概要
クトゥルフの落し子(Star-spawn of Cthulhu)は、単一の神格を指す名前ではない。クトゥルフに連なる眷属・種族を指す、集合的なカテゴリの呼び名である。
原典「狂気の山脈にて」では、タコに似た姿をした陸生の種族で、おそらくクトゥルフに連なる人類以前の落とし子にあたると述べられ[1]、クトゥルフが海中に封印される以前は陸地に自らの都市を築いていたとされる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 眷属種族(単一個体ではなく種族カテゴリ) |
| 欧文表記 | STAR-SPAWN OF CTHULHU |
| 初出 | 「狂気の山脈にて」(1931年執筆/1936年発表) |
| 語り手 | ミスカトニック大学の地質学者ウィリアム・ダイアーによる、南極探検の惨劇の回想 |
| 本来の生態 | 陸生。クトゥルフの海中封印以前は乾いた陸地に都市を築いていた |
| 主な異名 | クトゥルヒ(the Cthulhi)、コズミック・オクトパイ(宇宙のタコ)、ゾティア人(Xothians) — いずれもファンWikiの用語集による整理で、ラヴクラフト自身の呼称ではない |
初出作品
「狂気の山脈にて」は、1931年に執筆された。
《ウィアード・テイルズ》誌には長さを理由に掲載を拒否され、《アスタウンディング・ストーリーズ》誌の1936年2〜4月号に連載された。物語は、ミスカトニック大学の地質学者ウィリアム・ダイアーが、南極探検で遭遇した惨劇を回想する形式で語られる。
クトゥルフの落し子は、この作品で唯一の原典上の姿を得た。他の作品にラヴクラフト自身による言及はない。
原典での描写
「狂気の山脈にて」における描写は、次の一節にとどまる。
「タコに似た姿をした、おそらく人類以前のクトゥルフの伝説的な落とし子に相当する存在」[1]
落し子そのものが直接登場するわけではない。探検隊が発見した太古の地底都市の遺跡——その建造者である古のものの壁画・記録を通じて、間接的に語られるにとどまる。落し子は、この古のものに隷属する奴隷種族として描かれている。
原典に、分類(外なる神・旧支配者など)を明確に定める記述はない。象徴・モチーフとしては、太古の陸生文明、クトゥルフへの隷従、そして南極という未踏の大地に眠る痕跡としての、地質学的・先史学的な畏怖が挙げられる。
「クトゥルフの落し子」に連なるとされる言及は、ラヴクラフトの他作品にも見られる。E・ホフマン・プライスとの共作「銀の鍵の門を越えて」では、R’lyehian語(ルルイエ語)について「太古の昔、クトゥルフの落とし子によって地上にもたらされた」(“brought to earth by the spawn of Cthulhu countless cycles ago”)と述べられている[2]。
なお、「Star-spawn of Cthulhu」という名称自体をラヴクラフトが正式名として用いていたわけではなく、彼の記述はクトゥルフを「旧支配者(Old Ones)」と呼ばれる異星種族の一員として位置づけているにとどまる、という指摘もファンの間である。
ダーレス以降の変化
落し子固有の設定をオーガスト・ダーレスが加えたことを示す記述は、手元の資料には見当たらない。確認できていない。
TRPGでの扱い
現在流通している落し子の姿・能力・生態の大部分は、後世のTRPGが独自に肉付けしたものである。
- ケイオシアム社のクトゥルフ神話TRPG公式コンペンディウムでは「眠れる者の総督(Satraps of the sleeper)」の異名を持ち、STR350・CON260・SIZ525・DEX50・INT105・POW105、HP78、ダメージボーナス10d6、Build11、マジックポイント21、Move15という能力値が定められている(後世のゲーム設定)
- GURPS『Cthulhu Punk』(114ページ)では、鉤爪(切断11d)または触手(1d本、各圧砕5d)で攻撃し、1ターンごとにHPを1点回復する再生能力を持つとされる。クトゥルフがルルイエを建設した際に共に降り立った従者であり、その王の縮小版のような姿をしているという。大半はルルイエに閉じ込められたままだが、一部は深海の海溝や地球外の惑星で生存している可能性もあるという(後世のゲーム設定)
- Paizo社Pathfinder RPG(コズミックホラー路線「Dark Tapestry」)では、人型のシルエットに煮えたぎるようなゴム質の肉体、竜を思わせる翼、鉤爪の手、触手状の顔を持ち、最小の個体でも身長約30フィートに達する存在として翻案されている。悪夢を通じて終末を待望するカルトの種をまき、恒星の並びが整うのを待って行動を起こすとされる。舞台設定ゴラリオンでは、紀元4718年頃に亜位面「ラムロックの隠れ処」へ出現した記録も設定されている(いずれも後世の独自設定)
TRPG層が神話に何をしたのかという全体像は三層で読み解くクトゥルフ神話にまとめてある。
登場作品一覧
| 作品 | 年/版 | 媒体 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 狂気の山脈にて | 1931年執筆/1936年発表 | H・P・ラヴクラフト(小説) | 唯一の原典。古のものの壁画・記録を通じた間接的描写 |
| クトゥルフ神話TRPG 公式コンペンディウム | 版・年不明 | ケイオシアム社(TRPG) | 能力値、異名「眠れる者の総督」 |
| Cthulhu Punk | 114ページ | GURPS(TRPG) | 攻撃・再生能力、ルルイエ建設時の従者という設定 |
| Dark Tapestry | 版・年不明 | Paizo社Pathfinder RPG(TRPG) | 人型シルエットへの翻案、ゴラリオン世界観への組み込み |
関連神格・地域・書物
神格・種族
- クトゥルフ — 落し子が隷属する主。GURPS版の設定では、ルルイエ建設に共に加わった従者とされる
- 古のもの — 原典において落し子を奴隷としていた種族。「狂気の山脈にて」の壁画・記録を通じて両者の関係が語られる
地域
- ルルイエ — GURPS版の設定で、大半の落し子が閉じ込められたままとされる場所
- ラムロックの隠れ処 — Pathfinder版ゴラリオン世界観の亜位面。落し子の出現記録が設定されている(後世の独自設定。内部リンク先は未確認のためリンクなし)
分類の考え方
参考文献
- [1] “beings shaped like octopi and probably corresponding to the fabulous pre-human spawn of Cthulhu”(訳: 「タコに似た姿をした、おそらく人類以前のクトゥルフの伝説的な落とし子に相当する存在」) — H. P. Lovecraft, *At the Mountains of Madness*(1931年執筆/1936年発表), 公式アーカイブ
- [2] “brought to earth by the spawn of Cthulhu countless cycles ago”(訳: 「太古の昔、クトゥルフの落とし子によって地上にもたらされた」) — H. P. Lovecraft and E. Hoffmann Price, *Through the Gates of the Silver Key*(1934年), 公式アーカイブ
- ケイオシアム社『クトゥルフ神話TRPG』公式コンペンディウムにおける能力値・異名「眠れる者の総督」の記載(版・ページ番号は旧稿に記録がなく未照合)
- GURPS『Cthulhu Punk』114ページ(版・出版年は旧稿に記録がなく未照合)
- Paizo社Pathfinder RPG「Dark Tapestry」の落し子項目(該当書籍名・ページ番号は旧稿に記録がなく未照合)
- ファンWiki用語集における異名「クトゥルヒ」「コズミック・オクトパイ」「ゾティア人」の記載(サイト名・URLは旧稿に記録がなく未照合。編集体制のある媒体かどうかは確認できていない)
FAQ
Q. クトゥルフの落し子は原典に詳しく描写されているのですか。A. いいえ。原典「狂気の山脈にて」における記述は「タコに似た姿をした陸生の種族」という短い一節にとどまり、具体的な姿・能力・生態の大部分は後世のTRPG(クトゥルフ神話TRPG、GURPS、Pathfinderなど)がそれぞれ独自に肉付けしたものです。
Q. 「クトゥルフの落し子」は正式な種族名なのですか。A. ラヴクラフト自身がこの呼称を正式名として用いた確証はなく、ファンやゲーム制作者の間で定着した呼び名です。ファンWikiでは「クトゥルヒ」「コズミック・オクトパイ」「ゾティア人」など複数の異名が併記されており、名称そのものが後世に整理されたものである点に注意が必要です。
Q. 呪文を使って人を攻撃する、といった設定は原典にあるのですか。A. これは日本語圏のTRPGシナリオ制作者によるブログ記事に見られる二次的な解釈であり、公式のマレウス・モンストロルム設定に独自の肉付けを加えたものです。原典やTRPG公式ルールブックと同じ確度で扱うべきものではありません。



