TRPGで見たあれ、原典ではどう描かれている?
クトゥルフ神話TRPGを遊んでいると、シナリオやルールブックのそこかしこにラヴクラフトの原典由来の固有名詞が登場します。しかし原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話で説明した通り、TRPGで馴染んだ設定の多くは、原典そのものではなく後続作家やゲームデザインが付け加えたものです。このページでは、「TRPGで見たあの存在・あの土地は、原典ではどの短編でどう描かれているのか」を対応させ、原作小説への入り口を示します。
探索者として遊ぶだけなら、原作を読む必要は一切ありません(クトゥルフ神話とクトゥルフ神話TRPG、何が違うのかを参照)。ここでの案内は、あくまで「もっと知りたくなった人」のためのものです。
クトゥルフそのものについて知りたいなら
TRPGの表紙や解説で必ず名前が挙がるクトゥルフ。原典は「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年発表)一本に集約されます。ルルイエに幽閉された姿、「星辰が正しき位置に至る」という条件、教団の呪句など、TRPGの神格設定の出発点はすべてこの一編にあります。SAN値の元になった「知ることの恐怖」という主題を最も直接的に味わえる、最初の一冊としておすすめです。
インスマス・深きものどもに興味があるなら
TRPGシナリオで頻出する「深きものども」や、海辺の閉鎖的な町という舞台設定は、「インスマスの影」が原典です。語り手が徐々にインスマスの秘密に気づいていく構成は、TRPGの「調査中心・じわじわ真相に近づく」というシナリオ進行そのもののモデルになっています。
ダニッチ・田舎の一族の怪異に興味があるなら
TRPGでよく描かれる「閉鎖的な田舎町とその一族に隠された秘密」という王道パターンの原典は「ダニッチの怪」です。ヨグ=ソトースが直接関わる数少ない短編でもあります。
南極・古代文明の遺跡に興味があるなら
TRPGのキャンペーンで人気の高い「南極探検」「古代の遺跡」というシチュエーションは「狂気の山脈にて」が原点です。この作品はラヴクラフト作品の中でも長編に近い分量で、探検隊が徐々に真相に近づく構成そのものが、TRPGの長編キャンペーンの雛形になっています。
ミ=ゴ・宇宙的な種族に興味があるなら
異星の種族ミ=ゴが登場する「闇に囁くもの」は、TRPGにおける「地球外の脅威」というシナリオ類型の原典です。
呪術・魔道書に興味があるなら
TRPGシナリオで探索者がしばしば手にする禁断の魔道書という道具立ては、「チャールズ・デクスター・ウォードの奇怪な事件」に典型的に描かれています。先祖の魔術師が遺した秘術を巡る物語で、TRPGの「禁書探索」シナリオの原型の一つです。
死体蘇生・マッドサイエンティストに興味があるなら
TRPGでも人気のホラーモチーフ「死者を蘇らせる科学者」は、連作短編「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」が原典です。全6話にわたって主人公が徐々に一線を越えていく展開は、単発ではなく連作としての読みごたえがあります。
蛇神・忘れられた信仰に興味があるなら
TRPGで時折登場する蛇神系の神格の原点をたどるなら「イグの呪い」。ラヴクラフトとジーリア・ビショップの共作で、単独の短編に完結した「蛇の祖神」イグの数少ない原典です。
夢の国・幻想的な舞台に興味があるなら
ホラーというより幻想小説寄りの一面を知りたいなら「未知なるカダスを夢に求めて」。ランドルフ・カーターが夢の国を旅する長編で、TRPGの怪異一辺倒のイメージとは異なるラヴクラフトの一面に触れられます。「ランドルフ・カーターの陳述」は同じ人物が最初に登場する短編です。
まずどれか一本、という人へ
迷ったら、まず「クトゥルフの呼び声」から読むのが最も王道です。短く、TRPGのあらゆる設定の源流にあたる一編だからです。読み終えたら、TRPGで見た設定のどこが原典由来で、どこが後続作家・TRPGデザインの創作なのかを、改めて原典/ダーレス系拡張/TRPG設定——三層で読み解くクトゥルフ神話で確認してみてください。見え方が変わるはずです。

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