概要
『Call of the Sea』は、スペイン・マドリードのインディースタジオOut of the Blueが開発し、2020年12月に発売した一人称視点のパズルアドベンチャーゲームです。1930年代を舞台に、原因不明の病に侵された女性ノラが、消息を絶った夫ハリーの探検隊を追って南太平洋の孤島にたどり着くところから物語が始まります。戦闘要素はなく、島に残された手掛かりや装置を解き明かすパズルを軸に進行します。鮮やかな色彩と幻想的な島の風景が特徴で、ラヴクラフト的な題材を扱いながらも独特の温かみを持つ作品として支持を集めました。
クトゥルフ神話との関係
開発元は本作がラヴクラフト作品から強い影響を受けていることを明言しています。太古の遺跡、人知を超えた海の存在、そして主人公自身のルーツに関わる秘密といったモチーフは、「インスマウスの影」をはじめとするラヴクラフト作品の系譜に連なります。文明が生まれる前から存在する何かとの遭遇、そして人間の認識や身体そのものが変容していくという主題は、宇宙的恐怖の伝統的なテーマを踏まえたものです。
独自の要素・原典との違い
本作の最大の特徴は、ラヴクラフト的な題材を「恐怖」ではなく「幻想」と「情緒」の物語として再解釈している点です。開発者は、ラヴクラフト作品の中でもシュルレアリスム的・夢幻的な側面のみを取り入れたと述べており、本作を「狂気への転落ではなく、正気(理解)への上昇の物語」と位置づけています。伝統的なコズミックホラーが人間の無力さと絶望を強調するのに対し、本作はノラと夫の関係を中心に据え、未知との遭遇を個人的で前向きな体験として描き直しています。恐怖演出よりも謎解きと感情の解放に重きを置いた、ラヴクラフト受容の新しい方向性を示す一作です。

