コラム — THE SINKING CITY 2'S ARKHAM AND THE ORIGINAL ARKHAM

『The Sinking City 2』のアーカムと原典のアーカム

先行アクセスが始まった『The Sinking City 2』が描く水没した1920年代アーカムを、ラヴクラフト原典のアーカム描写と照らし合わせる。

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導入

2026年8月17日、『The Sinking City 2』の先行アクセスが始まった。Steam公式ストアページの表示は「Advance Access On Now!」に切り替わり、Premium Edition購入者はすでにプレイできる状態にある。通常版の発売は8月18日[4]。

本記事は前作からの続報レビューではなく、Steam公式が明かす舞台設定——「1920s Arkham」「A Roaring ’20s port city」——を、原典のアーカム描写と1つずつ照らし合わせる記事である。ゲームの出来を評価する場ではなく、どこまでが原典で、どこからがゲーム側の翻案かを切り分ける。

水没した港湾都市は、原典のアーカムか

Steam公式は舞台を「1920s Arkham」の港湾都市とし、「Deep Ones surge from dark water(深きものが暗い水から押し寄せる)」と説明する[4]。

対して原典のアーカムは、ミスカトニック大学(のち医学部)を擁する内陸の大学町として描かれる。地形のモデルはマサチューセッツ州セイラムとラヴクラフトの故郷プロヴィデンスで、街を南北に分けるミスカトニック川の上流にダニッチ、河口にキングスポートが位置づけられる地理設定を持つ。この街が本格的な舞台として機能する最初期の作品は「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」だが、そこで街を襲う災厄は水ではなくチフスの大流行である[1]。少なくとも原典の主要作品群において、アーカムが水没した港湾都市として描かれた例は確認できない。

港湾都市化と水没という設定は、前作『The Sinking City』の舞台だった架空都市オークモントから引き継がれた要素と見るのが妥当だろう。オークモントは大洪水に見舞われた港町として設計されており、続編がその「水に浸された街」の空気をそのままアーカムへ移植した形になる。原典のアーカムは港でも水没都市でもなく、この転換はゲームというメディアが独自に加えた翻案にあたる。

深きものは、本来インスマスの存在

Steam公式が敵として挙げる深きものは、原典では「インスマスの影」で本格的に描かれた種族で、父なるダゴン・母なるヒュドラを主神とする「ダゴン秘密教団」を通じ、港町インスマスの住民と血統ごと結びついていく存在として描かれる[2]。

深きものどもの原典側の結びつき先はインスマスであり、アーカムではない。アーカムとインスマスは原典の地理設定上こそ隣接する街だが、深きものが「アーカムの水」から押し寄せる敵として配置されるのは、原典の地理関係をなぞった上でゲームが独自に行った再配置にあたる。前作でオークモントが担っていた「深きものと縁の深い港町」という役割を、続編ではアーカムが肩代わりする格好になっている。

ドリームランドは、街と地続きの場所ではない

Steam公式の説明では、主人公の恋人は「A ritual gone wrong trapped her soul in the Dreamlands(儀式の失敗で魂がドリームランドに囚われた)」状態にあるという[4]。

原典のドリームランドは、「未知なるカダスを夢に求めて」でランドルフ・カーターが渡り歩く世界で、人間が眠りに落ちたときの夢を通じてのみ到達できる、独自の地理と物理法則を持つ異次元にあたる。セレファイスやウルタールといった土地は現実の地図上のどこにも接続しておらず、アーカムの市街地から歩いて踏み込める場所としては描かれていない[3]。

ゲームが「儀式によって魂がドリームランドへ運ばれる」という筋立てを採ること自体は、夢を経由して到達する別世界という原典の性質と大きく矛盾しない。ただし、恋人を救出するためにプレイヤーがアーカムの市街を実際に歩き回って手がかりを集める構造は、ドリームランドと現実のアーカムを地続きの探索領域として結びつける翻案であり、原典が両者の間に置いていた隔たりをゲーム進行の都合で縮めたものと言える。

まとめ——欠陥ではなく、三層の実例

原典のアーカムは内陸の大学町、深きものはインスマスの存在、ドリームランドは夢を経由する別世界。『The Sinking City 2』はこの3点をいずれも組み替え、水没した港湾都市アーカムに深きものとドリームランドへの入口を集約させている。

これは原典からの逸脱ではあるが、単純な誤りとして片付けるべきものではない。当サイトが「神話の三層」で整理してきたとおり、クトゥルフ神話はラヴクラフトの原典・ダーレス以降の拡張・TRPGやゲームによる拡張という3つの層を重ねながら広がってきた。『The Sinking City 2』の水没したアーカムは、このうちゲームというメディアが原典の地理と存在論を自分の文法で組み替えた実例であり、原典を知った上でこそ、その組み替えの中身が見えてくる。

出典

  • [1] 深淵書架「アーカム」記事 / H. P. Lovecraft, “Herbert West—Reanimator”(1921-22年), https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/hwr.aspx — アーカムはミスカトニック大学(のち医学部)を擁する内陸の大学町として本格的に描かれ、作中で街を襲う災厄はチフスの大流行(原文で確認済み)。モデルはマサチューセッツ州セイラムおよびロードアイランド州プロヴィデンス。 ↩
  • [2] 深淵書架「深きものども」記事 / H. P. Lovecraft, “The Shadow over Innsmouth”(1931年執筆/1936年発表), https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/soi.aspx — 深きものどもは父なるダゴン・母なるヒュドラを主神として崇める「ダゴン秘密教団」を通じ、港町インスマスの住民に組織的に浸透する存在として描かれる(原文で確認済み)。 ↩
  • [3] 深淵書架「夢の国」記事 / H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), https://www.hplovecraft.com/writings/texts/fiction/dq.aspx — 夢の国は人間の睡眠時の夢を通じてのみ到達できる、独自の地理と物理法則を持つ異次元世界として描かれ、現実世界の地理とは地続きではない。 ↩
  • [4] Steam公式『The Sinking City 2』ストアページ(2026年8月17日確認), https://store.steampowered.com/app/2825860/The_Sinking_City_2/ — 「1920s Arkham」「A Roaring ’20s port city」「Deep Ones surge from dark water」「A ritual gone wrong trapped her soul in the Dreamlands」等の記述、および先行アクセス開始(Advance Access On Now!)表示。開発はFrogwares。 ↩

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