編集部注(拡張神話): 本記事が扱う『悪魔の啓示』は、H・P・ラヴクラフト存命期のパブリックドメイン原典には登場しません。ラムジー・キャンベルが1964年に発表した禁書で、後年の拡張神話に属します。同作は現時点でパブリックドメインではないため、本記事は原文からの引用を行わず、書誌情報と公式資料で確認できる事実で構成しています。
概要
原題は *Revelations of Glaaki*。イギリスの作家ラムジー・キャンベル(Ramsey Campbell)が創造した架空の禁書で、湖の底に沈む邪神グラーキに仕える信者たちが書き継いだ全12巻という設定を持つ。
この書物が生まれた経緯は、キャンベルという作家の出発点そのものと重なっている。SF Encyclopediaによれば、キャンベルは1946年生まれのイギリスの作家で、本名は John Ramsey Campbell、1985年以降は法的にも Ramsey Campbell を名乗る[1]。商業デビューは1962年、オーガスト・ダーレスが編んだアンソロジー『Dark Mind, Dark Heart』に収録された「The Church in High Street」で、そのダーレスが、ラヴクラフトの神話の枠内に自分だけの舞台を作るよう助言した[1]。その助言から生まれたのがセヴァーン谷の架空都市ブリチェスターであり、『悪魔の啓示』はその土地に根を張る書物である。
基本プロフィール
- 分類: 禁書(全12巻)
- 欧文表記: REVELATIONS OF GLAAKI
- 綴りの揺れ: ケイオシアムのTRPG『クトゥルフの呼び声』第7版では Revelations of Gla’aki とアポストロフィ入りで表記される[2]。キャンベル自身も2013年の作品集の題に *The Last Revelation of Gla’aki* を用いている[1]
- 創造した作家: ラムジー・キャンベル(1946年- )
- 初出: 短編「The Inhabitant of the Lake」(1964年)[3]
- 所属する層: 拡張神話(ラヴクラフト原典には登場しない)
初出作品での描かれ方
ISFDBの書誌によれば、短編「The Inhabitant of the Lake」の初出は1964年、キャンベルの第一作品集『The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants』である[3]。刊行元はラヴクラフトの本を出すために作られた版元、アーカム・ハウス(Arkham House)だった[3]。当時のキャンベルは10代で、著者名は J. Ramsey Campbell と記されている[3]。
この作品集は2011年9月に『The Inhabitant of the Lake & Other Unwelcome Tenants』と改題されて再刊されている[3]。
『悪魔の啓示』は、この短編に登場する禁書として設定された。カルトの信者が世代を越えて書き足していく体裁を取り、全12巻のうち最終巻が世に出ていないという構成が、物語の仕掛けとして働く。書物が完結していないこと自体が、脅威がまだ終わっていないことを意味する——この形式は、後年の多くの神話作品に引き継がれた。
ラヴクラフト作品での言及
言及は一切ない。 ラヴクラフト(1890-1937)の没後27年に書かれた書物であり、原典のどの作品にも登場しない。
原典由来の禁書と、後続作家が追加した禁書の違いは、ケイオシアムの公式資料で並べて見ると分かりやすい。『クトゥルフの呼び声』第7版ルールブックの公式索引には、次の禁書が掲載されている[2]。
| 禁書 | 索引のページ | 出自 |
|---|---|---|
| ネクロノミコン(英語版・ギリシア語版・ラテン語版) | 230 | ラヴクラフト原典 |
| エイボンの書 | 226 | ラヴクラフトの文通仲間クラーク・アシュトン・スミス |
| 無名祭祀書 | 229 | 同じくロバート・E・ハワード |
| ナコト写本 | 233 | ラヴクラフト原典 |
| ルルイエ異本 | 233 | — |
| セラエノ断章 | 226 | — |
| 屍食教典儀 | 227 | — |
| Revelations of Gla’aki | 233 | ラムジー・キャンベル(1964年) |
| クタート・アクアディンゲン (英語版・ラテン語版) | 227 | ブライアン・ラムレイ |
| ポナペ経典 | 233 | リン・カーター |
| ザントゥの石板 | 234 | 同じくリン・カーター |
同じ索引に、原典の禁書と1960年代以降の禁書が区別なく並んでいる。 TRPGの側では出自の違いが扱いの違いにならないことが、この一覧から読み取れる。当サイトが神話の三層で層を分けて記録しているのは、この平坦化を補うためである。
性質と影響
イギリス土着のホラーを持ち込んだ
キャンベルが作った舞台は、ニューイングランドの田舎町ではなく、イングランド中部の湿ったセヴァーン谷だった。SF Encyclopediaはこの一連の作品群を ブリチェスター神話(Brichester Mythos) と呼び、架空都市ブリチェスターを中心に、数十年にわたって短編と長編が書かれてきたと記す[1]。同時に、初期の作品は雰囲気が過剰で人物造形が弱く、後年の作品ほど洗練されていったとも評価している[1]。
初期のクトゥルフ/ブリチェスター作品は、作品集『Cold Print』(1985年、1993年に増補)にまとめられている[1]。
キャンベル自身が半世紀後に戻ってきた
グラーキとその書物は、キャンベルにとって使い捨ての小道具ではなかった。SF Encyclopediaは、同じ系列の後年の代表作として『The Darkest Part of the Woods』(2002年)、『The Last Revelation of Gla’aki』(2013年)、『Visions from Brichester』(2015年)、『The Searching Dead』(2016年、Three Births of Daolothシリーズの第1作)を挙げる[1]。
1964年に10代で作った禁書に、2013年に「最後の啓示」という題で立ち戻っている。当サイトのダオロスの記事で扱う神格も、同じ作家の同じ系譜に属する。
作家が神話から離れ、また戻るまで
『悪魔の啓示』を生んだ時期のキャンベルは、その後まもなくラヴクラフトから距離を取る。SF Encyclopediaは、第一作品集が出た頃には既に彼がラヴクラフトを脇へ置きはじめており、本格的に戻ってくるまで数年を要したと記す[1]。
その転換をたどれるのが、続く2冊の作品集『Demons by Daylight』(1973年)と『The Height of the Scream』(1976年)である[1]。SF Encyclopediaはこの変化を、読者にもキャンベル自身にもカタルシスをもたらすほど激烈なものだったと評する[1]。作品の関心は、神話的な存在そのものより人間の内側にある悪へ移り、その悪は超自然に由来することもあれば、はじめから人間のものであることもある、という書き方に変わった[1]。最初の長編『The Doll Who Ate His Mother』(1976年、1985年改訂)では、悪魔崇拝への手出しが邪悪な子の誕生を招くという筋立てを取りながら、超自然かどうかは示唆にとどめられている[1]。
作風の土台には、ラヴクラフト以外の影響も入っている。SF Encyclopediaは、M・R・ジェイムズやアルジャーノン・ブラックウッドといった怪奇作家に加えて、コミック、ホラー映画、とりわけフィルム・ノワールと初期ドイツ映画の監督たちの映像を挙げる[1]。
この経歴を踏まえると、『悪魔の啓示』は「若い頃の習作に出てくる小道具」に見えかねない。だが2013年の『The Last Revelation of Gla’aki』[1]は、作家が半世紀後に自分の作った書物へ意識的に戻ったことを示している。
初期の作品は、1986年と1987年に雑誌『Crypt of Cthulhu』の一人特集号として『The Tomb-Herd and Others』『Ghostly Tales』の形でもまとめられた[1]。
日本語で読む
キャンベルのグラーキ関連作は、日本語でもまとまった形で読める。国立国会図書館の書誌によれば、サウザンブックス社が「クトゥルー神話作品集」というシリーズ名で 『グラーキの黙示』 を刊行している[4]。
| 巻 | 刊行 | ページ | ISBN | 責任表示 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 2022年2月 | 377 | 978-4-909125-34-7 | ラムジー・キャンベル 著、森瀬繚 監訳 |
| 2 | 2022年2月 | 356 | 978-4-909125-35-4 | 同上 |
| 3 | 2024年12月 | 200 | 978-4-909125-56-9 | ラムジー・キャンベル 著、森瀬繚 訳 |
書名がそのまま『グラーキの黙示』——つまり本記事が扱う禁書の名を冠している。日本語圏では、書物の名が作品集の題として通っていることになる。
なお国書刊行会の『真ク・リトル・リトル神話大系』にもキャンベル作品が収録されている[4]。日本語でのキャンベル受容は、1980年代の大系と2020年代の作品集という二つの波を持つ。
TRPGでの扱い
ケイオシアムの『クトゥルフの呼び声』第7版では、前掲のとおりルールブック本体の禁書として収録されている[2]。原典の禁書と同列に置かれているため、卓の上では『ネクロノミコン』と同じ手触りで扱われることが多い。
関連する用語
- グラーキ — この書物が仕える邪神そのもの
- ダオロス — 同じくキャンベルが創造した神格
- ネクロノミコン — ラヴクラフト原典の禁書。比較の基準になる
- 神話の三層 — 原典・拡張・TRPGの層をどう分けるか
出典
- [1] SF Encyclopedia「Campbell, Ramsey」(2026年7月27日更新、該当ページ)。1946年生まれ、本名 John Ramsey Campbell、1985年以降は法的に Ramsey Campbell であること。1962年のアンソロジー『Dark Mind, Dark Heart』(編:August Derleth)収録の「The Church in High Street」が商業デビューであり、ダーレスがラヴクラフト神話の枠内に独自の舞台を作るよう促したこと。第一作品集『The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants』(1964年)と「ブリチェスター神話」およびセヴァーン谷の設定。『Cold Print』(1985年、1993年増補)が初期作品を収めること。後年の『The Darkest Part of the Woods』(2002年)・『The Last Revelation of Gla’aki』(2013年)・『Visions from Brichester』(2015年)・『The Searching Dead』(2016年)。以上を確認した(2026年9月15日確認)。 ↩
- [2] Chaosium公式の無料配布資料『Call of Cthulhu 7th Edition Index for Keepers and Investigators』(該当PDF)。索引の禁書項目に「Revelations of Gla’aki 233」「Cthaat Aquadingen (English) 227」「Cthaat Aquadingen (Latin) 227」「Ponape Scripture 233」「Zanthu Tablets 234」「Necronomicon (English/Greek/Latin) 230」「Book of Eibon, The 226」「Celaeno Fragments 226」「Cultes des Goules 227」「Pnakotic Manuscripts 233」「R’lyeh Text 233」「Unaussprechlichen Kulten 229」が並ぶことを確認した(2026年9月15日確認)。 ↩
- [3] ISFDB(Internet Speculative Fiction Database)の書誌検索結果「The Inhabitant of the Lake」(検索結果)。短編「The Inhabitant of the Lake」は1964年、著者名 J. Ramsey Campbell(正規化後は Ramsey Campbell)。作品集『The Inhabitant of the Lake and Less Welcome Tenants』(1964年)に収録され、2011年9月に『The Inhabitant of the Lake & Other Unwelcome Tenants』として再刊。刊行元 Arkham House。ISFDBは利用者が編集する書誌データベースのため、当サイトでは書誌的事実(刊行年・版元・収録先)の確認にのみ使用している(2026年9月15日確認)。 ↩
- [4] 国立国会図書館サーチの書誌。『グラーキの黙示』(サウザンブックス社、シリーズ名「クトゥルー神話作品集」)は、1(2022年2月、377ページ、ISBN 978-4-909125-34-7、該当ページ)・2(2022年2月、356ページ、ISBN 978-4-909125-35-4、該当ページ)・3(2024年12月、200ページ、ISBN 978-4-909125-56-9、該当ページ)。責任表示は1・2巻が「ラムジー・キャンベル 著,森瀬繚 監訳」、3巻が「ラムジー・キャンベル 著,森瀬繚 訳」。国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系』にキャンベル作品が収録されていることも同サーチで確認した(該当ページ)(2026年9月15日確認)。 ↩

