概要
編集部注(拡張神話): 本記事が扱うゾス=オムモグは、H・P・ラヴクラフト存命期のパブリックドメイン原典には登場しません。リン・カーターがゾス神話群(Xothic Legend Cycle、1971〜1981年)で創造した、後年の拡張神話に属する存在です。これらの作品は現時点でパブリックドメインではないため、本記事は原文からの引用を一切行わず、公知の設定情報の要約のみで構成しています。各作品の書誌情報(著者・発表年・出版社)は書誌データベースISFDBの記録で確認していますが、作中の具体的な描写については当サイトで原文を照合できていません。そのため、複数の資料が繰り返し伝える内容は「通説では」「〜とされる」という形にとどめ、当サイトが未確認である旨と区別して記載しています。
ゾス=オムモグは、クトゥルフ神話に登場する旧支配者のひとつである。ラヴクラフト自身の作品には登場せず、後継作家リン・カーターが自らのゾス神話群(Xothic Legend Cycle、五部作)で創造した存在で、クトゥルフの第三子としてポナペ島沖の海底に封じられているとされる。固有名・設定そのものはカーターによる完全な後付けである。
ゾス=オムモグが登場する物語のうち最も早く発表されたのは、1976年にDAW Books社のアンソロジー『The Disciples of Cthulhu』へ収録された中編「Zoth-Ommog」である[1]。この作品は後年、決定版作品集『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』(Chaosium、1997年)に「The Horror in the Gallery」(陳列室の恐怖)の題であらためて収められている[2]。旧稿が原型として挙げていた「時代よりの光」(Out of the Ages、1975年)も、実際にはラヴクラフトではなくリン・カーター自身の作品であることが書誌データベースISFDBで確認できる[3]。ラヴクラフト自身の作品でゾス=オムモグの遠い起点となりうるのは「クトゥルフの呼び声」のみであり、原型の典拠はそこに絞って記す。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 旧支配者(カーターによる体系化上の位置づけ) |
| 欧文表記 | ZOTH-OMMOG |
| 表記ゆれ | 「ゾスオムモグ」「ゾス=オムモグ」の両方が見られる。固有の異名は確認されていない |
| 封印場所 | ポナペ島(太平洋)沖、ルルイエに近い海底 |
| 配下 | 「父なるウブ」および蠕虫状の眷属ユッグ族 |
初出作品
ゾス=オムモグが登場する物語群「Xothicレジェンド・サイクル(Xothic Legend Cycle)」は、リン・カーターが1971年から1981年にかけて発表した中短編5篇からなる。書誌データベースISFDB(The Internet Speculative Fiction Database)のタイトルレコードによれば、内訳は次の通りである。
- 「The Dweller in the Tomb」(1971年) — 初出はオーガスト・ダーレス編アンソロジー『Dark Things』(アーカム・ハウス)[7]
- 「時代よりの光」(Out of the Ages、1975年) — 初出はジェラルド・W・ペイジ編『Nameless Places』(アーカム・ハウス)[3]
- 「Zoth-Ommog」(1976年) — 初出はエドワード・P・バーグランド編『The Disciples of Cthulhu』(DAW Books)[1]
- 「The Thing in the Pit」(1980年) — 初出はカーター自身の作品集『Lost Worlds』(DAW Books)[7]
- 「ウィンフィールドの相続」(The Winfield Heritance、1981年) — 初出はカーター自身が編者を務めたアンソロジー『Weird Tales #3』(Zebra Books)[4]
5篇はいずれもリン・カーターの単独作であり、ラヴクラフト自身の執筆ではない。このうちゾス=オムモグ自身が登場するのは「時代よりの光」「Zoth-Ommog」「ウィンフィールドの相続」の3篇である。
ゾス=オムモグの初出は、ISFDBの記録上は1976年の中編「Zoth-Ommog」である[1]。この作品は後年、決定版作品集『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』(Chaosium、1997年)に「The Horror in the Gallery」(陳列室の恐怖)の題であらためて収録されている[2]。ただしISFDB上ではこの2つの題がそれぞれ独立したタイトルレコードとして登録されており、異題(variant title)としての相互リンクは無い。複数の二次的な紹介記事は、執筆時の原題が「陳列室の恐怖」で、1976年のDAW版収録に際して「Zoth-Ommog」へ改題され、1997年の決定版で原題に復したと伝えているが、この改題の経緯そのものを当サイトは一次的な書誌資料では確認できていない。
原典での描写
ゾス=オムモグという固有名は、ラヴクラフト自身の作品には一度も登場しない。原典に直接の記述はない。ラヴクラフト作品の公式アーカイブ(hplovecraft.com)が公開する作品一覧にも、Zoth-Ommog・The Horror in the Gallery・Out of the Ages・The Winfield Heritanceのいずれも掲載されていない[5]。
現行資料は、クトゥルフを父とする子孫という設定の遠い起点をラヴクラフトの「クトゥルフの呼び声」に求めているが、これはクトゥルフというキャラクター自体の初出を指すにとどまる。ゾス=オムモグの姿・権能・系譜といった具体的な設定はすべて、ラヴクラフトの死後にカーターが付け加えたものである。
ダーレス以降の変化
見出しは「ダーレス以降」だが、ゾス=オムモグの成立にオーガスト・ダーレス自身が関わったことを示す記述は現行本文に無い。実際にこの神格を体系化したのはリン・カーターであり、後にブライアン・ラムリーが系譜を補強した。ただし、Xothicレジェンド・サイクル最初の一篇「The Dweller in the Tomb」(1971年)はダーレス自身が編者を務めたアンソロジー『Dark Things』(アーカム・ハウス)に初出しており、出版の面ではダーレスと接点がある[7]。
- 系譜: カーターの設定では、クトゥルフと配偶神イダ=ヤー(ゾス星系における配偶神)の間に生まれた四兄妹――長男ガタノトーア、次男イソグタ、三男ゾス=オムモグ、末妹クティーラ――の一柱として位置づけられる。ただしこの血縁体系そのものが、ラヴクラフトの原典には存在しない後世の創作である
- 成立順序: ラヴクラフトが最初に創造したのはガタノトーアのみで、カーターが後にイソグタ・ゾス=オムモグを加えて「ゾス三神」とし、さらにラムリーが末妹クティーラを追加したという順序が、日本の神話研究では整理されている
- 姿: 円錐形の胴体、ティラノサウルスを思わせる牙の生えた爬虫類的な頭部、吸盤を備えた四本の扁平なヒトデ状の腕、触手の鬣(たてがみ)を持つと描写される。移動方法は不明だが、イースの大いなる種族に似たナメクジ状の足を持つ可能性が示唆されている
- 封印: ルルイエ近郊、ポナペ島沖の海底に旧神によって封印されている。同じく封印された兄イソグタとともに、「父なるウブ」および蠕虫状のユッグ族に仕えられる(「父なるウブ」とウボ=サスラが同一存在かどうかは現行本文からは確認できない)
- 眷属の働き: ユッグ族は、封印を解こうと人間に知識・富・権力を夜ごと囁きかけ、堕落させようとする
- 人間への干渉: 夢を介して人間に意志を伝える力を持つとされ、その力を込めた偶像(ポナペ・フィギュリン)を通じて人間を狂気に導く挿話がある(「ウィンフィールドの相続」)
- 象徴・モチーフ: 深海、眠りと封印、太平洋の孤島(ポナペ)、夢を介した意志の伝播
- 系譜資料の分散: 設定資料は、架空の魔導書「無名祭祀書」「ポナペ経典」「ザントゥの石板」、およびカーター独自版のネクロノミコンに分散して記載される体裁を取っている。カーター版ネクロノミコンでは、アブドゥル・アルハザードがクトゥルフの子として「(1)ガタノトーア (2)イソグタ (3)ゾス=オムモグ (4)口にするのもはばかられるもの」と列挙しており、この4番目の記述が後にラムリーによって具体化されるクティーラの存在を暗示しているとする指摘もある
TRPGでの扱い
現行本文で確認できるTRPG側の記述は一点のみで、それ以上の設定は確認できていない。
公式TRPG(クトゥルフ神話TRPG)の紹介では、封印が長い年月を経て緩んでいるのか、地上で確認される現象が単なる教団による一時的召喚に過ぎないのかは意図的に曖昧にされている[6]。
登場作品一覧
| 作品 | 年 | 作者 | この作品が足したもの |
|---|---|---|---|
| 時代よりの光(Out of the Ages) | 1975 | リン・カーター[3] | ポナペを巡る考古学的探求 |
| Zoth-Ommog(後年「陳列室の恐怖」の題でも刊行) | 1976 | リン・カーター[1][2] | ゾス=オムモグの初出 |
| ウィンフィールドの相続(The Winfield Heritance) | 1981 | リン・カーター[4] | ポナペ・フィギュリンを巡る挿話 |
「ウィンフィールドの相続」では、ハロルド・ハドリー・コープランド教授とヘンリー・スティーヴンソン・ブレインという2人の人物が、ゾス=オムモグの偶像「ポナペ・フィギュリン」に触れて狂気に陥る様子が描かれる。物語終盤、ブレインの助手が投げた「古の印」の星石によって、像は像を狙う深きものどもごと破壊される。ダーレスの「閾を守る者」やセネカ・ラファム教授といった、他作家の作品との地続き感を意識した書かれ方をしている点が、この作品を扱った英語圏の書評でも指摘されている[4]。
日本語圏の複数の紹介記事は、2014年刊とされる邦訳作品集『クトゥルーの子供たち』の刊行以前、クトゥルフの子とされる三兄弟のうちガタノトーアだけが広く知られ、イソグタ・ゾス=オムモグの知名度は長らく低かったと伝えている。ただし、この邦訳書の刊行時期そのものについて、当サイトは出版社等の一次資料での確認ができていない。
関連神格・地域・書物
神格・種族
- クトゥルフ — 父とされる旧支配者
- ガタノトーア — 長兄。四兄妹のうちラヴクラフトが創造した唯一の存在
- イソグタ — 次兄。同じくポナペ島沖に封じられ、「父なるウブ」とユッグ族という同じ配下を共有する
- クティーラ — 末妹。ブライアン・ラムリーが後年追加
- イダ=ヤー — 母。ゾス星系でクトゥルフと交わったとされる配偶神
地域
- ポナペ島(太平洋) — 封印場所。単独記事は現行では確認できていない
書物
参考文献
- [1] Lin Carter, “Zoth-Ommog”(中編)。著者・発表年月・初出誌は、書誌データベースISFDB「Zoth-Ommog」Title Record #93794で確認済み(該当ページ)。初出はエドワード・P・バーグランド編アンソロジー『The Disciples of Cthulhu』(DAW Books、DAW Collectors #213、1976年10月)。
- [2] Lin Carter, “The Horror in the Gallery”(中編)。ISFDB「The Horror in the Gallery」Title Record #555061によれば、この題での初出は1997年、Chaosium社の決定版作品集『The Xothic Legend Cycle: The Complete Mythos Fiction of Lin Carter』(Cthulhu Cycle #13)(該当ページ)。同レコードは上記[1]の「Zoth-Ommog」と異題(variant title)としては相互リンクされておらず、両者が同一の作品かどうかをISFDBの記録構造だけからは確認できない。両者を同一作品の改題とする説明は複数の二次的な紹介記事に見られるが、当サイトはこの改題の経緯自体を一次的な書誌資料では確認できていない。
- [3] Lin Carter, “Out of the Ages”(中編、1975年)。ISFDB Title Record #79226によれば、初出はジェラルド・W・ペイジ編アンソロジー『Nameless Places』(アーカム・ハウス、1975年)(該当ページ)。
- [4] Lin Carter, “The Winfield Heritance”(中編、1981年)。ISFDB Title Record #77373によれば、初出はカーター自身が編者を務めたアンソロジー『Weird Tales #3』(Zebra Books、1981年、原著初出誌ではなく後年の書き下ろしアンソロジー)(該当ページ)。作中人物・プロット・ポナペ・フィギュリンの扱いの紹介は、H・P・ラヴクラフト再読企画の書評記事 Anne M. Pillsworth & Ruthanna Emrys, “Cthulhu and Sons: Lin Carter’s ‘The Winfield Heritance'”(Reactor、2017年5月24日)による(該当記事)。
- [5] ラヴクラフト作品の公式アーカイブ hplovecraft.com の「Writings: Texts」一覧に、Zoth-Ommog・The Horror in the Gallery・Out of the Ages・The Winfield Heritanceのいずれも掲載されていないことを確認した(該当ページ)。
- [6] クトゥルフ神話TRPG公式サイト(KADOKAWA)「(17)ゾス=オムモグ」(該当ページ)。
- [7] Lin Carter, “The Dweller in the Tomb”(1971年)は ISFDB Title Record #94365(初出はオーガスト・ダーレス編『Dark Things』、アーカム・ハウス)、”The Thing in the Pit”(1980年)は ISFDB Title Record #274391(初出はカーター自身の作品集『Lost Worlds』、DAW Books)でそれぞれ確認済み。いずれもゾス=オムモグ自身は登場しない(前者はイソグタとザントゥの石板、後者は別の存在を扱う)ため、本稿では書誌情報の確認にとどめる。
上記のほか、系譜(母イダ=ヤー、妹クティーラとの関係)や、架空文献「無名祭祀書」「ポナペ経典」「ザントゥの石板」・カーター版ネクロノミコンへの言及、および日本語圏での知名度に関する記述は、複数の二次的な紹介記事に基づく通説として本文中に「とされる」等の形で残しており、当サイトが一次資料で個別に裏づけたものではない。「陳列室の恐怖」「時代よりの光」「ウィンフィールドの相続」の本文からの直接引用は、原文が未確認のため本稿には含めていない。
FAQ
Q. ゾス=オムモグはラヴクラフトが創造した神格ですか? A. いいえ。ラヴクラフト自身の作品には登場しません。後継作家リン・カーターが、ラヴクラフトの「クトゥルフの呼び声」を下敷きにしつつ、ゾス神話群(Xothic Legend Cycle)で新たに創造した神格です。
Q. クトゥルフの子とされる兄弟姉妹は全員同じ作者が作ったのですか? A. いいえ。長兄ガタノトーアはラヴクラフト創造ですが、次兄イソグタと三男ゾス=オムモグはリン・カーターが追加し、末妹クティーラはさらに後年ブライアン・ラムリーが追加したもので、成立時期の異なる複数作家による積み重ねです。
Q. 現在も封印は有効なのですか? A. 公式のTRPG設定でも意図的に曖昧にされており、封印が長期にわたり緩んでいるとする説と、地上で確認される現象は教団による一時的な召喚にすぎないとする説の両方が並立しています。





