種族(夢の国) — MOON-BEASTS

ムーンビースト

原典

幻夢境の月を拠点とし、黒いガレー船でルビーを運び、レンの男を介して人間を奴隷買いする、目の無い蛙状の種族。

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ムーンビースト
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概要

夢の国(ドリームランド)の月を拠点とする、目を持たない蛙状の種族。黒いガレー船で幻夢境の港ディラス=リーンへ渡り、ルビーを対価に人間を奴隷として買い付ける。声を持たず笛で意思を伝え、主人公ランドルフ・カーターが率いる食屍鬼(グール)・夜鬼(ナイトゴーント)の連合軍と激しい戦争を繰り広げる[1][6]。

項目内容
分類原典に明確な神格・種族分類の記述はない
欧文表記MOON-BEASTS(単数形 Moon-beast)
初出「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年死後発表)
出身地幻夢境(ドリームランド)の月
主な活動拠点ディラス=リーン(ルビー交易)[2]、インガノク付近の「名もなき岩」(恒久的な拠点)[3]
隷属させる種族レンの男[2]
別名・呼称原典本文に別名は無い。日本語圏のTRPGファンサイトでは「月棲獣」の表記も見られるが、原典の訳語ではなく後年の通称的表記である

初出作品

ムーンビーストは、ハスターのように他の作家の先行作品から取り込まれた神格ではない。名称・造形とも、H・P・ラヴクラフトが「未知なるカダスを夢に求めて」(1926–1927年執筆/1943年死後発表)で最初から書き起こしたものであり、これより前にムーンビーストという存在が別の作品に登場した記録はない。

英語表記は Moon-beasts(単数形 Moon-beast)。原典本文にこれ以外の固有名は登場しない。日本語圏のTRPGファンサイトでは「月棲獣」の表記も用いられるが、これは原典の訳語ではなく後年のTRPG紹介記事における通称的な表記である。

原典での描写

ムーンビーストが登場する原典は「未知なるカダスを夢に求めて」一作のみである。姿・性質・他種族との関係のいずれも、この一作の中にしか記述がない。

  • 灰白色でぬめった、自在に伸縮する肉体を持ち、主な姿(しばしば変化する)は目の無い蛙のようなもので、鈍く曖昧な鼻面の先に短いピンク色の触手の塊がある[1]
  • 声を持たず、象牙を彫った笛を吹いて意思を伝える。笛の音が途絶えたあとも一切物音を立てず、死に際してすら無言のままである[5]
  • ピンク色の触手を強く引っ張られることに著しく弱く、夜鬼がこれを掴んで引っ張ると、苦痛のあまりもがくのをやめてしまう[7]
  • 泳ぐことができない。海に落ちたムーンビーストについて、カーターが観察に基づきこの事実を知っていたことが記されている[8]
  • レンの男を隷属させ、月のルビー鉱山や交易で得たルビーを対価に、人間の奴隷をディラス=リーンで買い付けさせる[2][4]
  • 人間の奴隷のうち「太った者」は品定めのようにつままれたのち木箱に詰めて運び去られ、「痩せた者」は労役に回されるという記述があるが、原文は用途を「食料」と明言しておらず、家畜的な選別を思わせる描写にとどまる(推測の域を出ない点に注意)[9]

神格としての体系的な位置づけは無い。ラヴクラフト自身は本作の中で、ムーンビーストを外なる神・旧支配者などの分類に位置づけていない。登場するのはあくまで夢の国の月に住む一種族としてであり、ニャルラトホテプに直接仕える神格級の存在としては描かれない。ただし、レンの男とムーンビーストの一団がランドルフ・カーターをニャルラトホテプのもとへ連行しようとする場面があり[4]、両者の間に何らかの主従・使役関係があることは示唆されている(「崇拝」であるとまでは原文からは判断できない)。

ムーンビーストはレンの男を征服・隷属させ、レンの男はターバンで正体を隠しながら人間の交易商人を装って月のルビーを対価に人間奴隷を買い付ける仲介役を務める。物語終盤、カーターは月へ向かう道中で踊る一団を目撃し、彼らがディラス=リーンでルビーを商う黒いガレー船の商人たちと同じ「レンの民」であり、「月の怪物どもの奴隷」であることに気づく[4]。

食屍鬼(グール)とは、当初捕虜として拷問される関係にあったが、カーターに救出された食屍鬼3体の提案により、カーターは食屍鬼の一団に黒いガレー船の漕ぎ方を教え、夜鬼を伴ってムーンビーストの恒久的な拠点「名もなき岩」への奇襲を敢行する。この戦いでは、増援に駆けつけたムーンビーストの別働隊との間で崖上の激戦が繰り広げられ、原文には「この二正面の戦いは空中で三十分にわたって荒れ狂い、西の崖では侵入者たちが完全に殲滅された」との記述がある[6]。

象徴・モチーフとしては、月、ルビー、黒いガレー船、沈黙(声を持たない)、笛の音、奴隷交易が挙げられる。

ダーレス以降の変化

ダーレスによる再解釈・拡張は確認できていない。ムーンビーストは「未知なるカダスを夢に求めて」以外の原典作品に登場せず、オーガスト・ダーレス以降の神話体系でどう扱われたかについて、編集体制のある資料から裏付けられる記述は見つかっていない。

TRPGでの扱い

Paizo社『Pathfinder』第1版『Bestiary 3』(2011年)、Chaosium社『Call of Cthulhu』の追加資料集『Dreamlands』第5版(2004年)などで、原典を踏まえた独自の種族設定(体格・能力値・社会構造)が与えられている。これらは原典にない後世の拡張設定であり、原文からの直接引用は行わない。

日本語のTRPG紹介記事によれば、『新クトゥルフ神話TRPG』第7版の基本ルールブックにも、モンスター資料集『マレウス・モンストロルム』第7版にも収録されていないとされる。ただしこれは単一の紹介記事に基づく情報であり、公式ルールブック本文そのものによる確認は行っていない。

登場作品一覧

作品年作者/発行元この作品が足したもの
未知なるカダスを夢に求めて1926–1927執筆/1943発表H・P・ラヴクラフト唯一の原典。ムーンビーストの初出であり、姿・性質・他種族との関係すべてがここで書かれた[1]〜[9]
Bestiary 32011Paizo社(Pathfinder 第1版)原典にないTRPG用の種族設定(体格・能力値・社会構造)
Dreamlands(追加資料集)2004Chaosium社(Call of Cthulhu 第5版)原典にないTRPG用の種族設定(体格・能力値・社会構造)

関連神格・地域・書物

種族・存在

  • 食屍鬼(グール) — 当初は捕虜を拷問する関係だったが、カーターの仲介で同盟し、ムーンビーストの拠点を共に奇襲する
  • 夜鬼(ナイトゴーント) — 食屍鬼と共にムーンビーストの拠点を奇襲。ムーンビーストの弱点であるピンク色の触手を掴んで無力化する[7]
  • ニャルラトホテプ — 原典では、捕らえられたカーターがレンの男とムーンビーストの一団によってニャルラトホテプのもとへ連行されそうになる一場面のみに登場。明確な信仰関係としては描かれない
  • レンの男 — ムーンビーストに隷属させられ、人間の奴隷交易を仲介する人間の一族。単独の記事が無いためリンクしない

地域

  • ディラス=リーン — 黒いガレー船がルビーを対価に人間奴隷を取引する幻夢境の港[2]
  • インガノク付近の「名もなき岩」 — ムーンビーストの恒久的な拠点。単独の記事が無いためリンクしない

書物・原典

参考文献

  • [1] “great greyish-white slippery things which could expand and contract at will, and whose principal shape—though it often changed—was that of a sort of toad without any eyes, but with a curiously vibrating mass of short pink tentacles on the end of its blunt, vague snout.”(訳:「灰白色でぬめった、意のままに伸縮する存在で、その主な姿——しばしば変化するが——は目を持たない蛙のようなものであり、鈍く曖昧な鼻面の先端には短いピンク色の触手の振動する塊があった」) — H. P. Lovecraft, “The Dream-Quest of Unknown Kadath”(1926–1927年執筆/1943年発表), 公式アーカイブ
  • [2] “Dylath-Leen would never have tolerated the black galleys had such rubies been obtainable elsewhere, but no mine in all earth’s dreamland was known to produce their like.”(訳:「もし他所でルビーが手に入るなら、ディラス=リーンは決して黒いガレー船を許容しなかっただろう。だが地上の夢の国のいかなる鉱山も、これに類するルビーを産することは知られていなかった」) — 同上
  • [3] “that grey accursed rock which Inganok’s seamen shun, and from which vile howlings reverberate all through the night.”(訳:「インガノクの船乗りたちが避ける、あの灰色の忌まわしい岩。そこからは夜通し忌まわしい遠吠えが反響する」) — 同上(原文表記は Inganok。資料によっては Inquanok とも表記される)
  • [4] “For the cryptic folk of Leng were of one race with the uncomfortable merchants of the black galleys that traded rubies at Dylath-Leen; those not quite human merchants who are the slaves of the monstrous moon-things!”(訳:「なぜならレンの謎めいた民は、ディラス=リーンでルビーを商う黒いガレー船の、あの居心地の悪い商人たちと同じ種族だったからだ——あの、月の怪物どもの奴隷である、人間とは言い切れない商人たちと!」) — 同上
  • [5] “Certain of the toad-things produced disgustingly carven flutes of ivory and made loathsome sounds. … these toad-things had no voices, and the slaves did not talk. … the toad-things made never a sound as their stinking green ichor oozed fatally upon that porous earth.”(訳:「ムーンビーストの何体かが、忌まわしく彫刻された象牙の笛を取り出し、いとわしい音を立てた。……このムーンビーストたちは声を持たず、奴隷たちも喋らなかった。……ムーンビーストたちは、その悪臭を放つ緑の体液が多孔質の大地に致命的ににじみ出る間も、一切物音を立てなかった」) — 同上
  • [6] “For half an hour this dual battle raged in the sky, till upon the west cliff the invaders were completely annihilated.”(訳:「この二正面の戦いは空中で三十分にわたって荒れ狂い、西の崖では侵入者たちが完全に殲滅された」) — 同上
  • [7] “When a moon-beast writhed too violently, a night-gaunt would seize and pull its quivering pink tentacles; which seemed to hurt so much that the victim would cease its struggles.”(訳:「ムーンビーストがあまりに激しくもがくと、夜鬼はその震えるピンク色の触手を掴んで引っ張った。それはあまりに苦痛が大きいようで、被害者はもがくのをやめるのだった」) — 同上
  • [8] “Once or twice something seemed to fall from the thinning swarm into the sea; but Carter did not worry, since he knew from observation that the toad-like moon-beasts cannot swim.”(訳:「一度か二度、薄くなっていく群れから何かが海へ落ちるように見えたが、カーターは心配しなかった。というのも、蛙のようなムーンビーストが泳げないことを、観察によって知っていたからだ」) — 同上
  • [9] “Some of these slaves—the fatter ones, whom a sort of overseer would pinch experimentally—were unloaded from ships and nailed in crates … the leaner ones toiling and the fatter ones taken away in crates for other needs of their polypous and amorphous masters.”(訳:「これらの奴隷のうち、太った者たちは、一種の監督役に品定めするようにつままれ、船から降ろされて木箱に釘付けにされた……痩せた者は労役にあてられ、太った者は、そのタコのような無定形の主人たちの別の用途のために木箱に詰めて運び去られた」) — 同上

FAQ

Q. ムーンビーストは人間の奴隷を「食料」にしているのですか。A. 断定はできません。原文には、買われた人間奴隷のうち「太った者」が品定めのようにつままれたのち木箱に詰めて運び去られ、「痩せた者」が労役に回される、という記述があり、家畜のように扱う描写ではありますが、「食料にする」と明言する一文は原文中に見当たりません。ファンサイトの一部には「糧食」と明記する記述もありますが、これは原典本文そのものではなく、ファンによる解釈を含んだ紹介の可能性があるため、本記事では推測にとどめています。

Q. ムーンビーストはクトゥルフ神話TRPGの最新版に登場しますか。A. 日本語のTRPG紹介記事によれば、『新クトゥルフ神話TRPG』第7版の基本ルールブックにも、モンスター資料集『マレウス・モンストロルム』第7版にも収録されていないとされます。ただしこれは単一の紹介記事に基づく情報であり、公式ルールブック本文そのものによる確認は行っていません。

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