中設定): ルドヴィク・プリン(Ludvig Prinn)
  • 初出: ロバート・ブロック「The Shambler from the Stars」、Weird Tales 第26巻第3号、1935年9月[1]
  • ラヴクラフト作品での言及: 暗闇の悪魔(1935年11月執筆)、時間からの影(1934年11月〜1935年3月執筆)、アロンゾ・タイパーの日記(1935年10月執筆)[2][3][4]

初出作品での描かれ方 ── 「The Shambler from the Stars」

書物の外見と入手

語り手は、シカゴのサウス・ディアボーン街にある小さな古書店で、シェイクスピアの百年前の版の間に挟まれていたこの本を見つけます。鉄の金具で補強された分厚い黒革の書物で、表紙には手彫りの文字で「De Vermis Mysteriis」、すなわち「蟲の秘密」の題が刻まれていました。店主はこの本の来歴を知らず、語り手はわずか1ドル紙幣一枚で購入します[1]。

著者ルドヴィク・プリンの来歴

語り手が伝え聞いた限りでは、プリンは錬金術師にして降霊術師、みずから魔道士を名乗った人物でした。驚異的な長寿を誇り、自らを第九次十字軍の唯一の生存者と称して古びた書類を証拠に見せていたといいます。もっとも古い年代記には、モンセラートの従士の中にルドヴィク・プリンなる人物が名を連ねていたとの記述があり、懐疑派はこれを「食わせ者」か、せいぜい元の従士の子孫だろうと見ていました。プリン自身は、シリアで魔道師たちの捕虜として過ごした歳月にその術を学んだと語り、ジンやイフリートとの遭遇を臆面もなく話したとされます。エジプトに滞在した時期もあり、アレクサンドリアでの彼の所業についてはリビアの托鉢僧たちの間に伝説が残っているといいます[1]。

晩年はブリュッセル近郊の森に建つローマ以前の墓の廃墟に住み、使い魔の群れと呼び出した存在に囲まれて暮らしていたとされます。現存する記録は彼を「目に見えぬ従者」「星より遣わされた下僕」を従えていた人物として、慎重な筆致で伝えています。村人たちは夜の森を避け、月に向かって響く物音や、暗い谷間に崩れ残る異教の祭壇で行われることを恐れていました。予言や星占い、怪しげな秘薬や護符を求めて多くの巡礼者がプリンのもとを訪れたとも記されています[1]。

逮捕と儀式文の使用

異端審問の手先に捕らえられたのち、プリンが使役していたとされる存在は一切姿を見せなくなります。捜索の兵士たちが見つけた墓は荒らされた末に空で、超自然の存在も道具も薬草も忽然と消え失せていました。祭壇と拷問台の双方に新しい血の跡が残っていたとも書かれています。過酷な拷問にもプリンは口を割らず、やがて裁判を待つ独房に投じられました。この獄中で、彼は「デ・ヴェルミス・ミステリイス」、今日「蟲の秘密」の名で知られる書物を書き上げます。どうやって看守の目をかいくぐって外へ持ち出されたのかは謎のままですが、死の翌年にケルンで印刷され、ただちに発禁となったものの、私家版として少数の写本がすでに出回っていたとされます。後年には検閲を経た版も出たものの、真正とみなされるのはラテン語の原典のみだといいます[1]。

語り手は、この本をラテン語に通じた友人のもとへ持ち込みます。友人の家はプロヴィデンスにある古めかしいジョージ王朝様式の邸宅で、二階の書斎には大きな机と背の高い椅子、壁沿いの書棚、整理された写本の束が並び、窓の外には海を望む景色が広がっていました。ふたりがこの本を開いたのは、月のない霧深い四月の夜のことです。友人は開巻を前にためらい、これは良からぬ知識であり、正体の知れぬ古い知恵に手を出して命を落とした者もいると語り、思いとどまるよう説きました。しかし語り手はその忠告を退け、ページをめくらせます。開いてみれば拍子抜けするほど平凡な一冊で、黄ばんで崩れかけた紙に黒々とした活字体のラテン語が並ぶだけで、挿絵も奇怪な図版も見当たりませんでした。それでも友人はまもなくこの稀覯本の魅力に抗えなくなり、ページを繰りながら即興で訳を口にしていきます。イグ、暗黒のハン、蛇髭のビャティスといった占いの神々への言及に語り手は身を震わせますが、恐怖はまだ序の口でした[1]。

友人は「使い魔についての章」に、かつてプリンが星の彼方の下僕を呼び出すのに用いたとおぼしき呪文を見つけ、これを読み上げます。「Tibi, Magnum Innominandum, signa stellarum nigrarum et bufaniformis Sadoquæ sigillum……」というラテン語の詠唱は、意味の分からぬままに語り手の魂を刺し貫きました。唱え終えるが早いか部屋は急に冷え込み、この世のものではない風が開いた窓から吹き込み、壁がきしみ、窓枠がゆがみます。虚空からは耳障りな哄笑が湧き起こり、友人の体は宙に持ち上がって背中から折れ曲がり、骨の砕ける音とともに首から血が噴き出しました。その血は床に落ちる前に宙で止まり、すすり上げるような音とともに何かに吸い取られていきます[1]。友人の体はみるみる干からびて骸のようになり、代わって血によって初めて輪郭を得たのは、頭も顔もない、無数の触手を持つ赤くぬめる怪物でした。怪物は友人の亡骸を捨て置き、代わりに一本の触手でこの書物をつかみ取ると、窓から外へ姿を消します。書物は語り手の手元から永遠に失われ、物語はここで幕を閉じます[1]。

ラヴクラフト作品での言及

暗闇の悪魔

「暗闇の悪魔」の登場人物ブレイクは、正気の人間がほとんど耳にしたことのない禁断の書物を数多く読んでいた人物として描かれます。地の文は「ラテン語版の忌まわしいネクロノミコン、不吉なリベル・イヴォニス、デルレット伯の悪名高い屍食教典儀、フォン・ユンツトの無名祭祀書、そして老ルドヴィク・プリンの地獄めいたデ・ヴェルミス・ミステリイス」を彼が読んだ書物として並べ、パナコティック・マニュスクリプトや『ザンの書』は評判でしか知らない書物として区別しています[2]。

時間からの影

「時間からの影」の語り手ピースリーは、自分をめぐる怪しい噂の背景として自身の読書歴を振り返ります。地の文には、デルレット伯の屍食教典儀、ルドヴィク・プリンのデ・ヴェルミス・ミステリイス、フォン・ユンツトの無名祭祀書、断片のみ現存するエイボンの書、そして狂えるアラビア人アブドゥル・アルハザードの忌まわしいネクロノミコンを克明に読み込んだとの記述があり、それを裏づける書き込みが本のページの余白に残っていたとされます[3]。

アロンゾ・タイパーの日記

「アロンゾ・タイパーの日記」の語り手は、屋敷の屋根裏で見つけた古びた木箱の中に、ギリシア語版のネクロノミコン、ノルマン=フランス語版のエイボンの書と並んで「老ルドヴィク・プリンのデ・ヴェルミス・ミステリイスの初版」を発見したと記します。同じ木箱には、クラース・ファン・デル・ヘイルなる人物の手になる低地ラテン語の手記も収められていました[4]。

性質と影響

「The Shambler from the Stars」の中で、デ・ヴェルミス・ミステリイスは読むだけで危険な書物として描かれます。使い魔についての章に収められた詠唱は、唱えた者の意図とは無関係に、星の彼方から実体を呼び寄せる力を持っていました。物語の結末で書物そのものが怪物に持ち去られてしまうため、この一冊がその後どのような経緯をたどったのかは、少なくとも本作の本文には書かれていません。

ラヴクラフト作品における扱いはこれと対照的です。3篇のいずれでも、デ・ヴェルミス・ミステリイスはネクロノミコンや屍食教典儀、無名祭祀書、エイボンの書と並べて名前が挙がるだけで、儀式文の中身や具体的な危険性には触れられません。読んだ、あるいは所蔵していたという事実そのものが、その人物や場所の禁忌との関わりを示す記号として使われています。ブロックの作品では書物そのものが物語を動かす存在として描かれるのに対し、ラヴクラフトの3篇では一貫して蔵書目録の一項目にとどまり、書物が単独で場面を動かすことはありません。

プリンという著者像がブロックとラヴクラフトの間でどこまで擦り合わされていたのか、他の魔道書とのより詳しい関係、TRPGなど後年の作品での扱いについては、当サイトでは確認していません。

関連する用語

出典

[1] Robert Bloch, “The Shambler from the Stars”, Weird Tales vol. 26, no. 3 (September 1935). Internet Archive: Weird_Tales_v26n03_1935-09_sas_-ifc(訳文は当サイトの試訳)[2] H. P. Lovecraft, “The Haunter of the Dark” (本文). The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/hd.aspx[3] H. P. Lovecraft, “The Shadow out of Time” (本文). The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/sot.aspx[4] H. P. Lovecraft (for William Lumley), “The Diary of Alonzo Typer” (本文). The H. P. Lovecraft Archive. https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/dat.aspx執筆時期はいずれも “Lovecraft’s Fiction”(作品年譜) https://www.hplovecraft.com/writings/fiction/ による。

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