概要
南太平洋の海底に沈む、悪夢のような屍の都市。歴史以前の計り知れない太古に、暗黒の星々から染み出してきた広大で忌まわしい形態を持つものたちによって築かれたとされ、大いなるクトゥルフとその眷属が緑色のぬめった穹窿の奥深くに隠れ潜む場所として描かれる[1]。
ラヴクラフトは作中でルルイエの位置を南緯47度9分・西経126度43分(10進法で南緯47.15度・西経126.72度)と明記している[2]。太平洋南部、どの陸地からも隔絶した海域にあたる。
基本プロフィール
- 分類: 地名
- 欧文表記: R’lyeh(RLYEH)
- 初出・出典: 「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年2月号『ウィアード・テイルズ』誌発表)
- 原作指定座標: 南緯47度9分・西経126度43分[2](10進法:南緯47.15度・西経126.72度/太平洋の到達困難極付近[3])
由来・モデル
ルルイエという地名・座標そのものはラヴクラフトの完全な創作であり、実在地とのモデル関係は確認されていない。ただし怪奇小説研究者の分析によれば、ルルイエおよび「クトゥルフの呼び声」の文学的先行例として、テニスンの詩「The Kraken」(1830年)、アーサー・マッケン「黒い印の物語」(1895年)、ロード・ダンセイニ「ペガーナの神々」(1905年)、A・メリット「ムーン・プール」(1919年)などヴィクトリア朝期の作品群が挙げられている。同じ研究では、ラヴクラフトが神智学(Theosophy)に通じており、作品冒頭で神智学の信奉者に言及していることから、ルルイエの着想がエドワード・ブルワー=リットン『来るべき種族』のような当時流通していた擬似歴史的思想と部分的に結びつくとも論じられているが、これはあくまで一研究者による文学的源流の考察であり、ラヴクラフト自身が明言した典拠ではない。
歴史・年表
作中設定では、太古の昔に「古のもの」たちが地球の支配権を巡って争った後、クトゥルフたちが南太平洋の大陸を得てルルイエを築いたとされる。やがて何らかの破局によりルルイエごと海中に没し、クトゥルフとその眷属は都市に幽閉されたまま「死してはいるが夢見ている」状態で眠り続けることになった[4]。1925年3月23日、海底地震によってルルイエの一部が一時的に海面へ浮上する[5]。彫刻家ウィルコックスは同時期、無意識のうちにこの都市を象る浅浮彫りを制作し、ノルウェー人航海士グスタフ・ヨハンセンらの乗る船「アラート号」が漂流の末この浮上した都市に漂着、船員の一人が巨大な彫刻扉を開けてしまったことでクトゥルフが目覚め、船員のほとんどが命を落とす[6]。ヨハンセンの体当たりによりクトゥルフの巨体は一時飛散するが、船が遠ざかる間に再び形を成しつつあったと記録されている。その後ルルイエは4月2日までに再び沈み、クトゥルフも眠りに戻ったとされる。
性質・特徴
通常の物理法則(三次元幾何学)が通用しない「角度の狂い」を特徴とし、名状しがたい巨大構造物がもたらす空間的・視覚的な狂気を描く[7]。ルルイエの座標は原作者ラヴクラフトの指定以降、後続作家によって書き換えが続いている。オーガスト・ダーレスはラヴクラフトとは異なる座標(南緯49度51分・西経128度34分付近)にルルイエを配置し、さらに後年ではチャールズ・ストロス「A Colder War」がバルト海に、ニック・ママタス「Move Under Ground」がカリフォルニア海岸沖に、それぞれ独自の位置を設定しており、単一の確定した場所には収斂していない。TRPG方面では、Paizo社のPathfinder RPG舞台世界ゴラリオンにも翻案され、地球の海洋深くに沈む都市としてクトゥルフがエルダーサインで停滞状態に置かれる領域として描かれる(『Bestiary 4』2013年、『Wake of the Watcher』2011年)。ファンWikiには、ミスカトニック大学ウィルマース・ファウンデーションの調査という設定のもと、広さ約50万平方キロメートル(日本列島の約1.3倍)、眠るクトゥルフの眷属500体以上とする具体的な数値も見られるが、一次典拠は確認できておらず確度を留保すべきファン設定にとどまる。
余談として、ラヴクラフトが指定したこの座標は、実在する「到達困難極(Point Nemo)」――地球上でどの陸地からも最も遠い海洋上の地点、南緯48度52.6分・西経123度23.6分――から300km程度の距離にある[3]。もっとも到達困難極が測地学的に算出されたのは1992年で、ラヴクラフトが「クトゥルフの呼び声」を発表した1928年より60年以上後のことであり、両者の近さはあくまで後世の偶然の一致である。
関連する人物・存在・出来事
クトゥルフ本体がこの地に幽閉され、教団の秘儀では「ルルイエの館にて、死せるクトゥルフは夢見つつ待ちいたり」という呪句が唱えられる。彫刻家ヘンリー・アンソニー・ウィルコックス、ノルウェー人航海士グスタフ・ヨハンセン、人類学者ジョージ・ガメル・エインジェル教授(ウィルコックスの浅浮彫りを最初に調査した人物)が、それぞれ異なる経路でこの都市の実在を裏づける証言者として物語に関わる。リン・カーターの系譜設定では、クトゥルフの娘クティーラも同じ海域(ルルイエ近郊とされる海底)に潜んでいるとされる。
主要登場作と読みどころ
- 「クトゥルフの呼び声」(1926年執筆/1928年発表): 唯一の原典。ルルイエの座標・浮上・ヨハンセンの上陸記録・クトゥルフとの遭遇のすべてがこの一作に集約されている。
- 『クトゥルフ神話TRPG』(ケイオシアム社)関連シナリオ群: ルルイエそのものへの到達・探索を扱うキャンペーンが複数刊行されており、原典が詳述しない都市内部の描写がTRPG側で大きく補完・拡張されている。
よくある誤解
Q. ルルイエの座標は一つに定まっているのですか?
A. いいえ。ラヴクラフトの原典が指定する南緯47度9分・西経126度43分が最も広く知られていますが、オーガスト・ダーレスは別の座標を設定しており、後続作家(チャールズ・ストロスやニック・ママタスなど)もそれぞれ独自の位置を提示しています。単一の確定した座標には収斂していません。
Q. ルルイエの広さや眷属の数は原典に記載がありますか?
A. いいえ。「50万平方キロメートル」「眷属500体以上」といった具体的な数値はファンWikiで見られるものであり、一次典拠(原典)には記載がありません。確度を留保すべきファン設定として扱う必要があります。
出典
- [1] “a coast-line of mingled mud, ooze, and weedy Cyclopean masonry which can be nothing less than the tangible substance of earth’s supreme terror—the nightmare corpse-city of R’lyeh”(訳: 「泥と沈泥と藻に覆われた巨石造の海岸線が広がっていた。それは地球の至高の恐怖の実体、悪夢の屍都ルルイエに他ならなかった」) — H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表), 公式アーカイブ ↩
- [2] “in S. Latitude 47° 9′, W. Longitude 126° 43′”(訳: 「南緯47度9分、西経126度43分」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [3] 到達困難極(Point Nemo、南緯48度52.6分・西経123度23.6分)は、測地学者フルヴォイェ・ルカテラ(Hrvoje Lukatela)が1992年に算出した、地球上で陸地から最も遠い海洋上の地点。ラヴクラフトがルルイエの座標を発表した1928年より60年以上後の算出であり、両者の位置関係は偶然の一致にすぎない — Britannica: Oceanic pole of inaccessibility ↩
- [4] “The great stone city R’lyeh, with its monoliths and sepulchres, had sunk beneath the waves.”(訳: 「巨石と墓所からなる大いなる石都市ルルイエは、波の下に沈んでいた」) — H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表), 公式アーカイブ ↩
- [5] 1925年3月23日の地震による浮上、および4月2日までの再沈下は本文の記述に基づく — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [6] “The rest followed him, and looked curiously at the immense carved door with the now familiar squid-dragon bas-relief. It was, Johansen said, like a great barn-door”(訳: 「残りの者たちも彼に続き、今や見慣れた蛸竜の浅浮彫りが施された巨大な彫刻扉を興味深げに眺めた。それは、ヨハンセンによれば、大きな納屋の戸のようだったという」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
- [7] “He had said that the geometry of the dream-place he saw was abnormal, non-Euclidean, and loathsomely redolent of spheres and dimensions apart from ours.”(訳: 「彼が見た夢の場所の幾何学は異常で非ユークリッド的であり、われわれのものとは別の球体と次元を忌まわしくも思わせるものだったという」) — 同上, 公式アーカイブ ↩
次に読むなら
- 初出作品を読む → 「クトゥルフの呼び声」
- ルルイエに眠る神格を知る → クトゥルフ






