概要
クトゥルフやハスターなどに代表される、宇宙から到来した存在[1]。死せる状態でルルイエ等に幽閉されているが[2]、人間の精神に影響を及ぼし[4]復活の時を待つ[3]。
原典での描写
「旧支配者」は原文では”Great Old Ones”と”Old Ones”の二通りの語形で現れ、後者は作品ごとに指すものが違う。以下は執筆順に、それぞれの作品でこの語がどの存在を指し、どちらの語形が使われているかを示す。
クトゥルフの呼び声(1926年夏)
老人カストロの証言の場面で、「大いなる旧きものども(Great Old Ones)」という語が使われる。地球に人類が生まれるより遥か以前から存在し、星から若き世界へ到来した存在群という設定は、この場面でほぼ語り尽くされる[5]。同じ証言はすぐ後で、この存在群を単に「Old Ones」と略しても呼ぶ。クトゥルフは、その旧支配者のひとりとしてルルイエの館に眠るとされる。
ダニッチの怪(1928年夏)
ダニッチの怪では、アーミテージ博士が読み解くネクロノミコンの一節に「Old Ones」が登場する。「旧きものどもはあった、旧きものどもはある、旧きものどもはあるだろう」と説き、彼らが歩むのは人間の知る空間ではなくその狭間であり、ヨグ=ソトースがその門を知る者だと続く[6]。この場面で使われるのは「Old Ones」のみで、「Great Old Ones」という語形は本文に見られない。
墳丘(1929年12月〜1930年初頭)
墳丘では、地底に住む種族が「Old Ones」と呼ばれる。彼らは星から地球へ、まだ若かった世界に降り立ち、地表がまだ棲むに適さなかったため地中に入って黄金の都市を築いたと囁かれ、かつては地上にも植民地を持って各地の人々と交易していたが、大地が海に沈んだ時代を境に地上との関わりを絶ったと語られる[7]。この一節にも「Great Old Ones」という語形は現れない。
狂気の山脈にて(1931年2月〜3月22日)
狂気の山脈にてには、太古の地層から出た化石を前に、地質学者レイクが「星から地球へ滴り落ち、いたずらか誤りで地球の生命を作り上げたと伝わる大いなる旧きものどもの原初神話」を連想する場面がある。物語終盤、語り手はこの生物こそ伝承にいう「大いなる旧きものども(Great Old Ones)」そのものだったと結論づける[8]。本文で「Great Old Ones」という語形が使われるのはこの二か所のみで、それ以外は一貫して「Old Ones」と呼ばれる。
以降大半を占める「Old Ones」は、当サイトが古のものとして記録する、樽形の体に翼と五本の触手を持つ種族を指す。彼らは南極の海底に都市を築き、労働力として創り出した粘体ショゴスを使役しながら都市を陸へ、氷期の到来とともにふたたび地底の海へと移していった過程が、彫刻に刻まれた記録として詳しく描かれる。家族という単位を持たず、共同体は空間の使いやすさと知的な親交を軸に営まれていたとも記される[9]。
インスマスの影(1931年11月?〜12月3日)
インスマスの影には「Old Ones」が二か所に現れる。ひとつは南洋のカナカ族が伝える印を「失われた旧きものども(the lost Old Ones)」の徴だったのだろうと推測する場面、もうひとつは深きものどもを「忘れられた旧きものども(the forgotten Old Ones)」の太古の魔術がかつて食い止めたことがあると語る場面である[10]。いずれの一節も、この「Old Ones」が具体的にどのような存在かは説明しない。
博物館の恐怖(ヘイゼル・ヒールドとの共作、1932年10月)
博物館の恐怖では、興行師ロジャーズが人質に叫ぶ台詞のなかに一度だけ「Old Ones」が出てくる。「それが死ねば旧きものどもは二度と戻れない」という叫びのみで、旧きものどもの姿や性質は語られない[11]。
時間からの影(1934年11月〜1935年3月)
時間からの影では、〈偉大なる種族〉の歴史記述のなかに、南極を拠点とした「翼を持ち星のような頭をした旧きものども(the winged, star-headed Old Ones)」との戦争に触れる一節がある[12]。狂気の山脈にてで描かれた古のものと同じ種族を指すとみられるが、この作品自体が彼らの姿や社会を新たに描写することはない。
暗闇の悪魔(1935年11月)
暗闇の悪魔には、〈輝くトラペゾヘドロン〉の来歴を語る場面に一度だけ「Old Ones」が現れる。それが暗きユゴスで作られた後、旧きものどもによって地球にもたらされたとだけ記され、この場面でも旧きものどもの実体には触れない[13]。
基本プロフィール
- 分類: 概念
- 欧文表記: GREAT OLD ONES
- 初出・出典: クトゥルフの呼び声(1926年執筆/1928年発表)
由来と歴史 / 詳細設定
「旧支配者(Great Old Ones)」という語自体はラヴクラフト本人の「クトゥルフの呼び声」に既に登場する[1]が、四元素説や善悪二元論(旧神との対立)を伴う体系化は、ラヴクラフトの死後、オーガスト・ダーレスやその他の作家たちによって付け加えられた歴史がある。
性質と影響
人類の歴史が地球の歴史において極めて短く些細なものであることを示し、人間中心主義的な文明の脆さを暴くための巨視的ギミックとして機能する。
関連する用語
当サイトが「旧支配者」として記録している神格
当サイトの神格記事のうち、旧支配者に分類しているものを一覧にする。内訳は原典19/ダーレス以降13/後世の拡張7である。
この一覧には39柱を収めている。なおヒュドラ(カットナー版)は、資料によってローカルな旧支配者とも外なる神とも扱われる。当サイトはどちらの一覧にも載せているため、この1柱は旧支配者・外なる神の両方に数えている。
この分類そのものが原典に無いことを、先に断っておきたい。ラヴクラフトは存在同士の上下関係も敵対関係も定めなかった。分類を整えたのはオーガスト・ダーレス以降の世代である。各行の「生まれた層」は、その神格の名前が最初に現れた時期を指す。
| 名称 | 生まれた層 | 概要 |
|---|---|---|
| アイホート | 後世の拡張 | ラムジー・キャンベルが創造したクトゥルフ神話の旧支配者。地下の迷路に潜み、出会った人間に… |
| アトラク=ナクア | 原典 | 地底の深淵で無限の糸を紡ぎ、世界を繋ぐ蜘蛛の姿をした旧支配者。 |
| アフォーゴモン | 原典 | 異星の都カロードに祀られる「分と周期の神」。時間律を犯した神官には、鎖と業火による永劫の… |
| アブホース | 原典 | 地底の深淵に潜む「不浄の源泉」。絶え間なく不気味な落とし子を生み出す粘液の池。 |
| イオド | 後世の拡張 | ヘンリー・カットナーが創造した「輝ける追跡者」「魂の狩人」。人間の魂を狩ることを楽しむと… |
| イグ | 原典 | 「蛇の祖神」。インディアンの伝承に現れる、親しみやすさと冷酷さを併せ持つ蛇の父親。 |
| イゴロナク | ダーレス以降 | 頭部を持たず、両掌に濡れた赤い口を持つ旧支配者。名を知り姿を目にした者を狂気と堕落へ誘う… |
| イソグタ | ダーレス以降 | リン・カーターが「ゾス神話群」で創造した「魔王三神」の第二子。ラヴクラフト作品には一度も… |
| イタカ | ダーレス以降 | 極北の荒野を彷徨う「風に乗りて歩むもの」。氷点下の狂気と孤独を司る冬の巨神。 |
| イダ=ヤー | ダーレス以降 | クトゥルフの配偶神とされる「強大なる母」。ラヴクラフト自身の原典には登場せず、リン・カー… |
| ガタノソア | 原典 | 目撃した者を意識ある死のまま石化させる、ムー大陸に封じられた恐怖の神。クトゥルフとの血縁… |
| クティラ | ダーレス以降 | クトゥルフの「秘密の種」。原典に外見描写はなく、後年のファン創作を経て翼ある頭足類として… |
| クトゥグア | ダーレス以降 | フォーマルハウトに幽閉された、生ける炎の巨神。あらゆる物質を焼き尽くす純粋な破壊の力。 |
| クトゥルフ | 原典 | 南太平洋の海底都市ルルイエに幽閉され、星辰が正しき位置に至る日を待ちながら眠り続ける旧支… |
| グラーキ | ダーレス以降 | 隕石とともに飛来し、イングランドの湖底に潜む棘だらけの旧支配者。犠牲者を金属の棘で貫き、… |
| ゴル=ゴロス | 原典 | 孤島の都バル=サゴスの最高神。影の神殿に鎮座する破壊不能の巨像として君臨し、血の供犠を受… |
| ザー | ダーレス以降 | アルクトゥルスから飛来したとされる、盟友ロイガーと共に「双子の醜悪」と呼ばれる旧支配者。 |
| シアエガ | 後世の拡張 | エディ・C・ベルタンが短編「Darkness, My Name Is」(1976年)で創… |
| シュド=メル | ダーレス以降 | 地下深部を掘り進む巨大な頭足類状の怪物。クトーニアンたちの至高の長。 |
| ズヴィルポググーア | 後世の拡張 | ツァトゥグァとシャタクの子とされる、翼ある蟇蛙のごとき姿の存在。アメリカ先住民の伝承では… |
| ゾス=オムモグ | ダーレス以降 | クトゥルフ神話に登場する旧支配者ゾス=オムモグを解説。リン・カーターの「ゾス神話群」で創… |
| ダゴン | 原典 | 深きものどもの首魁とされる海神。原典ではクトゥルフとの関係が明言されないまま、後世の設定… |
| チャウグナー・フォーン | 原典 | 山奥の石像として眠る、ゾウに似た不気味な吸血巨神。時間とともに目覚める悪夢。 |
| ツァトゥグァ | 原典 | 黒暗のクン=ヤンやサイカノーシュに住まう、怠惰なる蛙形の旧支配者。 |
| ニョグタ | 原典 | 「暗黒に住まうもの」「あるべからざるもの」。旧きものたちの同胞とされ、鉄の円盤の下に潜み… |
| ノフ=ケー | 原典 | 極北の氷雪に住むとされる存在。原典では「北極星」に食人種族として、「博物館の恐怖」に角を… |
| ハスター | 原典 | 単一の作者ではなく、ビアス・チェンバース・ラヴクラフト・ダーレスら複数の作家の手を幾重に… |
| バイアティス | 後世の拡張 | ロバート・ブロックが1935年に名のみを言及し、後にラムジー・キャンベルが1964年の短… |
| バグ=シャッシュ | ダーレス以降 | 無数の目と口に覆われた黒く粘つく塊。死者に口づけて蘇生させ、その肉体を支配する。 |
| ヒュドラ(カットナー版) | ダーレス以降 | ヘンリー・カットナーが短編「ヒュドラ」で創造した、無数の生首が浮かぶ灰色の海。「インスマ… |
| フジウルクォイグムンズハー | 後世の拡張 | クラーク・アシュトン・スミスが「土星への扉」で創造した、頭部が体に対して逆さに据えられた… |
| ボクルグ | 原典 | 「大いなる水蜥蜴」。イブの古代種族から崇拝され、彼らを滅ぼしたサarnathの街に復讐し… |
| ムノムクア | 後世の拡張 | 幻夢境の月に囚われ、月下に広がる黒湖ウボスを統べるとされる爬虫類状の神格。リン・カーター… |
| モルディギアン | 原典 | 遠未来大陸ゾティークの都ズル=バ=サイルを統べる屍食の神。死者のみを請求し生者に関知しな… |
| ラーン=テゴス | 原典 | ユゴスより到来し北極の廃都に眠っていた両生の神。蝋人形館の奥に持ち帰られ、「像か実在か」… |
| リム・シャイコース | 原典 | 巨大な氷山ユイキルスに乗って南下し、行く手のすべてを死の寒冷で凍らせる、白く肥大した蟲の… |
| ロイガー | ダーレス以降 | 盟友ザーと共に「双子の醜悪」と呼ばれる、無数の触手を持つ巨大な有翼の旧支配者。強風を操る… |
| ヴルトゥーム | 原典 | クラーク・アシュトン・スミス『ヴルトゥーム』(Weird Tales 1935年9月号)… |
| 母なるヒュドラ | 原典 | 「インスマスの影」で確立された、父なるダゴンと対をなす深きものどもの女神。同名だが無関係… |
神格をまとめて引きたい場合はクトゥルフ神話 神一覧へ。分類用語の整理は旧支配者・外なる神・旧神——神格の分類用語を整理する、層の考え方は三層で読み解くクトゥルフ神話にある。
出典
- [1] “They worshipped, so they said, the Great Old Ones who lived ages before there were any men, and who came to the young world out of the sky.”(訳: 「彼らが崇拝していたのは、人類が存在するより遥か以前から生き、若き世界へ空から到来した旧支配者(グレート・オールド・ワンズ)であったという」) — H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表), hplovecraft.com ↩
- [2] “until the time when the great priest Cthulhu, from his dark house in the mighty city of R’lyeh under the waters, should rise and bring the earth again beneath his sway.”(訳: 「大いなる神官クトゥルフが、水底に沈んだ大いなる都市ルルイエの暗き館より立ち上がり、再び地球をその支配下に置く時まで」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [3] “These Great Old Ones… were not composed altogether of flesh and blood. They had shape… but that shape was not made of matter. When the stars were right, They could plunge from world to world through the sky. … They talked in Their tombs.”(訳: 「この旧支配者たちは……完全に肉と血だけからできているのではなかった。形は持っていたが……その形は物質でできてはいなかった。星辰が正しい配置になれば、彼らは空を通って世界から世界へと飛び移ることができた。……彼らは墓の中で語り合った」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [4] “When, after infinities of chaos, the first men came, the Great Old Ones spoke to the sensitive among them by moulding their dreams.”(訳: 「無限の混沌を経て最初の人類が現れたとき、旧支配者たちは、感応しやすい者たちに夢を形作ることで語りかけた」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [5] “They worshipped, so they said, the Great Old Ones who lived ages before there were any men, and who came to the young world out of the sky. Those Old Ones were gone now, inside the earth and under the sea.”(訳: 「彼らが崇拝していたのは、人類が生まれるより遥か以前から存在し、若き世界へ空から到来した大いなる旧きものどもだったという。その旧きものどもは今はもう、地の底と海の底に去っている」) — H. P. Lovecraft, “The Call of Cthulhu”(1926年執筆/1928年発表), hplovecraft.com ↩
- [6] “The Old Ones were, the Old Ones are, and the Old Ones shall be. Not in the spaces we know, but between them, They walk serene and primal, undimensioned and to us unseen.”(訳: 「旧きものどもはあった、旧きものどもはある、旧きものどもはあるだろう。彼らが歩むのは我々の知る空間にではなく、その狭間であり、静穏に、太古のままに、次元を超え、我々には見えぬ姿である」) — H. P. Lovecraft, “The Dunwich Horror”(1928年夏執筆), hplovecraft.com ↩
- [7] “It was whispered that the Old Ones had come down from the stars to the world when it was very young, and had gone inside to build their cities of solid gold because the surface was not then fit to live on.”(訳: 「旧きものどもは星から、まだ若かった世界に降り立ち、地表がまだ棲むに適さなかったため地中に入って黄金の都市を築いたのだと囁かれていた」) — H. P. Lovecraft for Zealia Bishop, “The Mound”(1929年12月〜1930年初頭執筆), hplovecraft.com ↩
- [8] “…the Great Old Ones that had filtered down from the stars when earth was young…”(訳: 「地球がまだ若かった頃に星から滴り落ちてきた大いなる旧きものども」) — H. P. Lovecraft, “At the Mountains of Madness”(1931年2月〜3月22日執筆), hplovecraft.com ↩
- [9] “…the Old Ones had no biological basis for the family phase of mammal life…”(訳: 「旧きものどもには哺乳類的な家族の段階を営む生物学的根拠がなかった」) — 同上, hplovecraft.com ↩
- [10] “Prob’ly them was the Old Ones’ signs.”(訳: 「おそらくあれは旧きものどもの印だったのだろう」)/”The Deep Ones could never be destroyed, even though the palaeogean magic of the forgotten Old Ones might sometimes check them.”(訳: 「深きものどもは決して滅ぼされ得なかったが、忘れられた旧きものどもの太古の魔術が、ときにそれを食い止めることもあった」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow over Innsmouth”(1931年11月?〜12月3日執筆), hplovecraft.com ↩
- [11] “It is starving down there beyond that door, and if It dies the Old Ones can never come back.”(訳: 「扉の向こうでそれは飢えている。もしそれが死ねば、旧きものどもはもう二度と戻ってこられない」) — H. P. Lovecraft for Hazel Heald, “The Horror in the Museum”(1932年10月執筆), hplovecraft.com ↩
- [12] “…the winged, star-headed Old Ones who centred in the Antarctic…”(訳: 「南極を拠点とした、翼を持ち星のような頭をした旧きものども」) — H. P. Lovecraft, “The Shadow out of Time”(1934年11月〜1935年3月執筆), hplovecraft.com ↩
- [13] “…it was fashioned on dark Yuggoth, before ever the Old Ones brought it to earth.”(訳: 「それは暗きユゴスで作られ、その後に旧きものどもによって地球にもたらされた」) — H. P. Lovecraft, “The Haunter of the Dark”(1935年11月執筆), hplovecraft.com ↩






