概要
ロンドンの地下にある私設蝋人形館を営む天才彫刻家ロジャーズが、展示の枠を超えて本物の神を「入手」してしまったのではないか——という宙吊りの恐怖を描く一篇。ヘイゼル・ヒールド名義で発表されたが、実質的にはH・P・ラヴクラフトがほぼ全面的に代筆した作品として知られる。
作品情報
- 執筆・発表年: 1932年10月執筆/1933年7月発表(「ウィアード・テイルズ」誌)
- 主題タグ: 代作、蝋人形館、神話のカタログ化、供物と飢え
登場神格・用語
あらすじ
美術記者ジョーンズは、旧知の蝋人形館主ロジャーズの新作を見るため、ロンドンの場末にある地下博物館を訪れる。「大人向け」の奥のアルコーヴには、クトゥルフやヨグ=ソトース、グノフ=ケーといった神話的存在の蝋像が悪夢のような精巧さで並んでいた。ロジャーズはそのうちの一体、蟹のような肢を持つ怪物「ラーン=テゴスへの供犠」を語り、これが単なる彫刻ではなく実在の神に基づくものだと主張する。夜が更け閉じ込められたジョーンズは、施錠された作業室の奥から漏れる水音と、正体不明の「それ」の気配に恐怖する。やがて姿を現したのは、正体を隠して蝋人形に扮したロジャーズ自身であった。彼はジョーンズを扉の奥のラーン=テゴスへの生贄にしようと企てるが、格闘の末にジョーンズは彼を取り押さえる。しかし物語は、扉の奥に本当に何かが「いる」のか、それとも全てがロジャーズの狂気なのかを最後まで確定させない。
読みどころと注目テーマ
代作というメタ的な位置づけ、蝋人形という「作られた恐怖」と「本物の恐怖」の境界、供物を求める神という発想
執筆背景と影響
ラヴクラフトの代作群の中でも特に彼自身の筆致が色濃く、既存の神話体系(クトゥルフ、ヨグ=ソトース等)を積極的に引用しつつ新神格ラーン=テゴスを投入した点で、後年のミュトス作家たちが自作の神を体系に接続する際の手本の一つとなった。






